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第六章 虚構の女
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彼女だけが、種子に侵されても生きている。感染隔離されていたという、その事実だけが独り歩きをしていて、場内は騒然とした。
しかも、彼女の手には拳銃が握られ、逃げ場を失った人々が、手を上げながら体を低くして座る。
非常口から、運良く逃げようとした数人のゲストと警官に向かい優花が発砲する。悲鳴が上がり、運悪く銃弾に当たった男性客が、呻きながらその場に倒れ込んだ。
私服警官が彼の止血をし、他の警官立ちがいっせいに、銃を構える。
「警察だ! 銃を捨てろ」
「優花……落ち着いて。病院を抜け出して一体どこに行っていたの? 危ないわ、銃を捨てて」
「そうだ、探していたんだぞ。その銃は警官から、奪ったものなのか? 優花、答えなさい」
葵ではなく、神部優花の突然の乱入に、警察も明彦も動揺していた。
凜花は、彼女が逃げ出したと病院から聞いたとき、隔離病棟にいるのが耐えきれず、絶望の中で死ぬより、夜の街で羽目を外し、最後の晩餐を楽しもうと考えていたのではないかと思っていた。
優花の性格は、双子の姉の凜花が一番良く分かる。いっこくも早く半グレの連中に頼んで、彼女の居場所を特定し、連れ帰らなければ、今の状況では、彼女が徘徊するだけで神部の恥になると考えていた。
しかし、どこを探しても、彼女を見つけられず最悪の結果になってしまった。
「うん。ここで、凜花のレセプションパーティーがあるって聞いたからぁ。酷いよ、凜花。優花を病院に閉じ込めて、こんなに楽しいことをしているなんて」
「皆さん、落ち着いて下さい。妹と同じ空間にいても、感染するようなことはありません。私が証人です。あの子は酷い目にあってしまい、精神的に不安定なんです。優花、もうお家に帰りましょう?」
凜花は優しく微笑み、優花を説得する。
混乱のさなか、鬼頭は葵の手首を離してしまい、再び彼の姿が自分の目の前から消え、唇を噛んだ。
優花と凜花が対峙している間は、葵も手出しができないだろうが、罪を犯す前に、葵を逮捕しなければならない。ふと、誰かに肩を捕まれ振り返ると、佐伯が険しい顔をして立っていた。
「鬼頭」
「佐伯か。高階葵がこの会場にいた」
「今は、神部優花の方が危険だ。早くゲストをこの場所から避難させろ」
優花は、あれから導かれるように、レセプションパーティーが催される、KANBE銀座タワーへと向かった。
関係者以外お断りの裏口まで来ると、警備員と警察が、まるで薬物を接種したかのように、目の焦点が合わないまま涎を垂らして、ぼうっと突っ立っているのが見えた。
これはチャンスだと感じた優花は、警官から拳銃を奪い取ると、ビルの中に入る。まさか、こんな簡単にいくとは思わなかったが、あの人の導きだと確信し、胸が高揚する。
まるで、葵が自分の親のように感じるのは眼球に咲く、花のせいだろうか。
「嘘つき。家に帰るふりをして、また優花を病院に閉じ込めるつもりだろ? お父様だって、優花を怖がって、病室に入ってこないじゃん! 誰のせいで、こんな目に合ってんのか分かってんの!」
優花は、そう言うといきりたつ。
そして片手で眼帯を外すと、彼女の目から二本の毒々しい花が咲いていた。優花は凜花に対して、愛憎のこもった瞳で睨みつけると、ぱっと嬉しそうに笑った。
「でもね、凜花。これ最高だよ! 人間より特別な存在になった気分」
凜花にとって、優花は大事な妹。
だが、それは彼女が自分より愚かで、反抗せずに指示に従い、庇護するべき弱い立場にあったからだ。凜花は冷たい視線を、双子の妹に向ける。大切な妹でも、自分の足を引っ張るのならば、容赦はしない。
「いい加減になさい、優花。もう庇いきれなくなるわ……」
「凜花。優花たちはずっと一緒だよね? 双子なんだから、生きるのも死ぬのも一緒。優花なら、あの人と同じように、凜花を変えてあげることができるんだよ!」
