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 そんなある日、俺は切れた。
 何故かって? エリーが何度もやめろと言った約束を破ったからだ。
 酷い裏切りだ。もうしないから、ごめんなさい、とエリーだって言っていたのに。エリーは俺に嘘をついたのだ。
 物証はそろい、状況からも疑い様がなかった。
 それをエリーの前に並べても、ツンとそっぽを向いたエリーは事実を認めたがらない。

「エリー! エリアーデ! お前、何したか分かってるんだろうな!?」

「さあ、わたくしは存じ上げませんわ。何を怒っていますの?」

「しらばっくれんじゃねえ……

 お前……

 モンブランの上のマロングラッセだけ食ったろ!?
 行儀が悪い! つーか体に悪い! 変な食い方やめろっていったよな!? この前もレーズンパンのレーズンだけほじくり返したり、おはぎの餡子だけ食ったり、シチューの中の星ニンジンだけ食ったり! おかしな偏食は止めろ!」

「夢の贅沢食いです。食べ残しはルッツが食べた」

「ルッツ! 甘やかすな!」

「だってお腹減ってたんだもん。あ、グラッセのないモンブランはデザートに一部とってあるので責任もって食べます! 次はアップルパイがいいです!」

「だもん、じゃねー! お前らは欠食児か! つまみ食いすんな! あと服は脱いだまま放置しない! ちゃんと籠に入れる! 靴は揃えろ! 靴下は裏返して脱ぐな! アップルパイは良いリンゴがあったらな!」

「ママうるさい!」

「反抗期か! 泣くぞ!」

 あれ……? 俺コイツの婚約者だよな? お母さんじゃないよな? 最近ルッツまでこんな感じだし……ロバーツにすっげえ憐憫の眼差しで見られるんだけど。
 キルシュタイン伯爵家のメイド長のポーラなんて「お嬢様を真人間にできるのはサフィシギル殿下だけです」って最後の頼みの綱みたいな勢いだし。おたくの姫様ですぜ。
 待って。俺、婚約者。ママじゃない。そして男!
 でも、エリーは知らない人間が工房や部屋に入るのを嫌がる。でも、掃除嫌いのエリーを放置すれば腐った森は広がっていく。完全な腐海になる前にかたづけなきゃいけねー。

「あのな、エリー。俺は来年から魔法学園の寮暮らしになる。そうなると、他の人に頼むか、エリーが片付けなきゃなんねぇ。
 わかるよな?」

「え? サフいないの? ヤダ、魔法学園に私も行く」

「でもお前、半年以上前に学園やだって、寮暮らしも嫌って断ったろ。まあ、三年の辛抱だし」

「サフのごはんを三年も食べれないなんて死んじゃう。お爺様に頼んでくる!」

 いうが早いか走り出したエリー。三十分後、哀愁漂うキルシュタイン翁が「孫を頼んだ」と頭を下げてきた。押し負けたな。
 俺の行く予定だった王族寮――っていうか屋敷を一戸に、婚約者枠で無理やり入り込ませることになった。あのー、年頃の男女なんですが。そこんところいいんですか?
 信用されているんじゃなくて、もはや男と思われてないんじゃない?
 つーか俺の価値ってメッシー君?(※ご飯を用意してくれる人、奢ってくれる人)
 側室腹のダメ王子の婿なんてこんなものなのか。
 エリーはやろうと思えば王子妃をできるくらい優秀なレディだ。まあ、キルシュタイン伯爵家は魔道具で隆盛した資産家。その金の卵を産む天才。俺以外にも引く手あまただろう。
 ……ぶっちゃけ今更捨てられたら泣くわー。シャレにならんほど凹む。


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