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連載
見回り三人組
しおりを挟む事態はゆるやかに、しかし確実に悪化する一方だった。
まずは結界、食糧の期限が近づいている。村人もずっと戦場のさなかに置かれた状態で疲弊していく。
不安と焦燥が増して、日を追うごとに空気がピリついてきた。
飛竜隊は戻ってこないし、王都を始めとして各方面からの連絡が途絶えていた。
ワイバーンがいなければ空路が使えない。移動に必須なワイバーンが田舎にいるはずもなく、逃げることもできない。
ジリ貧になるのも時間の問題である。村のどんよりとした空気に、シンはそっと嘆息した。
(空気、最悪だな)
「空気ごっつぅ悪いな」
「仕方ないでござる。彼らは軍人や傭兵ではなく、村人でござるよ。不安で心が乱れることもあるでござる」
シンの心を読んだように、ビャクヤが言う。それに理解を示しながらも、宥めるカミーユ。
今日の三人は、結界や柵に異変がないか見回りをしていたのだ。
「なんか巻き込んじゃって悪いな」
二人は、ただ田舎で住まいと引き換えに駄犬王子のお守りをさせるだけのはずが、ヤバい災厄級モンスターとの籠城戦である。ノーマルモードから、ハードやベリーハードを吹っ飛ばしてアンノウン急に難易度が上がっている。
「うん? 何がでござるか?」
首を傾げて、紺色のポニーテールを揺らすカミーユ。
「シン君のせいじゃあらへんし。王都に居ても素泊まりと野宿で採取や魔物退治しながらカッツカツに過ごすのは目に見えてたんや。ここなら寝床も飯も風呂もある! 問題なし! 財布に優しいのが何よりや!」
言い切ったビャクヤ。シンはお風呂大好き日本人なので、当然マイホームにある。
土魔法と煉瓦で作った五右衛門風呂スタイルで、魔法頼りの湯加減はちょっとアバウトだ。
だが、庶民からすればお風呂は高級施設だ。公衆浴場などはあるが、個人所有は富裕層に多い。
そんな場所がプライスレスだ。価格にできないのではなく、無料という意味で。
カミーユもビャクヤもそれなりに部族や名家の出身だが、その恩恵を大きく受ける側ではなかった。なので、感覚が平民寄りである。
ティンパイン王国に来てからは、家の援助なんてほぼゼロなので尚更だ。
「しかし、ティンパインは動くのでござるか? 相手の厄介そうでござるが、ここはど田舎でござるよ?」
心配そうに言うカミーユに、肩を竦めるビャクヤ。
「そやな。テイランなら一発で見捨てるやろ」
このテイラン王国出身の二人の扱き下ろし方が酷い。弱者切り捨ての風潮のあるテイランは、富や栄誉が一点集中だった。
「ルクス様は残っているし、パウエル様はつい最近王家に目を掛けられたばっかりだしさ。王子の療養先だし大丈夫じゃない?」
絶対救出に来るはずだとシンは分かっている。
ティンパイン公式神子であるシンがいる限り、ティンパインは見捨てることはないだろう。
シンはよく分からないが、加護を受けた存在は国を挙げて保護して持て成すのが基本らしい。
(でも、竜騎士さんたちが戻ってこないのは気になるなぁ。なんかあったのかな?)
その時、視界の隅で見慣れた馬が柵の傍にいるのに気づいた。
下に顔を向けているから草でも食んでいると思ったが、そこには剥き出しになった黒々とした湿った土が広がっている。穴掘りでもして遊んでいたのだろうか。もしくは、何かミネラル的な栄養素の味でも感じたのかもしれない。
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