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第九話 喫茶店にて
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『純喫茶アカリ』で、クリームソーダを前にして満足そうにしている彼女を見て、僕は少し笑った。
真冬なのに爽やかなメロン色の液体、さくらんぼ、そしてバニラアイスが浮かんでいる。暑い日ならその光景も、さぞかし涼しげに見えるだろうが、今日みたいに寒い日なんて、見ているだけで指まで凍てつきそうだ。
ちなみに僕は、温かいアメリカンコーヒーを頼んだ。
「真冬にそんなの食べて、寒くないの?」
「温かい部屋で食べる、クリームソーダは格別に美味しくて、最高だよ」
そんなものなのか?
確かにここはストーブが近いし温かいもんな。僕は、後味が悪いが一応事件の謎が解け、霊が存在するという、確たる証拠を手に入れたので、彼女との約束通り喫茶店で、クリームソーダを奢る事にした。
「雨宮さん、本当にありがとう。初めてこの目で本物の幽霊を視る事ができた。あのテープレコーダーにも、どさくさに紛れて澤本が録音ボタンを押したのか、奇跡的に奇妙な声が入っていたし、先輩達も大喜びだったよ」
「そんなもの、持っていても障りになるだけだよ」
「まぁ。あれは表に出せないし、オカルト研究部の方で管理するから。澤本は学校の裏山で見つかったようだな。首を吊って死んでいたらしい。遺書もないけど、おそらく自殺として片付けられるだろうな」
そもそも、赤城さんと藤堂先生の殺人を自殺として片付けるほど、警察の捜査は甘い。駐在署の人数は少ないし、殺人事件となると本土から応援を呼ばなくてはならないだろう。そうなると、大人の事情がありそうだ。
ここは、観光地で賑わっている場所もあるから、島の偉い大人達にとっては、あまり公にしたくないのかもしれない。それで遺族が納得するとは思えないが。
「ご遺族には可哀想だけど、澤本は辰子島製薬所の入婿でしょ。あのテープレコーダーを渡した所で、揉み消されるよ。犯した罪を命で償って、あの二人もあの世で澤本を手に入れたんだから、幸せなのかもね」
「雨宮さん、恐ろしい事言うなぁ。澤本の葬式に愛人のスナックのママが来たらしいよ。修羅場になったって噂を聞いたから、あいつは本当にどうしようもない男だ。いずれ女性に、殺されてたかもね」
彼女達の執念は、僕には計り知れないけれど、澤本は二人の命を奪ったのだから、その罪はあの世で償わなければならないと思う。
「それで、雨宮さん。オカルト研究部に入らないかい? いろんな事を勉強できるし、取材合宿と称して他県で観光できるんだよ。今は男ばかりでむさ苦しいけど、女子の部員として雨宮さんが居てくれたら、それに続いて女子が増えるかもしれない。僕らだって、君から教わる事も多いと思うんだ」
「あの世の事なら小さい頃から知っているし、私はお祖母ちゃんと一緒に霊媒師みたいな事もしてるんだけど? 勉強することなんて、もうないんだけどねぇ」
ああ、やっぱりそうだよな。オカルト研究部に入らないかなんて、男でも微妙な反応をされるんだから。
「でも、合宿は魅力がある。これも龍神様のお導きかな」
それは、オッケーって事なのだろうか。僕は身を乗り出して聞いてみる。雨宮さんが居てくれるなら、これほど心強い味方はいない。
「それじゃあ、僕と一緒にオカルト研究部で活動してくれるの?」
「……良いよ。海野先輩がいるなら」
その言葉の意味を聞こうとした瞬間、僕の後ろの席にから、誰かが顔をのぞかせた。
「でかしたぞ、海野くん!! 我がオカルト研究部に、雨宮さんが入部してくれたら、百人力だ! 僕達は熱烈歓迎する」
「これで我がオカルト研究部は安泰だぞ、海野くん。美しく、賢く、霊感の強い雨宮さんが、我がオカルト研究部のマドンナになってくれるのだ。これで、男女共に部員が増えるだろう」
「うわっ! せ、先輩方なにをしてるんですか。もしかして、僕達を尾行してたんです? ちょっと行儀が悪すぎやしません?」
ズズッと僕の横に、強引に座ってきた二人はニコニコと笑いながら、新たにコーヒーを注文する。雨宮さんは動揺する様子もなく、最初から、背後に彼らが居た事を、分かっていたようだ。
そして、ストローに口を付けた。
「失礼だな、偵察と言ってくれたまえ。部の存続をかけた、大事な交渉を見守るのが部長と副部長の仕事だよ。こらから忙しくなるぞ! 辰子島化けトンネルに行く」
「もう、またあのトンネルですかぁ?」
雨宮さんは僕達を無視して、黙々とバニラアイスを食べていた。
僕はそれから、彼女と先輩達と共に様々な霊体験をする事になるのだが、それはまた別の機会に話そうと思う。
❖❖❖❖
明日から第二章に入ります
真冬なのに爽やかなメロン色の液体、さくらんぼ、そしてバニラアイスが浮かんでいる。暑い日ならその光景も、さぞかし涼しげに見えるだろうが、今日みたいに寒い日なんて、見ているだけで指まで凍てつきそうだ。
ちなみに僕は、温かいアメリカンコーヒーを頼んだ。
「真冬にそんなの食べて、寒くないの?」
「温かい部屋で食べる、クリームソーダは格別に美味しくて、最高だよ」
そんなものなのか?
