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ストーカーは推しに貢ぎたい④
しおりを挟むエルストンは新聞を読みながら、おやと片眉を上げた。
なんでも隣国が魔王討伐のために編成した勇者パーティが、呪怨王と恐れられる呪いと魔法に長けた魔王を討伐したのだという。
おかしい。エルストンはつじつまが合わないことに気づいた。
確か、出発したのは先月。討伐対象の魔王の根城は、瘴気が濃厚に漂う魔境。距離だけでも馬を使い潰しながら全力でいったとしても三月は掛かるはずの場所だ。計算だと、勇者がつく以前の問題である。
華々しい凱旋をしているということだが、権力のごまかしの気配しか感じない。
そういえば、先週あたりに例の魔王がいるという方角がやけに光っていた。
昼間だったので、何か光るものが偶発的に反射したのかと思ったが‥‥…
(まあ、気のせいだろう)
そんな都合のいい話があってたまるか。
だいたい、勇者パーティが編成されたのはもうこれで六回目。前回のパーティは半年ほど前、なんとか魔境の付近に行けたそうだ。しかし、そこから吹く瘴気の風にやられて、皮膚が爛れ肺が腐り落ちたそうだ。
運よく生き残った者もいたが、それでも瘴気の影響は防げず腐り落ちていく体に悲鳴を上げながらもがき苦しみ、ついに治療の甲斐なく亡くなったと聞く。
そんな状況で、第三者が見返りもなく恐ろしい魔物――それも魔王と呼ばれる存在になど立ち向かうものか。
ぺらりと読み終わった新聞をめくる。
その見出しは『連続令嬢誘拐事件を解決! 謎の美少女! 正義の使者プリンセス☩シスター・ハピネスエメロード!』と見出しが躍っている。頭湧いてやがんな、この記者。エルストンは呆れながらもちゃんと目を通す。
挿絵ではパンチラ寸前の涙目の愛らしい少女が、片手でスカートを押さえながらロザリオのついた錫杖で男を殴っている。心なしか殴られている男は嬉しそうだ。
なんかひでえもんをみた。
エルストンはスンと真顔になった。
そんなエルストンの心へ清涼な風を届けてくれたのは双子の弟妹だった。
ティーセットのワゴンを押すロヴェルと、本日の茶菓子だろうものがはいったバスケットを持ったアリエッタ。車いすに乗ったアリエッタを、メイドが後ろから押している。
いつもより、少しだけ時間が早い。ロヴェルたちの催促に負けたのだろう。
「お兄様、今日のおやつは町で評判のヌッコまんですよ!」
何故か自慢げなロヴェルが微笑ましい。エルストンも思わず笑みがこぼれた。
素早く配膳をするメイドは流石というべきか。
白い皿に鎮座する白パンは三角耳とシンプルな目とマズルが描いてある。
「へえ、ヌッコ型か。面白いな」
「ヌッコさんの形をしているんですか? なるほど! 確かにヌッコさんですね」
手を拭いたアリエッタが、お皿からヌッコまんをとって触りながら頷いた。
ヌッコまんは作ってから時間がそう経っていないのか温かい。
ロヴェルはさっそくかじりつき、中身の熱さにハフハフと不器用に食べている。そして、アリエッタやエルストンが自分とは違う中身のヌッコまんと気づいて、視線が行き来していた。
「熱いから気を付けて食べるんだよ、アリエッタ。ロヴェル、そんなに気になるなら半分こするか?」
「ありがとうございます、お兄様!」
翌月、シーフード味とプリン味ができたとかできないとか。
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