なんちゃって悪役王子と婚約者

藤森フクロウ

文字の大きさ
上 下
2 / 11

しおりを挟む

 しかしまあ、俺も王子だしその辺にふらふらされちゃならんと婚約者がついた。
 キルシュタイン伯爵令嬢エリアーデ。三女らしい。初めて見たときは長い前髪で顔を隠し、しめ縄のような亜麻色のお下げ。白い顔にそばかすの散った素朴な感じの子だった。お下がりなのか、あまりサイズの合っていないぶかぶかの青いドレス。これ4年前くらいに流行った奴じゃん。つーか、次女ちゃんがどっかのお茶会で着ていた気がする。
 彼女はこうとも呼ばれていた。キルシュタインの出涸らし令嬢エリアーデ。
 この子は間違いなくキルシュタイン夫妻の娘らしいが、この引っ込み思案の性格から、華やかな二人の姉と比べられて肩身が狭いらしい。
 ある日、交流という名のプライベートなお茶会の時、庭でごろごろしていると彼女が独り言のように語った。
 傍から見ればダメ王子と出涸らし令嬢。割れ鍋に綴じ蓋ってやつなんだろう。
 俺はキルシュタイン家に婿入りする。伯爵は俺を王家のつなぎとして飼い殺しして、実権は自分で握るつもりなんだろう。

「エリーは可愛いよ。俺はアンタの優しい暖かい髪色も、静かな声も好きだ」

 姦しい女なんざ後宮で嫌って程見ている。陰惨な争いとヒステリックな声も耳にこびりつくほど聞いた。
 エリアーデの慎ましい物静かな性格も、柔らかな色合いを持つ髪や瞳も好きだった。よくある色だとエリーは自重するが、俺みたいに異端な奴からすれば羨ましいくらいだ。
 そして何よりエリーは頭がいい。俺よりちっちゃいのに、リケジョな婚約者は画期的な魔道具を色々作っている。
 俺が褒めるとエリーの分厚い前髪の奥の目が、きょとんとしばたいてるのが判ってくつくつ笑う。
 自慢ばかりの甲高く囀る馬鹿女よりよっぽど上等だ。
 伯爵は下らないと一蹴しているし、そんな暇があるなら刺繍の一つでもしろという。
 これ、絶対売ったら利益出ると思うんだけどな。あのオッサン、目が節穴すぎだろう。

「ルッツ~、お前んとこのかーちゃん、もとは商家だよな? これ見せて売り込んでみろよっていってみ」

 作ったものはドライヤーとヘアアイロン。自分の髪をびっちゃびちゃに濡らした後に乾かし、くるんくるんの縦ロールにして実践し見せたらルッツのかーちゃんは飛びついた。
 女っつーもんは身綺麗にするのに命がけだろう?
 そんなん社交界のデビュタントからマダム、後宮でも腐るほど見てる。
 ちなみにエリーはその後、魔道具のミキサーやアイロン、コンロなどを発明した。特許をとらせ、ルッツのとこで利益の7~25%を貰うってことで専属で売りに出した。
 それはもう爆発的に売れて、そりゃもうウハウハだった。
 あとでキルシュタインのおっさんが喚いていたけどシラネー。
 キルシュタインのおっさんは金の卵を蔑ろにしたと、キルシュタイン翁ことエリーのじーさんにどやされて追い出された。蟄居だよ、四十いったとこなのに。おっさん弱かったんだな。へー、婿養子だったんだ。
 ご隠居が出張ってきて、今まで日陰者扱いだったエリーの待遇は改善された。
 ドレスや靴やアクセサリーはお下がりじゃなくなった。まあ、魔道具好きなエリーは社交に興味はないから、その辺のフォローは俺がやってた。後宮の弱者の処世術を舐めないで欲しい。
 俺はいろんな伝手を作りながら、エリーが魔道具作りに没頭できるようにした。
 伯爵邸の敷地内に、エリーの為の工房がもうけられた。手がけた商品の流通にはちゃんとルッツのとこの商会を通すことになり、俺とじーさんで金に無頓着なエリーの資産を管理している。
 エリーは本当は王子妃なんて息苦しいものではなく、研究者や職人になりたかったんだろう。
 大手を振って魔道具作りをできるようになったら、社交をほったらかして熱中した。まあ、そのための婚約者だけど。エリーは熱中すると睡眠も食事もおろそかになる。それをサポートするのが俺。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...