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ドタバタランチタイム

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 ストレスフルな地獄の時間がやっと終わったと思ったら、原因の人物が幸せそうにランチを満喫している。
シンプルにムカつくだろう。
 
「しかも、今後もこのバカミーユのことを頼まれてもうた……嫌やぁ! 俺はもうコイツの勉強を見たくない!」

「なっ! 某を見捨てるつもりでござるかああ!」

 ビャクヤからの突き放し宣言に、顔色を青くしたカミーユが縋る。急に抱き着いてきたものだから、口どころか顔の下半分に飛びまくったトマトソースがビャクヤの制服に付く。

「ぎゃー! 服にソースがああああ!」

 ビャクヤの悲鳴がこだまする。
 まだ温かい気候だったので、黒い上着は着ておらず、上半身は白いシャツと明るいベージュのベストだった。

「よりによってトマトソース! おんどりゃー! なんてことしてくれやがんじゃー!」

 ビャクヤの悲鳴で、自分のやらかしに気づいたカミーユは慌てて離れるがもう遅い。
 トマトソースによって作られた前衛的な顔拓アートは、ニット素材のベストにしっかり残っている。
 ちなみに、新調したばかりの制服だ。ビャクヤの怒りは察した余るものがある。
 最高潮に切れ散らかしたビャクヤは、狐耳や尻尾の毛を逆立てながら怒鳴り散らす。
 周囲の生徒たちは最初何事かと視線をやるが、ビャクヤのベストについたトマトソースの見て察した。

「ビャクヤ、その辺にしたほうがいいですよ?」

 ずっと静かにチキンピラフを食べていたレニはが、ビャクヤの怒声の途切れに言葉を挟む。

「なんでや、レニちゃん!? 悪いのはビャクヤやろ!」

「怒鳴るより、ビャクヤにそのベストを綺麗になるまで洗わせるのが先じゃないですか?」

 その言葉にビャクヤは気付いた。刻一刻とトマトソースは乾きながらもベストにしみ込んでいるし、どんどん汚れは落ちにくくなっている。
 ついでに言うとビャクヤはまだ昼食を済ませていない。このままだと、午後にすきっ腹を抱えて授業を受けることになる。

「とりあえず、ベストだけでも脱いだほうがいいと思いますよ? シャツまで届くと着替えを取りに行かないといけなくなります」

「そーやった! 半裸で授業は嫌や!」

 レニの助言に従い、ビャクヤはベストを脱ぐ。
 その間、ずっとカミーユは石の床で正座をしている。貝のように口を閉じて、糾弾や突き上げから少しでも避けようと大人しくしている。

「はい、カミーユ。大事に洗いましょうね?」

 レニ・パイセンの笑みが怖い。美少女スマイルが失敗を許さない。
 ベストを渡されたカミーユは半泣きになってこくこくと素早く縦に首を振る。壊れた赤べこのようであった――顔色は真っ青だが。
 あまり賢くないカミーユだが、彼なりに理解していた。あの笑顔のレニはすごく怒っている。口答えしたらもっと怖いと知っていた。

「つ、謹んで拝命いたします」

 言葉のチョイスが完全に上司どころか、主君とかに対する丁重さだ。
 一応その位置になるシンですら、こんなに改まった態度をされたことがない。
 恭しく汚れたベストを受け取ったカミーユは、ダッシュで洗い場へと向かった。

「ビャクヤ、注文してきたら?」

 ただでさえ後れを取っているのだから、急がないとランチタイムがなくなってしまう。昼休みは有限だ。

「そーするわ」

 シンの言葉にうなずき、ビャクヤも足早に注文しに向かう。人気のランチセットは売り切れかもしれないが、定番メニューなら残っているはずだ。
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