上 下
147 / 156
連載

デバフは不人気、でも便利

しおりを挟む

「麻痺や睡眠なら私も使える。これでもフィールドワークで戦うことがあるからな。この中で使える者はいるか?」

 デバフ系の魔法は派手さないため、生徒には不人気だ。ほとんどの生徒は習得しない。
 だが、実践においてはかなり有用な手段だ。圧倒的格上や、人数で不利な集団戦にも使える。
 ダメもとで四人の生徒に聞くと、驚くことにシンとレニが挙手した。
 シンはオウル伯爵家からのお詫び魔導書で習得し、レニは聖騎士として広範囲の魔法を片っ端から覚えていたからだ。

「二人も使えるのか」

 期待していなかった分、グレゴリオの声が嬉しそうに弾む。
 自分一人でやるか、良くて補助が受けられる程度だと思っていたのだ。
 旧温室はそれなりの広さがある。満遍なく魔法を掛けるのは苦労すると思っていたが、これなら何とかなりそうだ。
 中には効きが悪い個体もいるかもしれないし、取りこぼしに対応できる人数は多いほうがいい。
 グレゴリオが薬による作戦を取らなかったのは、マンドレイクを取りに行く時の危険も考えてだ。ミイラ取りがミイラになり、あの中で倒れてしまってはとても危険である。
 白マンドレイクは危険な魔法植物ではない。だが、あれだけ数と大きさが動くとなれば、踏まれたり圧し潰されたりという可能性もある。

「まずは温室を覆う補助の魔法陣を描こう。範囲を指定し、魔力を循環すれば魔力の消耗を押えながら重複効果が期待できる。
 
「まずは陣の基盤となる円ですか。かなり広範囲になりますね」

 基本、魔法陣は円形の中に術式を織り込みながら図案を描くことが多い。
 多角形も不可能背はないのだが、一部に力が偏りやすい。円系は安定しており魔力循環を良くするので、ムラなく術を展開できるのだ。
 温室の周囲には木や建物が多いので、綺麗な円形を描くのも一苦労だ。レニは早速、難問にぶち当たったように顔を顰めていた。
 グレゴリオはレニがちゃんと学んでいることに教師として喜ばしさを感じつつも、首を振る。

「いいや? 紙とペンを使い、魔法を描く。それを拡大し、空から覆う」

「「「「空から?」」」」

 グレゴリオはにっこり笑った。生徒たちの目を丸くした表情が、予想以上の反応で面白かったのだろう。

「地上に描くのが一般的だが、何せここは障害物が多い。円が歪になると術が綻びやすいからな」

「あ、あの空に浮かべるとなると消費魔力は……」

「それはかかるが、状態異常は攻撃魔法に比べて魔力消費が少ない。魔法陣は大きさはこそあるが、生物でないし質量も大したことないから意外と簡単なんだ」

 レニの疑問に丁寧に答えていくグレゴリオ。
 さすが長年教師をしているだけあって、魔法関係の知識は豊富。教えるのだって得意中の得意だ。
彼は説明する間にも、手慣れた手つきでペンを動かす。さらさらと魔法陣を紙の上に描いていく。
 教わるレニも新しい知識に、前のめり気味に聞いていた。

「では、早速実践してみようか」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。