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本日のお宿、決定

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 三人が通されたのは、こぢんまりとしながらも立派な応接室だ。
 歓待の準備は万端と言わんばかりの前菜からメインディッシュ、デザートまでどどんと用意されている。所狭しに並んだ料理の数々は、肉料理一つでも鳥、豚、牛、兎、羊などと幅広くある。

「さぁ、座って。遠慮なく食べて! 今回は身内のお食事だから、テーブルマナーや順番も省略よ! みんな育ちざかりなんだから!」

 シンを自分の隣に座らせたミリアは、さっそく目の前にある料理の説明をする。
 移動中もそうだが、ずっとべったりだ。
 楽しげなミリアはにこにことシンの世話を焼いている。シンは虚無顔になりながら、差し出されたパンを口にしている。

「シン君、奥方に気に入られているでござるな……」

「あのおひぃさん、絶対的に回さんほうがええタイプやわ」

 本能的に危険を察知したのだろう。ひそひそとしゃべっていた二人に、くるりとミリアが振り向いた。
 まさか聞かれていると思わず、カミーユとビャクヤはびくりとする。かなり気まずい。
 だが、ミリアは美貌スマイルでその気まずさをスルーした。

「あらお姫様なんてお上手な狐さんね。これでも子供がいるのよ?」

「「え!?」」

 ミリアの爆弾発言に凍り付く。
 実は、二人はミリアを宰相夫人ではなく宰相令嬢と疑っていた。以前夫人だと名乗っていたが、あまりにも若く見えるからだ。
 ティンパイン宰相のチェスターは四十代だ。年齢相応の外見をしている。
 二十代くらいに見えるミリアが彼の妻だと思わない。固まる二人に「わかる」とシンは頷く、
 アンチエイジングの鬼であるミリアは、その飽くなき努力により美貌を維持している。
 シンお手製のスキンケア用品を使うようになってから、その若々しさはさらに増していた。
 結果、二人は宰相令嬢じゃなかったとしても、第二夫人以降や後妻ではないかと考えていた――ナチュラルにそういう考えが出てくるのがテイランで培われた悲しくも爛れた結婚観である。

「僕は会ったことないけど、息子さんは二十代半ばと後半だよ」

 鈍器で頭を殴打されたような衝撃を受ける騎士科コンビ。
 シンは再び頷いた。初めて聞いたときは衝撃を受けたものだ。彼もそうだったからこそ、二人の心がよく理解できた。

「……ちなみにご種族は?」

 恐る恐るとビャクヤが聞くと、茶目っ気たっぷりのミリアが明るく答える。

「純粋な人間よぉ」

「二人とも言いたいことはわかるけど、顔は無理かもしれないけど口には出すなよ」

 シンの忠告に、二人は同時に口を押える。うっかり余計な言葉がまろび出てしまいそうだった。
 顔からは驚愕と混乱が駄々洩れだったが、レディにデリカシーのない発言をするのは避けられた。

「あ、そうそう。宿泊はこちらにするといいわ」

「そこまでお世話になるには……」

「でも、ここ以外に行ったら駄々こねたティルレイン殿下くらいならともかく、国王陛下にごねられたら王宮に連れていかれちゃうわよ?」

「お世話になります」

 王宮でお世話になるくらいなら、貴族のお屋敷――それも気心が知れているドーベルマン邸なら安心だ。
 シンの天秤はあっさり傾いた。
 王宮にいたら嫌でも王族に会うだろう。タニキ村でも脳内お花畑な第三王子によく遭遇していたが、それとは比較にならないガチなロイヤルと遭遇する恐れがあるのだ。
 というより、すでに一度遭遇している。トップオブトップの国王陛下と、予期せぬ邂逅を経験済みのシンである。
 ことあるごとにロイヤル馬鹿とチェスターが扱き下ろすくらいには、お気楽にその軽すぎるフットワークを披露してくれる。

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