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8話 大胆な婚約破棄

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「フライアさん、陛下に挨拶を」


リアムは優しい目で私を見つめる。これは彼に教えてもらったセリフを言えという意味で、目の気配りや顔の表情がバレバレなリアムがするにはなかなかわかりやすいと思う。


リアムを嫌っている国王、もとい彼の父はとても険しい顔で私を見ていた。それもそうだろう。いくら息子を嫌っていたとしても、自分の国の後継者を決める大舞台でこんな悪役は目障りにも程がある。少し腰が引いてしまったが、国王の方に体を向けて、会釈をしてからセリフを始める。


「私、リアム様とお付き合いをさせていただいております、フライアと申します。この度はこのような失礼をしてしまい、申し訳ありません」


「許されるとでも思っているのか?」


怒っている。確実に。こんなの見れば分かる。会社で働いていた時に私がしでかしたミスを片っ端から正論攻めで怒ってきたあの時の上司の顔とそっくりだ。いや、こんなのは赤子でも余裕でその感情を読み取れるかもしれない。国王は座っていた玉座から立ち上がり、その大きな体で私を見下した。


「リアム、これは本気なのか?」


国王は私から目線をそらし、リアムに注目を移す。


「ええ、本気です」


リアムはビクともせずに国王の目を見て短く言葉を紡ぐ。切れ長な碧の瞳がしっかりと相手の目を捉えている。


「なら、こんな手段選びたくはないが、取るしかないな」


国王は何か思ったかのように手を大空にかざした。するといきなり、暗雲が周囲にたちこめた。会場はざわめき、悲鳴が聞こえる。逃げ惑う人の群れに倒れるパーティーの夕餉の品々。


私も逃げようとした、その時だった。リアムは私の前に出て、大きな背中に隠してくれた。私を安心させるかのように片手を繋いでくれた。そして目の前に立ち、異様な雰囲気を放つ国王を冷たい視線で鎮まらせた。まさか、リアムにこんなに力があったとは。言葉を介さずとも私の心を読み取る彼は面白いとは思ってはいたが、こんなことも出来るとは思っていなかった。


一気に周りは元に戻った。逃げようとしていた人もキョロキョロと周囲を見渡している。


「さようなら。もう二度と、あなたの前には現れません。きっとあなたには不幸が訪れるでしょうね」


リアムはハッキリと言い放つと、取っておいた便箋をバラまいた。私を手を繋いだまま何か魔法のようなものをつかった。光に包まれてどこかへ行く。 


今思い出すことでも無いかもしれないが、

大切なことを忘れていた。


この後の作戦を、私はリアムから聞いていない。

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