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25話 トレイターの憶測《others side story》

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-トレイターの診療所では


「ねーねー、ボク飽きちゃったよ」


ビトレがしっぽを振って、ゴロゴロしている。横目には怯える衛兵たちがトレイターから目を離さずに立っている。足は竦んでいて、なんとも情けない。


「まあ、好きにすればいいよ」 


トレイターは全く気にさず適当に返して、広げた地図を片っ端から目を通す。リアムの力のことは口外できないので、どこに逃げたかを探るために、診療所から近い場所に目をやる。


「どこに逃げたかなぁ。ねぇ、キミ何か見なかったの?」


トレイターは机にうなだれて相も変わらずの口調で、衛兵の一人に話しかける。いきなり話しかけられて、驚きを隠せず肩をビクッとさせてからその兵はこう答える。


「どこか、不思議な光がピカっと目を埋め尽くされるくらい、光ったんです。その光が引いた後には二人はいませんでした」


トレイターは目の色は変えないものの、こいつに隠し事がバレていることは心の中で知覚していた。


(後で消すか…)


心の中では闇ばかりだろう。


「へぇー、面白いね」


とりあえず、普通の反応を返す。トレイターにとって都合のいいのはこの行動だけであろう。何かを思いついたトレイターは立ち上がって、手荷物をまとめ始めた。


「ビトレ、俺なんか疲れたから出かけてくるわ」


ビトレは崩していた姿勢を戻して急いでトレイターに向かって、てちてちと歩いた。 流石に突飛すぎる言葉を放ったトレイターに驚きや怒りを隠せず、もふもふからは想像できないような冷たい言葉をツバメ返しにする。



「ヒドイよ。ボクも行く」


トレイターに飛びついてムスッとした顔でありながらも、ビトレはトレイターの顔色を伺う。


「別に来るなって言ってないだろ」


トレイターは無愛想に返す。衛兵が一番驚いて一人と一匹に返す。


「一体、どちらへ向かうつもりで…」


衛兵は下手に出てトレイターのを見て話す。


「うーん、“アリシア”でも行くかぁ」


トレイターはビトレに目を合わせた。何かを汲み取ったのだろう。ビトレは飛び跳ねて向こうへ去った。


「いいね!早く準備するね」


一言だけ吐き残して、ビトレは旅の準備を進めた。一体これは、なんの偶然か、どんな憶測か。どちらを取ったとしても、彼らの魔の手が希望に歩き始めた二人を切り裂く時は近い。そして、まだ二人はきづいてはいない。その日の訪れる転機と、まさかの展開に。


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