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連載
久々の温室
しおりを挟む久々の学園である。
少しだけ懐かしさの感じる門構え。制服は着ていないので学生証を持っていき、門番に通過の許可を貰う。
マジックバッグに農具を入れているので身軽だ。日差しがきついので、麦わら帽子を被っていて正解である。
ちょっと古びた外観の温室の中に、緑色に何かが茂っているのが分かる。
「やっぱり雑草は出てきちゃうよな」
シンは眉を下げて、がっかりしたように呟く。
結露でぼやけた状態でも分かるくらいだから、相当繁茂しているだろう。草取りからやり直しである。
「大丈夫ですよ。四人でやれば、新学期までには戻せますよ」
レニがフォローを入れると、シンも頷く。それこそ最初よりはましなはずだ。
一方、後ろにいたカミーユとビャクヤは何か微妙そうな顔をして、ひそひそしている。
「どうしたんだよ?」
シンの質問に、騎士科二人は顔を見合わせて口籠る。
しかし、覚悟をしたのか口を開いた。
「いや、なんか温室の中で動いてへん?」
「某の気のせいかと思ったでござるが、ビャクヤも見たでござる」
シンは温室を改めて見るが、特に動く様子は見えない。古い温室は結露と汚れがあるので、結構ぼやけているので、視界で判別できたのなら、それなりに大きな何かがいる可能性がある。
「野生動物でもいるのでしょうか? ネズミや兎は穴を掘って下から侵入することがありますが」
タニキ村で農作物を作っていた時もそうだった。獣避けに囲いを作ってもそれを搔い潜る動物もいた。
鹿や猪のような大きさのある獣は策を飛び越えたり壊したりと力技で何とかしようとするが、小さい生き物はせっせと穴を掘って入ってくる。
野山に行けば食べ物が落ちているのに、果敢に野菜泥棒チャレンジを続けていた。
(エルビアは都会だから、あっちより食べ物は落ちてなさそうだしな―)
放棄した温室でも、多少は食べ物が落ちている。
夏休み前に収穫した大豆、トマトなどの夏野菜。それらのこぼれ種や、取り残しがお目当てなのかもしれない。
「うーん、人の気配を感じれば動物は逃げると思う。草取りしつつ、温室に破損がないか確認だな」
そう言いながら、シンは温室の扉を開けて――スッと閉めた。
余りにスムーズな動作だったので、後ろの三人は一瞬何か間違えたかと思ってしまった。
シンは真顔になった後、目頭を揉み解して唸る。
「なんか……あるはずのない? いるはずのない? いて欲しくないものが大量にあったような」
「なんでござるか、それは。煮え切らないでござるなぁ」
いつになく歯切れの悪いシンに、カミーユが首を傾げた。
扉の前で立ち尽くして躊躇うシンに代わり、ノブを掴んで開け放ち――閉めた。
「……何か白昼夢? 否、白い悪夢が見えたような」
「そうか、お前も同じモンが見えたか」
「いやいやいや! まだ同じものが見えたと決まったわけじゃないでござるぅうう!」
やはりなのかとシンが諦観を込めて呟き、項垂れた。
そんな彼にヒステリックと言うより、縋りつくよう否定するカミーユ。
頭がぶんぶんと振られ、紺色のポニーテールの先がビャクヤにびしばし当たっている。
まだ温室の中身を見ていないレニとビャクヤは、何が何だか分からない。
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