140 / 229
連載
我儘な依頼主
しおりを挟む「ここでも燃やすのはやめてくれるかしら? 煤でうちが汚れたら困るのよ。燃え移ったりしたらどうするの?」
蔦が蔓延ってカビと罅だらけのなのに何をいまさら――そう思ったが、三人は依頼主だから飲み込んだ。
どんなにばっちい外見でも、その人にとっては大事なマイホームである。
「ほんなら処分費用は別料金貰えます? 俺ら聞いたのはあくまで除草作業だけやったんで、本来は蔦の撤去や掃除は範疇外ですわ。庭師さんや清掃業者に頼めばええんですから」
先に頭にきたらしいビャクヤがそう言うと、途端に老婆は顔をくしゃくしゃに歪めた。
「酷いわ! 老い先短いっていうのに、僅かな蓄えすら搾り取ろうっていうのかい!?」
「じゃあ、取った分は置いとくんで処分はそっちで頼んます」
老婆の涙が嘘泣きだと気付いたビャクヤは、冷徹に判断を下す。
老婆も老婆で涙の演技に引っかからなかったビャクヤを睨んで、すぐさま態度を翻した。
「こっちだって金払ってるんだからちゃんとやんな!」
ビャクヤと依頼人が一触即発の雰囲気になりかけたので、カミーユが「ビャクヤ、落ち着くでござる」と止めるがヒートアップは止まらない。
ため息をついてシンは前に出た。
「じゃあやりますよ。依頼の紹介文通りの『庭の草むしり』だけは」
厄介なことにここに蔓延る蔦は野ばらのアイビーのように硬くて丈夫なタイプだ。
一年草ではなく何年もかけて広く繁茂する。
依頼の紹介文では「夏場に伸びてしまった草を取ってほしい」という内容だ。しかも草の長さも膝丈くらいという触れ込みだから、実際とかなり違う。
膝どころか、身長を追い抜いている草だってたくさんあった。
こまめに手入れをしていた庭なら、こんなにならない。
シンはあくまで笑顔だった。
相手は老人だし、ご婦人だ。そう言い聞かせ、何とか怒りを押さえつけている。
笑顔であるが、その煮えたぎる感情は滲み出ていた。
「依頼文の故意の虚偽申請は悪質ですよ。それはこちらからもギルドの一報入れさせてもらいます。次回からは依頼の受付を拒否されるかもしれませんので、今後はおやめください」
シンの静かな怒りにビャクヤは引っ込み、カミーユも怯えた。
依頼人もこれ以上怒らせたら、ギルドのいろいろ報告が行くと理解したのかすごすご引き下がった。
冒険者ギルドはビギナー用に、何でも屋のような安価だが手軽な依頼がいくつもある。
子供の手伝いのような配達や、掃除などもその一つだ。
プロを雇うほどではないが人手が欲しい時など、一般の人から依頼が来る。
結局、シンたちは草だけを除去して依頼を済ますことにした。
依頼人が庭木の剪定や池の掃除もさせようとしていたが、本性を見た後は誰もそんなやる気は起きない。
午前中とは違い、午後の依頼はなんとも不愉快なものとなった。
もちろん、ギルドにはこの依頼内容の虚偽については報告した。
1,529
お気に入りに追加
30,791
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
お姉ちゃん今回も我慢してくれる?
あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」
「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」
「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」
私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。
代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。
お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。
ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい?
お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。