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我儘な依頼主

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「ここでも燃やすのはやめてくれるかしら? 煤でうちが汚れたら困るのよ。燃え移ったりしたらどうするの?」

 蔦が蔓延ってカビと罅だらけのなのに何をいまさら――そう思ったが、三人は依頼主だから飲み込んだ。
 どんなにばっちい外見でも、その人にとっては大事なマイホームである。

「ほんなら処分費用は別料金貰えます? 俺ら聞いたのはあくまで除草作業だけやったんで、本来は蔦の撤去や掃除は範疇外ですわ。庭師さんや清掃業者に頼めばええんですから」

 先に頭にきたらしいビャクヤがそう言うと、途端に老婆は顔をくしゃくしゃに歪めた。

「酷いわ! 老い先短いっていうのに、僅かな蓄えすら搾り取ろうっていうのかい!?」

「じゃあ、取った分は置いとくんで処分はそっちで頼んます」

 老婆の涙が嘘泣きだと気付いたビャクヤは、冷徹に判断を下す。
 老婆も老婆で涙の演技に引っかからなかったビャクヤを睨んで、すぐさま態度を翻した。

「こっちだって金払ってるんだからちゃんとやんな!」

 ビャクヤと依頼人が一触即発の雰囲気になりかけたので、カミーユが「ビャクヤ、落ち着くでござる」と止めるがヒートアップは止まらない。
 ため息をついてシンは前に出た。

「じゃあやりますよ。依頼の紹介文通りの『庭の草むしり』だけは」

 厄介なことにここに蔓延る蔦は野ばらのアイビーのように硬くて丈夫なタイプだ。
 一年草ではなく何年もかけて広く繁茂する。
 依頼の紹介文では「夏場に伸びてしまった草を取ってほしい」という内容だ。しかも草の長さも膝丈くらいという触れ込みだから、実際とかなり違う。
 膝どころか、身長を追い抜いている草だってたくさんあった。
 こまめに手入れをしていた庭なら、こんなにならない。
 シンはあくまで笑顔だった。
 相手は老人だし、ご婦人だ。そう言い聞かせ、何とか怒りを押さえつけている。
 笑顔であるが、その煮えたぎる感情は滲み出ていた。

「依頼文の故意の虚偽申請は悪質ですよ。それはこちらからもギルドの一報入れさせてもらいます。次回からは依頼の受付を拒否されるかもしれませんので、今後はおやめください」

 シンの静かな怒りにビャクヤは引っ込み、カミーユも怯えた。
 依頼人もこれ以上怒らせたら、ギルドのいろいろ報告が行くと理解したのかすごすご引き下がった。
 冒険者ギルドはビギナー用に、何でも屋のような安価だが手軽な依頼がいくつもある。
 子供の手伝いのような配達や、掃除などもその一つだ。
 プロを雇うほどではないが人手が欲しい時など、一般の人から依頼が来る。
 結局、シンたちは草だけを除去して依頼を済ますことにした。
 依頼人が庭木の剪定や池の掃除もさせようとしていたが、本性を見た後は誰もそんなやる気は起きない。
 午前中とは違い、午後の依頼はなんとも不愉快なものとなった。
 もちろん、ギルドにはこの依頼内容の虚偽については報告した。



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