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第二章 王子様を探しますわ

12話 彼のことが好きですわ

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「はあ…はあ…」


衛兵たちから逃げることに必死だった私は知らず息を切らして、猛ダッシュしてどうにかトリネの元へ間に合った。


「あの人たち嫌な雰囲気だね」


馬車の横で寄っかかっていたトリネはそうただ真剣な目をして零すと空気を読んでか隣の紳士に指示を出し、馬車の扉を開ければ跪いて私に手を差し出してきた。


おいおい、ちょっと待ってよ。普通そんなエスコートできるか?ただのチャラ男が。驚きを隠せない私とは対照的に首を傾げて早く乗りなよと催促してくるトリネを見てあの衛兵たちに追いかけられていることを思い出して彼の手を借りて馬車に乗り込む。その後にトリネも遅れまいと乗り込む。


「国境でいいよね?うん、国境までお願いしまーす。急いでくれると嬉しいかなー」


トリネの行動に落ち着きを取り戻せないが追われている事実は変わることはないので彼の質問に首を縦に振れば紳士が馬車を走らせだした。


馬車の狭い空間に二人、ほぼ隣に空きが数メートルもない状態で座っている。衛兵の声はもう何も聞こえないし、馬車のスピードはあまりにも速いので周りの声自体がもう聞こえない。


「どうにかなって良かったな」


トリネは何も話さず考え込む私と二人きりの空間が気まずいのか何か話そうと無茶苦茶な切り口で話を始めようとした。


「ありがとう」


私も返しがすぐに思いつくわけがなくて素っ気ないものになってしまう。感謝を伝えたかったのは本気だがそこから先の言葉が出てこない。こういう時に限って気の利いた言葉も小言もそんな自分に対する皮肉さえも出てこない。


「俺も知り合い多くて良かったわーこの人、めちゃくちゃ紳士っぽいっしょ?これでも俺の知り合いでさ、国境まで安く乗せてくれるって」


私が衛兵を見てあたふたしていた間にそんなことをしていたなんて。案外チャラ男なのは見た目と話し方だけで出来るやつなのかもしれない。


トリネに言葉が出なくても気持ちを伝えたくて微笑めば彼は私に無邪気な笑みを返して窓から外を覗きだした。


その横顔がこの二日間、沢山見てきたもののはずなのにどこか美しく見えてしまう。さっき、トリネが私に手を差し出してきた時の上目遣いの綺麗な瞳。適当に切られた無造作な髪型。そして優しい声。話し方はぶっきらぼうで愛想の無い私の金貨をいびるただのヒモかと思ってきた。


だけど、そうじゃないのかも。


私のためにと何かしてくれる姿も本気で、いつも明るく振舞ってくれる。今も彼の行動に、その明るさに助けられたばかりだ。


……私は彼が好きだ。


そう自覚しても、私には使命がある。リースとして復讐をする使命が。そのためには王子様に会って、そうやって進んでしまえばトリネと恋に落ちることは不可能に決まっている。熱くなる私の体を抱きしめて窓の外の黄昏を見守った。


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