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現実問題、無理だった

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「や、やばいでござるよ! 魔法の効果が……!」

「撤収! 先生回収して撤収や!」

 白マンドレイクの変化を察知したカミーユが警告すると、ビャクヤは周囲に知らせるように声を上げる。

「先生探せ! 最後でどこで見た!?」

「あ、あっちの倉庫や堆肥のあるほうへ移動していたような?」

 シンとレニも手にしていた白マンドレイクを袋に詰めると、脱出しようと思ったがグレゴリオがいない。
 もう収穫どころではなく、パニック蔓延。てんやわんやだ。
 白マンドレイク再起動のカウントダウンが始まった。このまま温室にいたら、数の暴力で袋叩きにされる。
多分ではあるが、グレゴリオの向かった先へ走り出す。
 すると、そこには堆肥に這いつくばるようにしてグレゴリオがいた。
 夏休み前に落ち葉と馬糞を積んだ堆肥は、魔法で発効促進をしていたのでそれほど匂わないとはいえ、普通は腹這いになるような真似はしない。

「なんだこれは……! 普通のマンドレイクとも、白マンドレイクとも違う……! 突然変異か? こんな真っ黒なマンドレイクは見たことがない」

 ハアハアと呼吸も荒く、人参ほどのサイズのマンドレイクの夢中だった。
 葉っぱこそは深緑だが根っこであるマンドレイク本体の部分は墨でも吸ったように真っ黒である。迫りくるグレゴリオの熱狂的な視線に、悪夢でも見ているように時折うねっている。
 グレゴリオを心配して走ってきた四人は、それを冷めた目で見ている。タニキ村の真冬より凍える眼差しだ。
 軍手を嵌めた手のシンが無言で近づき、黒マンドレイク(仮)を引っこ抜いて収穫袋に入れる。

「先生、魔法の効果が切れ始めたのでいったん出ましょう」

「こほん! んんっ! そうだな!」

 涎をたらさんばかりの熱狂から切り替え、いつもの冷静な姿に戻った。
 冷ややかな生徒たちの視線に、自分の晒した醜態に気づいたのもあるだろう。
 とりあえず、全員無事に脱出できた。

「魔法効力は約二時間か。実質作業時間は一時間半くらい……あの数をすべてとなると、五人だけでやるのは現実的ではないな」

 小さい白マンドレイクまで取るとなると、かなり大変だ。
 旧温室はそれほど広くはないが、白マンドレイクが想定より数が多かった。
 シンたちはこの人数でやるのは無理ではないかと思っている。

「細かいのは土魔法でこねて大地に還してしまえばいいと思います」

「白マンドレイクは稀少素材だぞ! なんてもったいない!」

 シンが現実的な処理を提案するが、グレゴリオが反対する。
 彼の頭には、先ほど見た黒マンドレイク(仮)のような突然変異がまだいるかもしれないという憂慮がある。それをうっかり知らず知らずに土に還すなんて愚の骨頂だ。

「あの、先生」

「なんだね、レニ・ハチワレ」

「夏休み残り時間もですが、その……学園にこの事態がバレる前に何とかしたほうがいいと思います」

 レニのもっともな言葉に、舌でも噛み切りそうな渋い顔をするグレゴリオ。
 白マンドレイクはやたら動くが、人を昏倒させるような絶叫はしない。だが、先ほどの突然変異みたいなのがまだまだいたら対処法がないのだ。
 今回のマンドレイクたちは睡眠や麻痺で動けない状態だったから良かった。
 でも、もしもその突然変異が普通のマンドレイクよりも危険な絶叫をする個体だったら危険度が跳ね上がる。

「……知り合いに声をかけて、応援を呼ぼう」

 グレゴリオは伝手を使い、手伝ってくれそうな人員を募った。
 三日後、無料で稀少素材を採取できると聞いた薬師や錬金術師たちが助手を連れて大集合。
 魔法で動きを封じた後、採取作業をするのを繰り返しだ。
 何とか夏休み中に温室の中の白マンドレイクを刈り取ることに成功し、シンの温室は戻ってきた。
 結局、突然変異の色違いマンドレイクはグレゴリオが見つけたののみ。
 グレゴリオが引き取るかと思いきや、シンに譲ってくれた。

「恐らくあの土でしか育たんだろう。君なら増やせるかもしれん」

 グレゴリオから、熱い期待まで託されたシンであった。
 とりあえず、堆肥近くの土を入れたプランターで育てているが、特に問題はなさそうである。
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