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連載
動き出すエマ
しおりを挟む「……ふっ、ふふふ! あはははは!」
ヒールを鳴らし、ドレスを振り乱す勢いで誰かが歩いている。
不気味に笑いながら、ずんずんと進んでいく。
その姿は異様だが、先ほどの神子の成した儀式に興奮する周囲は気づいていない。皆が神々の気配を肌で感じ、必死にそれを伝えあっている。
「なによ、ティンパインみたいな平和ボケした神子かと思ったら……予想よりずっと使えそうじゃない! 王太子なんかよりよっぽど利用価値があるわ!」
笑いが止まらないとばかりに、エマは神子のいるらしい控室に向かっている。
接見は禁止されているが会ってしまえばこちらのものである。まだ十代らしい子供と聞いた。
王宮で蝶よ花よと大事にされ、ろくに外に出ない世間知らずだ。
神子は専用の離宮に戻る必要があるため、控室から出てくるのだ。
神子が出てこなくとも、近辺に配置されている護衛を捕まえれば――企みに笑いが止まらないエマ。
神子のいる場所は分りやすかった。
一目見たいとすでに人だかりができており、王宮の騎士や兵たちが等間隔に並んで警備にあたっていた。
神子にお近づきになりたいと考えるのはエマだけではなかった。
人垣もそうだが、見張りたちの数も多い。彼らはみな屈強な体躯をしている者が多く、一般男性よりも縦も横もがっちりと幅があり鍛えられて逞しい。
(ああ、もう鬱陶しい……いえ、これは使えるわね。今、王族と神子は分断されている。護衛が分かれているし、さっきの神々の降臨はティンパイン側としても想定外だったようだし……きっとティンパインの上層部にも人が詰めかけているから注意が逸れているはず)
口元を扇で隠しながらエマは素早く考える。
あまり時間はない。最低限の護衛はいるが、国王や側近が縋るのを振りほどいてティンパインにやってきたのだ。
かつて栄華を誇っていたテイランの零落ぶりは止まらない。
今を逃したら、国もなくなりかねない。国が無くなれば王妃と言う身分もなくなる。
その前に、エマの新しい地位を確保しなければいけない。
苛立ちながらも待っていると、人垣にざわめきが広がり始める。
(来たわね!)
エマが視線を走らせた先には、虚ろな顔をした男が猫背気味に立っている。
貴族服で仕立ては良いのだが小汚く手入れがされていない。髪も整えられておらず、全体的に雑然とした身なりだ。
それは一人二人ではない。
ティンパインに来てエマが魅了のスキルで洗脳した男たち。
(さあ、行きなさい。私の木偶たち……兵たちの意識を逸らすのよ!)
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