なんちゃって悪役王子と婚約者

藤森フクロウ

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 俺、王子なんだけどなー。

 低血糖でぶっ倒れたエリーを膝で抱っこしながら、砂糖と食塩、そしてレモンを垂らした簡易スポドリを飲ませながら遠い目。なんとかコップ一杯飲ませた後、口に飴を突っ込んでおく。
 エリーは研究に没頭しすぎるとたまにやる。

「エリー、腹に良いモン作ってやるからちゃんと全部舐めろよ」

「ママー、私オートミール粥じゃなくて卵のお粥がいい」

「ママじゃない! 野菜も取れ! スムージー作ってやるから!」

「トマト入れたら吐く」

「裏ごしして種の周りのヌルヌル当たらないようにするから、ちゃんと飲め!」





 俺は来るべき未来のメタボに怯えながら、日々体を絞っていた。
 幼少期はぷにぷにだった体も、十五になった今では身長は兄弟で一番でかいうえ、腹筋バッキバキだ。ルッツが時々「なんでっすか!? ねえ、なんでっすか!?」と騒いでいる。
 今ではアラビアン系ダウナー王子である。こういっちゃなんだが、メッチャモテる。そしてルッツが良く分からん方向に嫉妬して追い払っている。
 そして俺はイケメンになった。乙女ゲームの補正すげえ。もしかして裏キャラとかだったんじゃねーかというくらいのクッソ麗しい顔面偏差値をしてやがる。俺が引き継いでいたのはDEBU遺伝子だけじゃなかったと再確認。前世の醤油どころかソルトなフェイスの俺に謝れ。
 まあ、この国では異国風の顔立ちなのは事実。お遊びにはいいけど、本命じゃないってのが大概だ。親父の国王陛下は、今では国でも指折りの資産家の、稀代の魔道具職人であるエリアーデ・キルシュタイン伯爵令嬢を絶対手放すなとうるさく言われている。
 海老で鯛が釣れたと内心ホクホクなのだろう。
 俺は相変わらずやる気のない盆暗王子をやっている。キルシュタイン翁は、そんな俺を面白そうに見ている。
 第一王子と第二王子は、俺の婿入り先に嫌われたくないのか前より当たりがソフトになった。王妃たちもな。現金なものだ。まあ、婚約者サマサマであるが。
 そーいや乙女ゲームが始まるな。
 俺、攻略対象じゃねーから高みの見物だし。そもそも婚約者いるから、嫁ぎ先にはならんだろう。まあ豚みたいなドラ息子なんて他にもいっぱいいるから、どーにでもなるか。
 そんなことを考えながら、今日も俺はエリーの世話をする。
 エリーのお気に入りのパジャマのボタンが取れかけていたのつけ直していると、エリーがとことこやってきた。

「サフ」

「あ? ちょいまて。今、ボタン付け終わるから。飯はそのあとだ」

「そうじゃない。サフはどうして私でいいの? その、イライザお姉様や、ウェンディお姉様のほうが美人なのに」

「美人は三日で飽きる、エリーは何年たっても飽きない」

「男の人って、その、胸のおっきい人とか、そのお姉様たちみたいに」

 お姉様ってイライザ嬢とウェンディ嬢のことだよな。
 いや、別に美人でもキッツイ女は好きじゃねー。俺はエリーみたいにちょっとぽやんとした感じの可愛い子が好き。
 あの二人の婚約者への当たりはきついってもんじゃねー。
 つーか、胸だってエリーとどっこいだと思うぞ。
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