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連載
それぞれの戦闘準備
しおりを挟む遠吠えの応酬は更に大規模になっていく。
当然、タニキ村にも届いた。
最初は一つ大きな声が。それに呼応してたくさんの遠吠えが一斉に上がった。
櫓にいる警備以外の人々も、その声の多さに飛び起きた。ひとつひとつは大したことがなくとも、数の暴力となっている。無数の声が、四方八方から響いてすでに家の周囲を囲まれていると思う程だ。家の中に居ても、その声量や恐怖で飛び起きる者は何人もいた。
その中には当然、シンたちもいた。
「何これ、うるさっ!?」
「奴さんら、随分気合入っとるみたいやな。流石の俺でも分かるで。食いに行くぞって言っとる」
「ビャクヤ、狼の言葉が解るの?」
「お狐さんほどやないけどな。狼と狐は一応同じイヌ科やし。でも、ほんまにちょびっとやな。人間で言う方言みたいに、同じ狼でも種族ごとに微妙にちゃうんよ」
腐ってもケモミミ持ちなので、シンよりもいろいろ聞こえていたそうだ。
だが、同じ英語でもアメリカ式やイギリス式がある。さらに細分化すると同じ国内でも生活階級の違いからスラング、コックニーなどもある。
日本でも同じ日本語でも多くの方言が存在するし、同種民族でも言葉がバベル状態なのはままあるのだ。
「あれ? カミーユは」
「まだグースカ寝こけているバカタレなら、寝相のせいであっちまで転がっとる」
シンがカミーユの姿を探すと、冷たい眼差しのビャクヤが布団とはだいぶ離れた場所の床の隅を指さす。
そこには大口を開けて爆睡中のカミーユがいた。
未だ遠吠えが響きまくる中、起きる気配はない。
「うっわ、このうるさい中まだ寝てられるの?」
「起きんか、阿呆」
呆れるシンとビャクヤ。会話中も一切目覚める気配はない。見かねたビャクヤが近寄っていき、げしっと蹴りが脇腹に入る。
さすがにカミーユも目が覚めたようだが、痛みに腹を押さえて呻いている。
「おはようさん。腹ペコ狼どもがご挨拶しとるで。さっさと起きて、着替えせぇ」
痛烈なモーニング――時間的にはナイトコールに、何とか起床したカミーユだった。
シンは内心、カミーユは野営や寝ずの番は出来るのかと不安になった。こんなに物音や気配に疎くて、警戒が必要な護衛などできなさそうだった。
月明りだけでは心許無いのでランプを付けて、部屋を明るくする。
視界が良くなったので、ビャクヤはてきぱきと布団を脇に寄せて着替えを始めた。カミーユは眩しそうに目をしょぼしょぼさせ、状況把握に時間がかかっている。
ビャクヤは完全に戦装束だ。軽装だが鎧を着こみ、武器を身に付けている。髪も邪魔にならないように素早く結い上げていた。
シンも胸当てと魔弓グローブを装着している。シンは遠距離攻撃タイプで、近づいたとしてもヒット&アウェイのスピード型なので身のこなしを重視している。
「……これはまた、随分大仰に仕掛けてきたでござるなぁ」
朗々と響き渡るたくさんの遠吠えに、ようやく目が覚めたカミーユは少し顔を引きつらせている。既に狼は十や二十と言う数ではないのは想像できた。
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