優花は狂ったように笑うと、彼女の瞳からまるで生き物のように蔓が伸びる。この会場には、優花をこの体に変えた『葵』がいると強く感じていた。
しかも、彼女の手には拳銃が握られ、逃げ場を失った人々が、手を上げながら体を低くして座る。
非常口から、運良く逃げようとした数人のゲストと警官に向かい優花が発砲する。悲鳴が上がり、運悪く銃弾に当たった男性客が、呻きながらその場に倒れ込んだ。
私服警官が彼の止血をし、他の警官立ちがいっせいに、銃を構える。
「警察だ! 銃を捨てろ」
「優花……落ち着いて。病院を抜け出して一体どこに行っていたの? 危ないわ、銃を捨てて」
「そうだ、探していたんだぞ。その銃は警官から、奪ったものなのか? 優花、答えなさい」
葵ではなく、神部優花の突然の乱入に、警察も明彦も動揺していた。
凜花は、彼女が逃げ出したと病院から聞いたとき、隔離病棟にいるのが耐えきれず、絶望の中で死ぬより、夜の街で羽目を外し、最後の晩餐を楽しもうと考えていたのではないかと思っていた。
優花の性格は、双子の姉の凜花が一番良く分かる。いっこくも早く半グレの連中に頼んで、彼女の居場所を特定し、連れ帰らなければ、今の状況では、彼女が徘徊するだけで神部の恥になると考えていた。
しかし、どこを探しても、彼女を見つけられず最悪の結果になってしまった。
「うん。ここで、凜花のレセプションパーティーがあるって聞いたからぁ。酷いよ、凜花。優花を病院に閉じ込めて、こんなに楽しいことをしているなんて」
「皆さん、落ち着いて下さい。妹と同じ空間にいても、感染するようなことはありません。私が証人です。あの子は酷い目にあってしまい、精神的に不安定なんです。優花、もうお家に帰りましょう?」
凜花は優しく微笑み、優花を説得する。
混乱のさなか、鬼頭は葵の手首を離してしまい、再び彼の姿が自分の目の前から消え、唇を噛んだ。
優花と凜花が対峙している間は、葵も手出しができないだろうが、罪を犯す前に、葵を逮捕しなければならない。ふと、誰かに肩を捕まれ振り返ると、佐伯が険しい顔をして立っていた。
「鬼頭」
「佐伯か。高階葵がこの会場にいた」
「今は、神部優花の方が危険だ。早くゲストをこの場所から避難させろ」
優花は、あれから導かれるように、レセプションパーティーが催される、KANBE銀座タワーへと向かった。
関係者以外お断りの裏口まで来ると、警備員と警察が、まるで薬物を接種したかのように、目の焦点が合わないまま涎を垂らして、ぼうっと突っ立っているのが見えた。
これはチャンスだと感じた優花は、警官から拳銃を奪い取ると、ビルの中に入る。まさか、こんな簡単にいくとは思わなかったが、あの人の導きだと確信し、胸が高揚する。
まるで、葵が自分の親のように感じるのは眼球に咲く、花のせいだろうか。
「嘘つき。家に帰るふりをして、また優花を病院に閉じ込めるつもりだろ? お父様だって、優花を怖がって、病室に入ってこないじゃん! 誰のせいで、こんな目に合ってんのか分かってんの!」
優花は、そう言うといきりたつ。
そして片手で眼帯を外すと、彼女の目から二本の毒々しい花が咲いていた。優花は凜花に対して、愛憎のこもった瞳で睨みつけると、ぱっと嬉しそうに笑った。
「でもね、凜花。これ最高だよ! 人間より特別な存在になった気分」
凜花にとって、優花は大事な妹。
だが、それは彼女が自分より愚かで、反抗せずに指示に従い、庇護するべき弱い立場にあったからだ。凜花は冷たい視線を、双子の妹に向ける。大切な妹でも、自分の足を引っ張るのならば、容赦はしない。
「いい加減になさい、優花。もう庇いきれなくなるわ……」
「凜花。優花たちはずっと一緒だよね? 双子なんだから、生きるのも死ぬのも一緒。優花なら、あの人と同じように、凜花を変えてあげることができるんだよ!」
優花は狂ったように笑うと、彼女の瞳からまるで生き物のように蔓が伸びる。この会場には、優花をこの体に変えた『葵』がいると強く感じていた。
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