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連載
危険な王妃エマ
しおりを挟む「どんなスキル?」
「魅了です。他にもあるのですが、最も得意として危険なスキルはそれです」
「僕もあっさりかかっちゃう奴ですか?」
シンはそれなりに冒険者業をやっている。レベルも高いし、ステータスも相応に上がっているはず。さらに異世界転移特典や神の加護といったプラスαもあるのだ。
総合すると簡単に魅了される気がしない。
「そんなことさせません! 主神ガードで、そんな悪いスキルはシャットアウトです!」
そう言って飛びあがったフォルミアルカは、シンの額をぽちっと押す。
それを合図のように額から温かさが伝わり、それは脈打つように全身に広がった。
ぎょっとして自分の体を見下ろすと、オーラのようなものを纏って仄かに発光しているのが分かる。
「これでシンさんは大丈夫……なんですが、あくまでシンさんだけなんです。シンさんのみの周りの人は、主神ガードができないんです。
シンさんは私をはじめとした神々にたくさんの祈りを捧げ、加護を受けているので干渉が可能なんです」
フォルミアルカが、とつとつとしゃべり始める。
先ほどまでの勢いは萎れ、非常に申し訳なさそうにしていた。
「つまり、このガードは僕だけが特例でほかの人はその限りではない……と」
「はい。彼女がシンさんの周囲の人を魅了で操ってしまう可能性はあります」
こくりと頷いて、シンの言葉を肯定するフォルミアルカ。
彼女もその状況を懸念しているのだろう。
「こちらとしてもエマを止めたいのですが、彼女はまだ行動前です。何も起きていない現状ですので……」
「それは難しいんですね?」
「はい。基本は人の問題は人で解決が鉄則です」
神々は大いなる力を持っているが、過干渉はよくない。してはいけないということになっている。
天変地異や魔王発生など、脅威や危機のある場合は例外だが、基本は現地の存在たちに委ねる方向性だ。
直接手出しはせずささやかな手助けが大半である。
だが世話焼きなフォルミアルカは、自分の世界に甘い。ついつい多く手を差し伸べてしまうのだ。
それも、シンに過去に注意されて改善しつつある。スキルやギフトの大盤振る舞い控えていた。
「ん? ……魅了ってスキルですか? 彼女も異世界転移者や転生者ですか?」
「はい。かなり昔の……ですが、彼女はかなり特殊で強力な能力ですので」
「……昔?」
そこでハッと気づいたフォルミアルカは、バット頭を抱えてうなりだした。
ぶつぶつと「シンさんになら……」「いや、でも」「だけど狙われているし」とかなり迷っているのが察せられた。
「……ワケアリってことですか?」
項垂れに近い頷きをするフォルミアルカ。
神様基準での昔は相当じゃなかろうか。数年じゃなくて、数十数百という年月の可能性もあるとシンは考えた。
フォルミアルカが意を決して口を開こうとしたとき、シンに変化が起きた。
指先から、ゆっくり体が透けて消えている。
「ああああー! 時間切れですぅ! 起きちゃいますー! とにかく気を付けて! シンさん気を付けてぇええ!」
それだけ言うのが精一杯のフォルミアルカ。あの幼女女神らしいごったごたの終わりである。
苦笑しながらシンは自分の視界がどんどん明るくなっていくのを感じた。
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