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グレゴリオの交渉

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「そうか、もう少しいけると思ったんだがなぁ……」

 怪訝そうなシンの声に、グレゴリオは心なしかしょんぼりしている。

「もしや、この温室の惨状は先生がやったでござるか?」

「惨状とは何事だ! 稀少な白マンドレイクの人工栽培の研究に大いに貢献したのだぞ! この夏でどれだけ論文が進んだと思っている!」

 カミーユの質問に逆切れの勢いで言い返してくるグレゴリオ。
 この発言は温室をこんなにしたのは彼だと自白するも同然である。白けた周囲の視線をものともせず、白マンドレイクの栽培法の大切さを力説する。

「深い山林や龍脈の通る場所にしかできないと言われた白マンドレイクが、何故かこの温室では見事に成長するのだ!
 土壌、水質、温度、湿度、魔力のあらゆる環境を調べ上げ、量産の目途が立てばどれほど魔法薬や錬金術の研究が進むことか……! ゆくゆくは多くの傷病に良薬が行き渡ることとなるだろう」

 グレゴリオは熱弁する。誰かのために行動する信念はとても立派だと思うが、いざ温室で自由奔放に過ごす白マンドレイクたちを思い出すと苛立ちが増すのは何故だろう。

「他の場所でも試したが、ここほど良い結果が得られた場所はない」

 なんでと言いたいが、薄々その理由を察してしまう。
 たくさんの神々から激重感情を向けられて手厚く籠を受けている神子が、気まずそうにしていた。
 きっとその辺が関係しているに違いない。
 ポーションによる液肥栽培もしていたし、その効力が土壌事態に残っていた可能性もある。

「しかし、ここ最近は少し増えすぎてしまってな。白マンドレイクを採取しようにも返り討ちにされる始末……助手たちも怪我をしてしまい、かといって私だけでは採取は難しい」

「手に負えんくなっとるやん」

 だからあんな無茶苦茶な繁茂をしていたのか。温室はマンドレイク帝国と化していた。
 呆れ眼のビャクヤが鋭く突っ込むが、グレゴリオはめげない。

「学術の進歩には多くの知識人の努力と犠牲が付き物なのだ」

 グレゴリオが自業自得で犠牲になるならともかく、シンが開拓した温室を侵略されるのは堪らない。

「でもあのままじゃまずくないですか?」

 冷静なシンのツッコミに、グレゴリオはちょっと居た堪れなくなった。
 大人しくて優等生――それがシンの教員たちからの評価だ。そんな生徒からの冷たい眼差しは堪える。

「夏休みが終わる前には戻そうと思ったのだ……」

 蚊の鳴くような声で呟く。
 戻そうと努力はしたが、戻っていない結果が現在のありさまである。
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