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小市民の心

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 どうしたら良いかと考えていると、シンはタニキ村を思い出した。

「あ、あのミリア様。このお金をタニキ村の復興に回してもらえませんか?」

「できるけれど、あそこは国からの補助も出ているわよ?」

「はい。でも、村人の中には家や家族を失った元バーチェ村の人たちもいます。
 家畜や田畑を失い、これから冬に備えるのは
大変でしょう。今年は援助があっても、来年、再来年は難しいと思います」

 タニキ村は死傷による人の損失はなかったけれど家畜と田畑には被害があった。
 もともと酪農より狩り生計を立てているが村人が多いが、卵や乳製品の大半は家畜によって賄われている。
 また、怪我はなくとも心の爪痕も大きくあり、精神的不調に見舞われた村人も多くいる。
 
「そうね……では教会を建てるのはどうかしら? 怪我などの後遺症があって働くのも難しい人や、孤児の受け入れもできるわ。
 ヴァンパイアウルフを追い払うのに、神々も手を貸してくださったと聞くし丁度いいと思うの。
 今までは小規模な祭壇しかなかったから、正式な施設として建設する案はあったのよ」

 神々を祀るのは神殿と教会がある。
 神殿は宗教色が強く、教会は孤児院や医療施設と併用するなど民間に寄り添う側面が大きい。
 今までのタニキ村は超ド田舎の小規模集落なので、両方なかった。

「シン君は神殿を敬遠していたから、教会だとしても建てるか迷っていたのよ。
 でも、シン君は神託を受けやすい神子のようだし、有ったほうが神々にも面目が立つと思うわ」

「なるほど……」

「それに先にティンパインで建ててこっちの人材を詰めておけば神殿側が新しく建てにくくなるもの」

「建てましょう」

 うふふ、とちょっと含んだ笑いをするミリアにシンは即答する。
 シンの脳裏に紫色の変態神官が浮かんでいた。
 初対面でシンの体臭を吸ってきた大変アブノーマルな性癖を疑いたくなる人物だった。
 神殿の息がかかった施設ができて、万が一にもアレや同系統の人間が派遣されてきたら地獄である。
 シンの穏やかなスローライフが粉々だ。
 紫色の変態神官琴アイザックは、非常に稀な事例なのだがシンの中でインパクトが強すぎた。
 あんなのがタニキ村の神官に赴任してきたら、安心して村に帰れなくなる。
 あの吸引インパクトは未だに色褪せず、トラウマとして残っていた。

「それ以外にも、定期収入の使い道があるといいのですけど」

 シンの相談にミリアが首を傾げて思案する。

「うーん、それなら街道整備でもする? 本来なら国の仕事だけから、使わなくていいとおもうけれど……タニキ村の規模に合わせた教会だと、すぐに足りてしまいそうなのよね」

(どれだけ収益上げているんだ、美容系レシピ!)

 貴族をはじめとした富裕層がメインターゲットだから、当然単価はお高め。
 利益が高いかもとは思っていたが、シンの想像を超えている。

「今の化粧水も大人気だし、シン君には今後もレシピについて交渉したいのよ。取引が増えれば、もっと利益も増えるでしょう?」

「まだ増えるんですか!?」

 小市民の心を縊り殺す気だろうか。
 お金がないのはストレスだが、大量にありすぎても同じである。
 あればあるほどいいと言う人間もいるが、金銭感覚が一度壊れたら一生戻らない可能性もある。
 さすがに全額寄付なんて、善行の塊みたいなことをするほど無欲じゃない。
 でも、一人で使い切る度胸もなかった。
 煩悶するシンを楽しそう眺め、ミリアは微笑ましさを覚えるのだった。

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