雨宮楓の心霊事件簿

蒼琉璃

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第三話 噂の霊感美少女②

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「そうだ。俺の情報によると赤城久美は三階の踊り場にある階段格子に、縄を掛けて首を吊って亡くなった。先輩達の話によると過去に、生徒への指導について悩んでいた女教師が、首を吊ったとか、はたまた死んだのは女子生徒で、痴情のもつれから学校で首を吊ったなんて話もあるんだぞ。これは由々ゆゆしき事態である」
「僕と斎藤くんは、この自殺をきっかけに怪異の危険度が上がったのではないかと推測している。僕達がこの謎を解き明かして、辰子島高等学校……いや、辰子島の民を悪霊や妖怪達から守らねばならないと思っているんだ」

 そんな大げさな……。
 だんだん話が大きくなってきたような気がする。二人とも厄災からこの島を守るんだと胸を張っているけれど、このオカルト研究部は僕を含めて三人しか居ないし、悪霊や妖怪退治なんて、今までした事もないじゃないか。
 せいぜい、この島のお化けトンネルと噂される場所に調査に行くか、オカルト現象を追う名目で、他県に旅行に行くだけだ。

「で、どうやって調べるんです?」
「そこで、だ。君に辰子島高校きっての霊感美少女である、一年生の雨宮楓あまみやかえでくんに調査依頼を頼んで欲しい」

 雨宮楓か。
 たしか、雨宮神社の一人娘だったような。
 僕の実家である、涼風寺がある区域とは真逆にある神社で、寺生まれの僕が、神社を訪れるような機会はなかった。もちろんお正月の初詣なんて物は存在しない。
 そのくせなぜか我が家では、クリスマスツリーを毎年飾るのだが。 
 でも、一学年に巫女さんみたいな綺麗な女の子が居るって言うのは知っていた。遠くから見ても、大和撫子というか、綺麗な黒髪で噂通りの美少女だったと思う。

「ど、どうして僕が……?」
「俺達のような研究者が、軽々しく女子に声を掛けるなんて事はできないだろう。俺達の青春は、怪奇現象を追うためにある。日々勉学に励んでいるんだ。そんな軟弱な優男の真似事などできん」
「海野くん、君はクラスに女子の友達もいるんだろう? それなら女子との交渉も上手なはずだ」

 つまり、女の子と話すのはハードルが高いって事なのかな。
 クラスに女友達がいるというか、小学校からの同級生もいるし、会話する事もあるけど、僕と雨宮さんとでは全然接点がないじゃないか。
 僕だって知らない後輩の女の子に声を掛けるなんて、結構勇気がいるぞ。だけど、これを機に彼女とお知り合いになれたらいいな、なんて下心が湧いてしまうのも事実だ。 
 それに、彼女が噓つきでなければ本当の霊能力とやらを見られる。その好奇心も僕にはあった。

「分かりました、先輩。僕が雨宮さんに声を掛けて霊視の依頼をしてみます」
「よし! 頼もしいな、海野くん。もし彼女がその気になったら、ぜひオカルト研究部にスカウトも宜しくな」
「勧誘の方もお任せ下さい」

 先輩達は、鼻息を荒くして僕の手を掴むと、頼んだぞと意気込んだ。


 ❖❖❖

 流石に昼休み中に、雨宮さんを呼び出してしまうと、クラス中の女子に注目を浴びてしまう事になるので、避けたい。
 かといって、下駄箱に手紙を入れるなんて事をしてしまっては、雨宮さんに警戒されてしまいそうだ。
 彼女は学校でも目立つ存在だし、もれなく、二年の海野まことが、身の程知らずにも雨宮さんにお熱で、愛の告白をしたと噂になりそうだしな。これは慎重に行動しなくては。
 とりあえず、話によると彼女は図書委員をしていて、剣道部にも在籍しているらしい。

「彼女と接触して、一番目立たないのは図書室か。僕にはほとんど縁がない場所だなぁ」

 まともに読む本と言えば、漫画本である僕は、授業で調べ物があったりする以外は、使用する事のない場所だ。まず、あの絶対に音を立ててはいけないという空間の中にいるだけで、胃が痛くなってしまう。
 開け放たれた扉から図書室に入ると、カウンターには、司書の先生が居た。それを横目で確認すると、僕は本を選ぶふりをしながら雨宮さんの姿を探す。
 ああ、居た。奥から三列目だな。
 左側の棚で、本のラベルを貼り替えている雨宮さんの姿が見えた。

(緊張するな。不審者だと思われないようにしなくちゃ)

 僕の質問は十分不審者っぽいが、さり気なく本を眺めたり、手に取ったりしながら、雨宮さんとの距離を詰めていくと、勇気を出して彼女に声を掛けてみた。

「あの……君、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど、いいかい?」
「なに?」

 ラベルを貼った本を、棚に入れると雨宮さんは、僕の方に振り向いた。清楚な大和撫子と言うよりも、凛とした美少女と言った方がしっくりくる。
 切れ長の黒い瞳に、麻丘めぐみのような前髪ぱっつんの姫カットで、綺麗な黒髪を腰まで伸ばしていた。
 どこか人を寄せ付けないようなオーラを感じるのは、僕が声を掛けたからなのだろうか。彼女と視線が合うと、なんだか顔が熱くなる。
 僕はドギマギしながら頭を掻き、不自然さを極力出さないように、演技をする。

「オカルトや、超常現象についての書籍はどこの棚に置いてあるのかな。ちょっと調べたい事があって。えっと、君は雨宮さん?」
「あんた涼風寺で育ってるのに、今さらそんなインチキ本で、心霊のお勉強するなんてさ。トンチキ坊ちゃんだねぇ」

 僕は驚いてドキッとした。
 雨宮さんは、僕の事を知っているみたいだ。僕は特に目立つタイプでもないが、ちょっと今の演技は、白々しかったかなぁ。

「雨宮さんは、僕の事を知ってるのか?」
「あれだけ、私の周辺を嗅ぎ回るような真似まねをしたら、嫌でも気付くよ、海野先輩。それで私になにか用?」
「ああ、すまない。接点のない後輩の女の子を昼間に呼び出すのは、はばかられてしまって。偶然を装ったのは悪かったよ。ちょっと君に、折り入って相談したいというか。協力して欲しい事があるんだ」

 もう、これ以上嘘を付いても仕方ない。雨宮さんは鋭いし、全部お見通しだ。
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