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連載
夏休み、終盤
しおりを挟む神子としての大任を終えた後、シンは忙しかった。
ずっと天狼祭にかかりきりだったのですっかりへそを曲げたグラスゴーとピコ。
そんな愛馬たちのご機嫌取りに、連日に街の外へ繰り出すことになった。
早朝に出かけ、夕方になって泥だらけになって返ってくる日々。
護衛である四人も交代制で同行したが、全力で走り出したグラスゴーには付いて行けない。
爆走する一頭と一人はしょっちゅう魔物の群れに突っ込んでいくが、凄まじい爆音とともに馬たちがやっつけていく。
下手に近くにいると巻き添えになりそうなので、見失わない程度の距離を保ちながらの形で落ち着いた。
やっつけた魔物は冒険者ギルドに出して、収入にもなっている。
そんな日々が続き、何とか愛馬たちの不満を解消させたシン。
「やーっとグラスゴーたちも落ち着いてきたし、そろそろ学園の温室でも見に行こうかな」
雑草塗れになっているだろうから、草取りからやり直しだ。
新学期が始まるまであと十日ほどある。
授業が入れば、必然的に自由時間も減る。今のうちに、ある程度は整備しておきたいところだ。
夏の日差しと温度で雑草がすくすく育っているだろう。
「お手伝いします」
レニが手を挙げながら、後輩二人をがっちり捕まえる。
学園内だから危険はないが、シンだけに肉体労働をさせるわけにはいかない。
「え? 某もでござるか!?」
「お前……夏休み中、折れやシン君、レニちゃんに散々迷惑かけておいて一人だけダラダラする気なん? 休むんやったら、勉強するんやろうな?」
「さーあ! 楽しい畑仕事の時間でござるよー!」
巻き込まれて最初は渋っていたカミーユだが、ビャクヤからの脅しに掌がクルックルに動いている。
ミリアに学園に出かけることと、夕方までに戻ると伝えると弁当の手配してくれた。
「ああ、そうだわ。これこれ。チェスターが忙しくて直接渡せないから、預かっていたの」
そう言って、一通の封筒を渡された。
にこにこしているミリアに首を傾げながら開くと、そこには数枚の便箋が入っていた。
見たことのない数字が並んでおり目を丸くする。
「シン君のから教えてもらった化粧水や美容液のレシピの使用料よ。
とっても好評で、今後は工房を増やして専用農家とも契約する予定よ。本格的に規模を増えるわ。
効力はやっぱりシン君のお手製が一番だけれど……こればっかりは秘密よね。
見ての通り金額が金額だから、金貨で支払ってもかなり重たくなるのよね。
シン君はマジックバッグを持っていたから大丈夫だと思うけれど、確認しながら渡すから時間のある時に受け取ってね」
「は、はひ……」
あんまり長く見ていたら、自分の金銭感覚が狂いそうなのでそうっと便箋を畳んで封筒に入れなおす。
そういえば、いつだったかレシピを譲った気がする。
(こんな金額どうすればいいんだ……お金ってあるところにはあるって本当だな)
狩人や冒険者としては稼いでいるほうだが、文字通り桁が違う。
慎ましい生活なら、レシピの使用料だけで食べていけそうである。
この世にはその日の生活すらやっとで、屋根のない暮らしをしている人だって少なくない。贅沢な悩みである。
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