確かにここはストーブが近いし温かいもんな。僕は、後味が悪いが一応事件の謎が解け、霊が存在するという、確たる証拠を手に入れたので、彼女との約束通り喫茶店で、クリームソーダを奢る事にした。
「雨宮さん、本当にありがとう。初めてこの目で本物の幽霊を視る事ができた。あのテープレコーダーにも、どさくさに紛れて澤本が録音ボタンを押したのか、奇跡的に奇妙な声が入っていたし、先輩達も大喜びだったよ」
「そんなもの、持っていても障りになるだけだよ」
「まぁ。あれは表に出せないし、オカルト研究部の方で管理するから。澤本は学校の裏山で見つかったようだな。首を吊って死んでいたらしい。遺書もないけど、おそらく自殺として片付けられるだろうな」
そもそも、赤城さんと藤堂先生の殺人を自殺として片付けるほど、警察の捜査は甘い。駐在署の人数は少ないし、殺人事件となると本土から応援を呼ばなくてはならないだろう。そうなると、大人の事情がありそうだ。
ここは、観光地で賑わっている場所もあるから、島の偉い大人達にとっては、あまり公にしたくないのかもしれない。それで遺族が納得するとは思えないが。
「ご遺族には可哀想だけど、澤本は辰子島製薬所の入婿でしょ。あのテープレコーダーを渡した所で、揉み消されるよ。犯した罪を命で償って、あの二人もあの世で澤本を手に入れたんだから、幸せなのかもね」
「雨宮さん、恐ろしい事言うなぁ。澤本の葬式に愛人のスナックのママが来たらしいよ。修羅場になったって噂を聞いたから、あいつは本当にどうしようもない男だ。いずれ女性に、殺されてたかもね」
彼女達の執念は、僕には計り知れないけれど、澤本は二人の命を奪ったのだから、その罪はあの世で償わなければならないと思う。
「それで、雨宮さん。オカルト研究部に入らないかい? いろんな事を勉強できるし、取材合宿と称して他県で観光できるんだよ。今は男ばかりでむさ苦しいけど、女子の部員として雨宮さんが居てくれたら、それに続いて女子が増えるかもしれない。僕らだって、君から教わる事も多いと思うんだ」
「あの世の事なら小さい頃から知っているし、私はお祖母ちゃんと一緒に霊媒師みたいな事もしてるんだけど? 勉強することなんて、もうないんだけどねぇ」
ああ、やっぱりそうだよな。オカルト研究部に入らないかなんて、男でも微妙な反応をされるんだから。
「でも、合宿は魅力がある。これも龍神様のお導きかな」
それは、オッケーって事なのだろうか。僕は身を乗り出して聞いてみる。雨宮さんが居てくれるなら、これほど心強い味方はいない。
「それじゃあ、僕と一緒にオカルト研究部で活動してくれるの?」
「……良いよ。海野先輩がいるなら」
その言葉の意味を聞こうとした瞬間、僕の後ろの席にから、誰かが顔をのぞかせた。
「でかしたぞ、海野くん!! 我がオカルト研究部に、雨宮さんが入部してくれたら、百人力だ! 僕達は熱烈歓迎する」
「これで我がオカルト研究部は安泰だぞ、海野くん。美しく、賢く、霊感の強い雨宮さんが、我がオカルト研究部のマドンナになってくれるのだ。これで、男女共に部員が増えるだろう」
「うわっ! せ、先輩方なにをしてるんですか。もしかして、僕達を尾行してたんです? ちょっと行儀が悪すぎやしません?」
ズズッと僕の横に、強引に座ってきた二人はニコニコと笑いながら、新たにコーヒーを注文する。雨宮さんは動揺する様子もなく、最初から、背後に彼らが居た事を、分かっていたようだ。
そして、ストローに口を付けた。
「失礼だな、偵察と言ってくれたまえ。部の存続をかけた、大事な交渉を見守るのが部長と副部長の仕事だよ。こらから忙しくなるぞ! 辰子島化けトンネルに行く」
「もう、またあのトンネルですかぁ?」
雨宮さんは僕達を無視して、黙々とバニラアイスを食べていた。
僕はそれから、彼女と先輩達と共に様々な霊体験をする事になるのだが、それはまた別の機会に話そうと思う。
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明日から第二章に入ります
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