10 / 11
おまけ 国王と家臣と影
しおりを挟む
※ サフィシギルが呼び出される前のお話です。
『こら! エリー! 弁当の中身を摘まみ食いしない!』
『エリー、お菓子零してる。あーもう、ほら、ハンカチ敷くからじっとして』
『こんなところで寝てたら風邪ひくよ、エリー』
『エリー、俺たちはもう子供じゃないんだ。同じベッドで同衾はダメ……ヘタレとか言わないで。ここで手ぇ出したら、俺がキルシュタイン翁に殺される』
『はい、生地はこれで……エリーは首が綺麗だから、鎖骨は見えるデザインで。バッスルスカートもいいな。でもやっぱりこのAライン? プリンセスラインもいいな、ボリュームがあると華やかだ。でもあまりウェストは絞りすぎないでください。締められるの苦手だから』
『お手をどうぞ、エリアーデ嬢。床で本を読むのはほどほどに』
『王位継承権? ……んー、別にいいかな。俺はエリーと時間取れる方がいいし』
映し出された映像が途切れる。
そこに映し出されたのは遊び人と思われてい第三王子のサフィシギルが、婚約者のエリアーデに甲斐甲斐しく尽くす姿がばっちり音声付きで映っていた。
偏食傾向のあるエリアーデの為に栄養バランスの取れた彩豊かなお弁当を詰める姿、朝に弱くまだおねむ状態の婚約者の前に跪いて靴を履かせる姿、プロムナードの衣装のコーディネートを吟味する姿。
当たり前のようにそのお世話を享受するエリアーデの様子は堂に入っている。慣れ切った様子から、常にこうなのだろう。
国王は所謂ゲンドウポーズというものを決めている。宰相も天を仰いでいるし、大臣たちも「アチャー」と言わんばかりだ。
最初からすべてを知っていた王国の『影』は、ただ沈黙を貫く。
国王は一通り唸り終わった後、たっぷり間を置いて影に問う。
「………マジ?」
「マジです」
「めっちゃ遊び人だと思ってたんだけど」
「ガチです」
「サフィシギルだけ? 純愛100%の婚前交渉一切なし、ほっぺやおでこにチューどまり?」
「清く正しいお付き合いです。余りの面倒見の良さからキルシュタイン伯爵家ではママと呼ばれているそうです」
「え……サフィ可哀想……」
「御婚約者様一筋です」
「これ、離婚させたらぐれるやつ?」
「国外に逃亡、もしくはキルシュタインが反旗を翻す恐れがあります。翁のお気に入りですから、サフィシギル様は」
「うん、知ってる。メッチャ婿入り催促されていた」
「そして王族で微塵も例の電……こほん、スピカ・ポラリーに篭絡されなかったので、学園での評判も悪くありません。社交界でもなかなかの評価です。
上手く女性を褒めながら逃げる甘え上手な王子としてね。巧く顔を使い分けています」
「でも立太子したら、キルシュタインのじじいがめっちゃ切れそう。頭いいサフィ大好きだもん、あのジジイ」
「ですね。警戒したサフィシギル殿下は、兄殿下方を反面教師にスピカを撒いたそうです」
「それに比べて嘘だろオイ、上二人。こんな露骨なハニトラに私の息子が二人も引っかかるとか。泣きたい」
「影だってドン引きですよ。遊びだと思ったらガチ恋のお花畑。あの王子たちを立太子したら本気で宰相たちが退職されますよ」
「ああもう、せめてやらかしが早ければ、サフィの婿入り止められたのに……っ」
聡明なのは幼い頃に気づいていた――いつからかサボり癖が付いたと思ったら、一番しっかり文武両道に育ち、婚約者――今は妻と堅実に愛を育んでいたサフィシギル。
婚約者を溺愛しているなんて、さっきの砂吐きしそうな映像を見ればよく分かる。
国王は頭を抱え、とりあえずキルシュタイン伯爵家へと連絡を取らなければならないとため息をついたのだった。
『こら! エリー! 弁当の中身を摘まみ食いしない!』
