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連載
神子のお仕事
しおりを挟む天狼祭における神子のお仕事。大本命が来た。
そう、本日が儀式である。
やることはいたって簡単。祭壇にあるフェンリルを模した像まで歩いて、その首に花輪を掛けるだけ。
会場はスタジアムのように、観客席と石像側が分かれている。四方八方から見下ろされる形で儀式をするのだ。
ティンパイン公式神子と言えば、絶大な加護に定評がある。
観客である来賓の中には、何か起こるのではないかと期待している者も少なくない。
シンの衣装は布面積が半端ない。ロングトーンのヴェールに裾を引きずる法衣。ウェディングドレスも真っ青な白い祭典用衣装は機動力をドブに投げ捨て、タッパが足りないシンを荘厳かつ優雅に見せるためのデザインに全振りしている。
シンのヴェールは左右にカミーユとビャクヤ、真後ろにレニが配置して持ってくれている。いくら軽めの素材でも、長ければ摩擦が半端ない。ポロリは厳禁なので、サポート必須だ。
アンジェリカは移動途中まで、花輪を化粧箱に入れて随行する役目だ。
護衛である聖騎士は剣を腰に提げているが、装飾の多い細剣である。
(うーん、偶然とはいえ顔の良い面子が揃っていてよかった)
こういうのは見栄えも大事である。
今日のシンの役目はパンダである。見られてなんぼだ。
シンのいる場所は控室で、一本通路で繋がっていた。今は出番待ちである。
「あああ、緊張するぅううう! 口から胃の中のモンどころか、臓物が出そうや……っ!」
シンの隣で意外と緊張しいの狐が頭を抱えて呻いている。
練習で祭壇のある会場は何度も見たが、今回は貴賓席以外もすべてキツキツに埋まっているらしい。
「腹が減ったでござるなぁ……いった!」
「祭事中にそのアホ面さらしたら、どつきますよ」
逆に緊張感がないくらい平気そうなのはカミーユで、その間抜けな心構えにレニ先輩の拳がボディに決まる。
顔は薄化粧を施しているし、髪も綺麗に結っているので衣装の乱れが出ないところを狙い撃ちだ。
「そろそろ出番です。神子様、ご用意を」
「はい、分かりました」
アンジェリカに促され、シンは頷いて立ち上がった。
ちなみにシンは空手ではなく、複数の輪がついた銀製の錫杖を持っている。道中、一歩一歩進みながら、シャリンシャリンと音を鳴らさなくてはいけない。
これ歩調を合わせる音頭も兼ねている。
シンは祭壇に向けて歩けるが、聖騎士たちはやや頭を下げて移動なので結構大事らしい。
「神子様、お時間でございます。行ってらっしゃいませ」
王宮の神事担当である神官が、恭しく頭を下げて祭壇へと促す。部屋の中で一際大きな木製の重厚な扉が、満を持したように開かれる。
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