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あばよ! ですわ!2

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「きちんと近辺整理をしてから、新居に入りたいですからね」

 静かにのたまうクロード様はまさに仕事のできる男。とっても頼り甲斐があってセクシー。
 こんな出来たクロード様と結婚できる人は幸せだわ! 私だけど! 奥様の座は誰にもあげないけど!
 うっとりと見上げていると、困ったように笑って私の頭をポンポンするクロード様。

「だからって! お異母姉様の私への虐めはなくならないわ!」

 まだ諦めないのか、セシリア。
 つーか異母でもなく赤の他人らしいから姉ってもう言わないで欲しいわ。どーりで私と似ていないはずだわ。うちの糞親父とも外見は似てないしなぁ。中身のクソ具合はいい勝負だけど。
 クロード様の手をこれ以上煩わすなら、居直んなさいな。殴り合いも辞さなくてよ。

「虐め、ですか。貴女の方がよほどベアトリーゼを虐めていると思いますが?」

「そんなことしてない! クロードお義兄様もあんまりですわ!」

 大きな目を潤ませ、胸を寄せるようにしながら涙を拭うセシリア。
 毛皮の隙間から見える谷間。白いドレスに押し込まれ、みっちみちに詰まった乳房が窮屈そうに揺れる。
 サイズあってないのでは?
 しかし、そんな仕草にもクロード様は鼻白んだように失笑する。
 ハイハイ、理解理解。合点承知の助。セシリア。アンタそうやって今まで男を騙して、転がり込んで連泊していたのね?
 つーか仮にもクロード様を義兄呼ばわりするつもりなら色仕掛けやめろや。
 やるか? お? お? そのご自慢のお顔に拳をめり込ませてやらぁ。
 シャドウボクシングをしていると、クロード様の頭ポンポンをしてくださったので大人しくした。
 いっけなーい! 殺意殺意! うっかり闘志がバーニング!

「スタールビーのブローチ」

「……?」

「白いワンピースドレス」

「なに?」

「本棚の、たくさんの絵本」

「何よ、何を言っているの!?」

 それは、私にはわかった。
 体が震えた。それは、悲しみを思い出したのか、クロード様の優しさに震えたのか分からない。
 でも、クロード様にはそれは言っていないはず。

「貴女が捨てたり壊したりした、エチェカリーナ様の遺品ですよ。
 使用人たちから聞きました。幼い頃、事あるごとにベアトリーゼの部屋に押し入り、エカチェリーナ様との思い出の品を奪い取っていたそうではないですか」

「知らないわ! 私は知らない! そんな酷いことをしていないわ!」

「自覚がないのですか。それとも記憶にない程に些細過ぎて覚えてすらいないのですか。それは素晴らしい記憶力ですね。
 貴女にはベアトリーゼの大事な物も『その程度』のものだったのでしょう。
 一級品のスタールビーのブローチはどこかに無くして、ガラクタのブローチを押し付けたそうですね。
 白いワンピースは、エチェカリーナ様のドレスを仕立て直した大事な品だったのにそれに悪趣味なリボンで装飾して、下手な針仕事で血まみれの襤褸切れにした。
 幼い思い出がたっぷりとある絵本は勝手に捨てた挙句、本棚に下らない三文小説を詰めたとお聞きしました。
 ベアトリーゼは、貴女に『悪意はない』からと我慢して差し上げたのですよ。
 セシリアは妹だから、ベアトリーゼは姉だから、ダニエルたちは貴女の味方ばかりしているから。
 それに対しての謝罪、今からでも遅くないのでは?
 ベアトリーゼは次期伯爵夫人として、周囲に頭を下げていたというのに」

 無自覚な傍若無人。履き違えた善意と博愛。
 キラキラオールスターズは、ドン引きしているよ。既にセシリアから精神的にも物理的にも離れている。



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