上 下
145 / 156
連載

刺さる一言

しおりを挟む

「そ、そうだ! マンドレイクの採取に協力したら特別単位を出そう! 君たちは過去にマンドレイクの栽培をしていただろう?」

 グレゴリオの提案に、少し心が揺らぐシン。
 必修単位が多い騎士科と違い、普通科のシンは自由に単位が取れる。一つ単位が取れるとその分だけ時間に余裕が生まれる。
 講義の内容によっては単位の難易度が高く、同じ年に取得するのが難しいのもあるのだ。
 特定の講義においては、一定の基礎単位が満たないと受講することすらできない。
 例えば錬金術も基礎や初級に相当する単位を取らなければ応用編の講義が受けられないのだ。

「手伝います」

 しれっとシンがそう答えたものだから、三人も道連れ決定だ。
 レニはそんな「やっぱりか」と言う顔しかしなかったが、カミーユとビャクヤは露骨なくらいショックを受けている。

「そんなぁ、シン殿ぉ~!」

「先生に任せておけばええやん!」

 カミーユとビャクヤがシンを揺するが、頑として譲らない。

「いや、だってマンドレイクをさっさと処分しないと素材の育成や小遣い稼ぎできないし」

 趣味の家庭菜園的な意味だけでなく、ポーションの材料も育てるのだから早めに片付けてしまいたい。
 頼めば空き地どころか農場を用意してくれそうな後見人がいるが、シンとしては学生の領分内でできるだけやっていきたいところだ。

(そろそろミリア様への入浴剤とか、秋冬向けの素材を調達しなきゃだし)

 シンお手製の美容品の大ファンであるミリア。
 宰相夫人であり、ティンパイン王国の社交界でも強い発言権を持つ美魔女である。その美貌を保つため研鑽を怠らない。
彼女はシンが過ごしやすいように配慮してくれている人なので、是非とも良好な関係を続けたい。
 薬草や香草は外でも調達できるが、量や質にむらができる。安定供給にはポーション栽培が一番なのだ。

(うん、やっぱり温室は必要だよな)

 シンがたくさんの素材を持っていても不審がられないし、種や苗を入手できれば量産できる。露地栽培は人目に付きやすいが、温室なので外からはバレにくい。

「でも……」

「このままマンドレイク放置したら、次の大豆を植えるところなくなるぞ」

 その一言に、ビャクヤは落雷を受けたように硬直した。耳と尻尾が一気にぴーんとなって毛並みがぼわっと膨らむ。

「さーて、サクサクブチ抜かんとなー」

 お揚げの奴隷ビャクヤは、大豆をちらつかせるとあっさり意見を翻した。
 そのことにカミーユはショックを受けるものの、この状況では不利と判断してがっくりと項垂れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。