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第四章 復讐の時間ですわ

35話 レイの秘密ですわ

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「ですが、ここにいるヤツらはそんなに甘くありません!」


衛兵たちは心配とともに怒りを含ませて声を上げた。各々があいつらは悪魔だとか仲間なんてとんでもないとかと叫ぶ。


「なら俺も同じか」


レイが遠くを見てそう言う。何が彼を動かしているのかは分からないが一歩ずつ衛兵たちに歩み寄る。


「俺の出身、どこか知ってる?」


トリネがいつもなら口を挟むタイミングなのに彼は一言も発さない。レイの言葉がとても重くて衛兵たちは怯えている。拳を固く握り直したレイがただ俯いてそう衛兵たちに尋ねる。彼らは打つ手がなくて首を横に振る。


「まあ、“甘く”はないよな」


レイは衛兵たちに皮肉を漏らす。不気味な笑みの彼が衛兵たちにまた一歩歩み寄れば彼らはそれを恐れてどんどん離れていく。私でさえ今の状況から逃げたかった。よく知る温厚な母親のような顔をするレイとは似ても似つかない。


「俺、生まれここなんだわ」


笑顔を崩さずにそう、丁寧に告げる。こんな荒れた土地でよく俺も育ったもんだと次の皮肉の的は彼自身に変わっていた。


それを言われてみれば彼がこの国の裏道を知っていたことも、何故か慣れた感じで動く彼も不思議だと思っていたがその疑問が微塵もなくなるほどに砕かれた。


「ですが……」


「で、トリネといつ会ったか、こんなクソガキが。それがお前らの聞きたいことだろ?」


全部知ってるさとレイは衛兵たちの言葉をさえぎった。衛兵たちは申し訳なさそうに小さく首を縦に振る。


「あれはもう何十年前だったかな――」


「、!レイ!危ない!」


レイの思い出話が聞ける、そんな時に現れたのは世に言う盗賊たちだった。トリネがどうにか盗賊たちの短剣を受け止めて誰一人この瞬間に怪我はなかった。


トリネの大剣で弾き返された盗賊の一人の女が見据えた先は自分と手合わせしたトリネではなくレイだった。


「なんで帰ってきたわけ?臆病者のネメア?今はボンボンの機嫌取り、レイって呼ぶべきかな?もう私の事なんて覚えてないんだろうね」


なんて下品な言葉遣いだと思った。でもネメア、その言葉が引っかかる。レイはこうやってトリネに仕える前は他の名前で生きていたのだろうか。それなら私と一緒だ。トリネと会う前、この世界に来る前の私は何の変哲もないただの、どこにでもいる女子高生だった。


「今はお前に関係ないだろ、クイナ。忘れるわけがない」


「へぇー、随分偉い口調になったもんで」


クイナ、そう呼ばれた女性はレイの周りをクルクル回って遊んでいた。

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