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連載
警鐘4
しおりを挟む自分の提案で引き受けたものの、ブラッドウルフは隙あらば馬上の人間を狙うので仕留めにくい。人も馬も狼も動いているので、狙いは定めにくかった。人にはかすっただけで大惨事になるので、高火力の魔矢は打てないのも面倒だった。
地道に手数でダメージを稼ぐしかない。
バシバシ当てているのにブラッドウルフは怯む気配がないのが、腹が立つ。
(なんつータフさだよ!)
ブラッドウルフの手足には何本も追加でお見舞いした。貫通しているのに、その足取りは緩まない。
シンは舌打ちを堪え、焦燥感を抑え込む。焦って狙撃の命中度を下げれば元も子もない。
目的はブラッドウルフを仕留めることではなく、村人を助けることだ。
自分を落ち着かせるため、シンは一度大きく息を吸ってゆっくり吐き出す。
次に構えて番えた矢は、まるでギロチンのように大きかった。
「シン殿! 何する気でござるか!?」
矢じりというより錨のようなサイズである。魔矢は放つというより落とすというような角度で構えられた。
斜め上から狙うと、人を巻き込みかねないのだ。
「ギロチン。首だろうが胴だろうが真っ二つにすれば死ぬだろ」
「やったれやったれ! あのブラッドウルフ、ゴキブリよりしぶとそうや!」
ビャクヤが殺意の高いやったれコールをあげる。
騎士科コンビがうぞうぞと湧き出るようにきりがないブラッドウルフに、かなり精神的に追い詰められているようだ。
そんな間にも一番先頭の馬がタニキ村の門をくぐった。
門は上からも閉じられるが、左右からも閉じられる。どちらかが壊れてしまっても、どちらかが動けばいいように二重構造にしたのだ。
一頭目に続き後続がどんどん入っていく。それに追従しようとするブラッドウルフには矢と石がとんでくる。ひときわ大きなブラッドウルフはめげない。スピード緒をさず、しんがりの馬尻に齧り付きそうなほど肉薄してきた。
「させるか!」
空気を切り裂く音と共に、特大の矢が放たれる。
大きく開いた口を分断する。顎(あぎと)が真っ二つになり、流石にこれには絶命する。だが、かなりの速度で走っていたので扉にその巨躯が挟まった。
(しまった!)
そのブラッドウルフは仕留めたが、その死体のせいで門に隙間ができた。
必死に閉門しようとするが、巨大な狼の骨は頑丈でなかなか閉まらない。
当然、その絶好の好機をブラッドウルフたちが逃すはずがない。捨て身の勢いで他のブラッドウルフたちが詰めかける。流石に全部通れるわけがなく、小柄で若い個体が滑り込もうとしたが、シンをはじめとする弓を扱うものたちが集中砲火を浴びせる。
幾つもの矢でハリネズミのようになって絶命していくが、のたうちながらも中に侵入しようとする執念に何人かが腰を抜かしていた。
(ブラッドウルフたちを足止めして、死体をどうにかしなきゃ……!)
シンは火の魔法を宿した矢を作る。門を守るように半円状に打ち込み、火柱を発生させた。それがたくさん集まれば、炎の壁となる。
突如現れためらめらと燃え盛る炎に、ブラッドウルフたちは躊躇うように周囲をうろついた。シンはそれを確認して下に降りる。
「どいてください!」
両手で地面を叩き、同時に魔力を注ぎ込んだ。
もごもごとシンの意志に呼応するように動いた地面は、ずぶずぶと底なし沼を思わせる動きで死体を埋めていく。
障害物のなくなった門はようやく閉じ、周囲からは安堵と歓喜の声が漏れる。
「シン殿! 外のブラッドウルフたちも引いたでござる!」
「諦めたの?」
顔を出したカミーユの言葉に、深々と溜息をついたシンはずるりと座り込む。ドッと疲れが出てきた。
だが、その安堵に水を差すようにハレッシュが否定する。
「アイツらはそんなタマじゃない。先に落とした村で逃げ遅れたのがいないか探しに行ったんだろう。また来るぞ」
その残酷な断言に、シンだけでなく周りも青い顔で呻きを上げた。
そんな中、大量の矢を担いだアンジェリカが戻ってきた。
かなり重かったようで、追加の投石用の石を引いてきた馬と一緒に肩で息をしている。
ありがたく補充として使わせてもらうこととした。一度ブラッドウルフたちは引いたが、またいつ来るか分からない。
アンジェリカは間に合わなかったと恥じていたが、居座られていたらとても必要となっただろう。緊急時でも、次のことを考えて行動したアンジェリカは立派である。
何はともあれ、隣村から逃げてきた村人は無事に保護できたし、ブラッドウルフの襲撃は退けたのだった。
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