『エリー、お菓子零してる。あーもう、ほら、ハンカチ敷くからじっとして』
『こんなところで寝てたら風邪ひくよ、エリー』
『エリー、俺たちはもう子供じゃないんだ。同じベッドで同衾はダメ……ヘタレとか言わないで。ここで手ぇ出したら、俺がキルシュタイン翁に殺される』
『はい、生地はこれで……エリーは首が綺麗だから、鎖骨は見えるデザインで。バッスルスカートもいいな。でもやっぱりこのAライン? プリンセスラインもいいな、ボリュームがあると華やかだ。でもあまりウェストは絞りすぎないでください。締められるの苦手だから』
『お手をどうぞ、エリアーデ嬢。床で本を読むのはほどほどに』
『王位継承権? ……んー、別にいいかな。俺はエリーと時間取れる方がいいし』
映し出された映像が途切れる。
そこに映し出されたのは遊び人と思われてい第三王子のサフィシギルが、婚約者のエリアーデに甲斐甲斐しく尽くす姿がばっちり音声付きで映っていた。
偏食傾向のあるエリアーデの為に栄養バランスの取れた彩豊かなお弁当を詰める姿、朝に弱くまだおねむ状態の婚約者の前に跪いて靴を履かせる姿、プロムナードの衣装のコーディネートを吟味する姿。
当たり前のようにそのお世話を享受するエリアーデの様子は堂に入っている。慣れ切った様子から、常にこうなのだろう。
国王は所謂ゲンドウポーズというものを決めている。宰相も天を仰いでいるし、大臣たちも「アチャー」と言わんばかりだ。
最初からすべてを知っていた王国の『影』は、ただ沈黙を貫く。
国王は一通り唸り終わった後、たっぷり間を置いて影に問う。
「………マジ?」
「マジです」
「めっちゃ遊び人だと思ってたんだけど」
「ガチです」
「サフィシギルだけ? 純愛100%の婚前交渉一切なし、ほっぺやおでこにチューどまり?」
「清く正しいお付き合いです。余りの面倒見の良さからキルシュタイン伯爵家ではママと呼ばれているそうです」
「え……サフィ可哀想……」
「御婚約者様一筋です」
「これ、離婚させたらぐれるやつ?」
「国外に逃亡、もしくはキルシュタインが反旗を翻す恐れがあります。翁のお気に入りですから、サフィシギル様は」
「うん、知ってる。メッチャ婿入り催促されていた」
「そして王族で微塵も例の電……こほん、スピカ・ポラリーに篭絡されなかったので、学園での評判も悪くありません。社交界でもなかなかの評価です。
上手く女性を褒めながら逃げる甘え上手な王子としてね。巧く顔を使い分けています」
「でも立太子したら、キルシュタインのじじいがめっちゃ切れそう。頭いいサフィ大好きだもん、あのジジイ」
「ですね。警戒したサフィシギル殿下は、兄殿下方を反面教師にスピカを撒いたそうです」
「それに比べて嘘だろオイ、上二人。こんな露骨なハニトラに私の息子が二人も引っかかるとか。泣きたい」
「影だってドン引きですよ。遊びだと思ったらガチ恋のお花畑。あの王子たちを立太子したら本気で宰相たちが退職されますよ」
「ああもう、せめてやらかしが早ければ、サフィの婿入り止められたのに……っ」
聡明なのは幼い頃に気づいていた――いつからかサボり癖が付いたと思ったら、一番しっかり文武両道に育ち、婚約者――今は妻と堅実に愛を育んでいたサフィシギル。
婚約者を溺愛しているなんて、さっきの砂吐きしそうな映像を見ればよく分かる。
国王は頭を抱え、とりあえずキルシュタイン伯爵家へと連絡を取らなければならないとため息をついたのだった。
応援ありがとうございます!
51
お気に入りに追加
2,646
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる