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連載
離宮の治安問題
しおりを挟む天狼祭はティンパイン王国を上げてのお祭りだけあり、規模も期間も大きい。
開始する日も終わる日も占いによって決めるので、大体五日から半月くらいになる。
だいぶ差があるが、占い通りにしないと必ず何かしら事件が起きるそうだ。
過去に経済効果を見込んで引き延ばしたら途中からテロ組織が広場を爆破し大赤字。逆に早めに切り上げたら、どこかの王族が楽しみにしていたのに参加できず、逆恨みして関税を爆上げしてきたそうだ。
これには占い否定派の貴族も引っ込むしかない。
今回は一週間くらいなので、平均的な日数である。
だが、初日に挨拶して五日目にある儀式の日までシンはガチガチに警護されている。チャンスがあるなら、ラスト二日だけだ。
ちなみにその儀式の日程も、かなり直前に占うそうだ。
なんでそんな攻めた計画にするのだろうかと聞きたいが、それが占いの結果。理屈じゃない。天狼祭の伝統であり儀式工程の一つだからとしか言いようない。
(まあ、神仏に関する儀式のアレコレって効率を求めちゃいけないよな)
人ではなく別の存在が決めたルールなのだ。こちらの都合など関係ないだろう。
シンは決められた区域内で、まったりと過ごすことにした。
夏休みに出された課題は終わっている。ちょうど静かな場所なので、オウル家から引き取った魔導書や歴史書を読んでいた。
近くで残っていた宿題をやっていたカミーユは、ヤバイものを発見したような顔をしながらシンを見ていた。
活字と仲良くなれないタイプのカミーユとしては、読書――しかも小難しそうな内容など、理解できない領域である。
自分からあんな難解な本を読むなんて、変態にしか見えなかった。
そんなカミーユの注意散漫な姿に、ビャクヤがお叱りの言葉を飛ばす。
「よそ見せんでやれ! もう隠しとらんやろうな!? また出てきたらシバくぞ!? バルコニーから吊したるからな!」
こんな場所でもカミーユの勉強に付き合わされているビャクヤが哀れである。
ギャーギャー騒ぎつつも、なんだかんだ言いつつ駄犬を見捨てない面倒見の良い狐だ。
「カミーユ。次に同じ事をしたら勉強時間分、給与から差し引きますからね? 今回はおまけですよ?」
笑顔のレニ・パイセンの圧が危険だった。
カミーユは本能でその静かなる怒りの温度を察したのか、口をきゅっと引き結んで机に向き直った。
やっと静かに集中しだしたカミーユに、ほっと一息つくビャクヤ。
彼はきちんと勉強をやっているのに、主にカミーユのせいで余計な気苦労を背負っている。
「レニちゃん。アンジェリカさんは?」
「先ほど一緒に警備巡回中にリヒター様と別れた瞬間、どっかの馬鹿そうな貴族にナンパされていました」
祭り用の礼装鎧のアンジェリカは、一段と華麗な美女騎士になる。あの美貌なら声を掛けられるのも納得だが、レニの表情が暗い。
何かあったのだろうかとビャクヤは首を傾げた。
「気になっとるん? 助けにいこか?」
「ロリコンの気があるようなので、私は真っ先に逃げろと言われました。逆にアンジェリカさんようにスタイルの良い大人の美女は範疇外のようでしたよ」
美女目当てに見せかけた少女趣味の変態糞野郎だったので、アンジェリカは可愛い後輩のために、自分が前に出て時間を稼ぐのを選んだのだ。
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