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ルクスの評価
しおりを挟む「ティルの面倒を見てくれているルクスには感謝だよ。彼の能力ならもっと上を狙えるんだけど、本人はその気はないようだし――っと。噂をすればというやつだ」
そう言ってフェルディナンドはバルコニーの手すりの向こうを指さす。
バルコニーからは庭園が見下ろせるようになっている。
その一角にルクスが立っており、そばのガゼボにティルレインとヴィクトリアがいた。
ティルレインとヴィクトリアは楽し気に会話をしている。時折、庭園の花や庭木を指さしながら笑い合っており、仲睦まじいというのが似合う光景だ。
その時、ルクスは何かに気づいて護衛の騎士と短く言葉を交わすとその場を離れた。
グラスを複数載せたトレーを持ち、歩いている給仕と言葉を交わし、二つのグラスを受け取る。
給仕が背を向けた時、さっとグラスに手をかざして何か確認をしていた。
「ああ、魔道具で確認しているんだね。毒味だと、遅効性の毒は見逃してしまう時があるから」
フェルディナンドがうんうんと頷いている。
鑑定的な能力が付与された魔道具により、即座に毒を検出できるそうだ。第三王子とその婚約者に渡すグラスなのだ。警戒も当然のことである。
平和なタニキ村とは違い、王宮には権謀術数が飛び交っている。ルクスの警戒心も上がっていた。
確認の仕草もさりげない。素早く的確。余程しっかり見ていなければ軽くグラスの位置を直したくらいにしか見えないだろう。
「なんであんな優秀な人が、ティル殿下の侍従になったんでしょうかね」
「彼は面倒見が良いから、一番駄目な子のティルがほっとけなかったんだろう。末の弟たちよりおっちょこちょいだから」
「下の弟さんですか。会ったことないんですけれど、天狼祭いらっしゃらないんですか?」
「いるんだけど、天狼祭が楽しみすぎて最近寝不足なようなんだ。毎年楽しみにしすぎて、体調を崩すんだよ」
遠足の前日に寝られなくなるのと同じパターンだ。微笑ましいのだが、困ったフェルディナンドが非常に生ぬるい目をしている。
「昔のティルのように熱を出すことはないから、少し休めば治るよ。幼い頃のティルは本当に病弱だったからね」
「今では本当に元気ですよね……」
真夏の炎天下でも畑に飛び出し、真冬の雪の中にでもはしゃぎ回っている。
そんな光景を、シンはタニキ村で何度も目撃していた。
ティルレインという共通の話題があったので、なんだかんだフェルディナンドとの会話はその後も続く。
アンジェリカやレニ、カミーユやビャクヤはシンが動くたびに衣装を持ったり、飲み物を手に持って控えたりしている。リヒターは直立不動で、周囲に気を張っていた。
彼らは付き人や護衛として極力出しゃばらないように黙っているので、シンとフェルディナンドだけの会話になる。
ほぼ初対面だが、フェルディナンドの気さくで穏やかな雰囲気に自然とシンの緊張も解けていく。
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