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連載
見守る人々
しおりを挟む一方、その後ろでずっと成り行きを見守っていたレニとカミーユとビャクヤ。
レニは心配そうにアンジェリカの背を見つめていたが、その隣でカミーユが萎れている。
「お腹がすいたでござる……某もパーティのご馳走を食べたいでござる」
「職務中や。我慢しぃ」
呆れ顔でビャクヤが窘める。現在職務真っただ中である。
「サボったら良くて減給、最悪クビですからね。二人ともまだ見習いなんですから」
レニパイセンからの厳しい忠告に、見習い騎士二人の背筋が伸びる。
「「はい!!」」
とても良いお返事に、満足げに頷くレニだった。
その様子にこの三人の力関係を見た気がするリヒター。
レニの愛らしくも頼もしい笑みに、自分の母のミリアを思い出すのだった。
「……何かしら。今とても失礼なことをされた気がしたわ」
「あら嫌だ、ミリアったら。天下の宰相夫人を誹る愚か者がどこにいるの?」
ふと顔を上げ端正な美貌を歪めたミリアに、マリアベルが呆れたように返す。
貴族から一通りの挨拶を終えたマリアベルは、旧知のミリアと休憩をしていた。
二人の旦那は休んでいる妻の分も精力的に動き回り、根回しをしたり釘を刺したりと忙しい。
ティンパイン公式神子の初めての公務でもありお披露目の場。今のところは問題ない。
貴族たちは互いに牽制し合っている最中でもあるのだろう。
「今のところはお利口さんばかりね。このまま無作法者やじゃじゃ馬が現れないといいけど」
軽く言うミリアだが、その表情はさえない。
ティンパイン王家の影響力は強い。
ここ数代、暗君や暴君と言われるようなハズレ国王は輩出しておらず、国は安定していた。
完全な一枚岩ではないが、国王派が貴族の中でも一番力を持っている。
だから、反意を持つ貴族たちは息をひそめて大人しくしているのだ。
国一番――それも近隣国でも群を抜いた加護持ちの神子様とお近づきになりたい貴族は多いが、国王派の者たちが目を光らせているうちは無理である。
だが、国の外となると話は別。
「テイランのエマ王妃、いらっしゃっているのよねぇ」
うんざりとした表情が滲むマリアベルに、同じような顔で頷くミリア。
「何度断っても、シン君にご挨拶したいってうるさいのよ。王都に着いてから、毎日騒いでいるから嫌になるわ。チェスターの顔がますます怖くなっちゃうじゃない」
夫の眉間の皴と目つきが日増しにきつくなっている。妻としては由々しきことだが、原因が消えない限り根本的な解決は無理だ。
テイラン王国の王妃エマ。美しいが、刺を持った毒花である。
彼女は挨拶というか、プライベートのお茶会に招待したいだの、滞在している屋敷の庭園を見せたいだのと騒いでいる。
あの手この手で直接神子に交渉しようと企てているのだ。
当然ながらそれはすべて却下されている。
でも、相手はめげない・やめない・諦めないでしつこく食い下がってくる。
「もし、何か天変地異が起こって神子様の説得に成功したとして、国は立て直せると思っているのかしら?」
マリアベルが見る限り、エマにその器量があるとは思えない。男を弄ぶ才能はあるようだけれど、為政者としての才能はゼロである。
だからこそ、決定打がくるまで諦めないだろう。
実に迷惑な話である。
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