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カリンの忠告
しおりを挟む「私はもう頭にきて出て行ったんだ! 前々からあそこの王妃にはネチネチいびられていたからね! 国王はあのハリボテ美人に甘いし、誰も咎めやしない! 愛想が尽きたってもんだ!」
テイラン王国の王妃と言えば、自国の危機でも他所の国のオークションに参加して豪遊していたと聞いたことがある。
一つくらいいい話を聞いてもいい気がするが、清々しいくらいない。
叩き潰すことに罪悪感がないのがありがたいくらいだ。
「いいかい、シンの坊や! 祭りに便乗して、あの国は坊やを誘拐しようとか考えかねない! 気を付けるんだよ! めんつゆはおばちゃんがまた作ってあげるから待っときな!」
眦を釣り上げながら、シンの胸ぐらを掴む勢いで言い含めるカリン。
その後も、テイラン王国がいかに悪辣かを説いて、ゆめゆめ警戒を怠らないように強く訴え続けた。
「同郷のよしみって、のもあるけど……未来ある若者がまたあの国に搾取されるかもしれないなら黙っていられなくてね。おばちゃんのお節介だけど」
ちなみにカリンはトラッドラ国を経由し、ティンパイン王国まで亡命したそうだ。
そして、この国でとある男性と恋に落ちてそのまま定住することを決めた。
今では主婦と聖女の二足の草鞋を履いて、充実した日々を過ごしている。ティンパイン王国は愉快な王族が多いが、無能ではない。能力ある人へは手厚く待遇する。
もちろん、彼女にしかできない仕事もあるので忙しいこともあるが、以前とは比べ物にならない。
ずっと青い顔をしていたルクスが口を開く。
「あ、あの……シン君。このことを宰相閣下は……」
「知っているよ」
シンが加護持ちなのは、ここにいるメンバーは周知の事実だ。
チェスターが知っていると聞いて、ルクスは安堵している。
シンのことはティンパイン王国で庇護はしているが、実質的な保護者役はチェスターだ。息苦しい生活をせずに済んでいるのは、彼の配慮が大きい。
テイラン王国に居続けていたら、カリンの危惧していた結果になっていただろう。
(僕は分りやすくやばい能力を要求しなかったからよかったけど……)
異世界転移する時に、強欲にスキルや称号を要求していたら今もテイラン王国に囚われていた可能性が高い。
シンと同じバス事故転移の異世界人たちの中には、フォルミアルカを怒鳴りつけていろいろカツアゲしている者もいる。
(チェスター様は優しい人だよな……顔は怖いけど。無理強いして加護を調べないし、根掘り葉掘り事情はきかないし)
それはシンが問題を起こす側ではなく、解決をする側の人間だというのも大きい。
互いの信頼関係が成り立っている証拠だ。
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