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第六章 虚構の女
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KANBE銀座タワーは名の通り、神部グループが所有する高層ビルで、銀座の中でもトップクラスの超高層ビジネスビルだ。
その中でいくつかの事業や子会社はもとより、他会社のIT企業、CMでおなじみの某大手企業にフロアを貸し出したりしている。
さらには、広告マーケティングの展示会場などがあり、こちらもイベントが定期的に開催されていた。
三階までが商業施設になっていて、最上階のブライダルフロアと合わせて、この区域だけが一般の人間が出入りできる。
商業施設には、数人の私服警官といつもより警備員の人数を多めに配置している。ここを訪れる客も、今のご時世ならテロリストを警戒しての警備だろうと、特に不審に思っている様子はない。
裏口には関係者以外、立ち入り禁止の駐車場がある。
植物たちの話によると、社員や業者、最上階を利用する関係者がここから入り、エレベーターに乗って、各フロアを移動するという。
「あ、お兄さん。清掃会社の人~~? いつもの人じゃないね」
「ハウスクリーニング 爽風の山下です。夜勤の中村さんが急病で、私が急遽担当になりまして」
二人の警備員に止められ、葵はにっこりと微笑んだ。深く被った帽子の下を、彼らは指名手配犯の葵だと、認識することはできないだろう。
花の中には、サルビアやダチュラのように幻覚作用を引き起こす毒を持った種類がある。
葵は、ここに来るはずだった清掃会社の一人に目をつけ、彼と入れ替わることに成功した。
そして、手のひらにダチュラを咲かせて、警察官と警備員の間を抜けていく。
「そうなんだぁ。それじゃ、よろしくねぃ」
「ブライダルフロアのトイレのほう、しっかりと掃除頼むよ~~」
「ええ。お努めご苦労さまです」
警備員も、警察官も目は虚ろでヘラヘラと笑っている。葵が去った後もしばらくはこのままだろう。
レセプションパーティーのゲストたちが集まる頃には、彼らは普段通りに戻っていて、葵を通したことも忘れているだろうが。
レセプションパーティーが、土曜の夜ということもあり、商業施設はまだ賑わいがある。オフィスフロアとなると、人もまばらでエレベーターで社員で鉢合わせになることも、ほぼなかった。
あれだけ大きな事件になっても、人々は葵に関心を抱かず、素通りする。世間は連続殺人鬼に恐れながら、日々の生活に追われていて、他人を見る余裕さえない。
まさか、自分の隣に犯人がいるなんて考えもしないだろう。
――――チン。
葵は、レセプションパーティー会場より手前のフロアで降りる。案の定ここは、神部グループと無関係の会社が入ったフロアで、土曜は休日になっている。事前に、警察がここを待機場所に使っていないかどうかは、植物たちの情報で把握していた。
「警察の警備も、入口や最上階に比べて緩くなるな。とはいっても、監視カメラはあるか」
警備は少なくとも、真下のフロアは警察も警戒しているだろう。目の前にいる人間に微量の毒で幻覚を見せることはできても、監視カメラを騙すことはできない。また、監視カメラを壊してしまえば、すぐに怪しまれてしまう。
葵はトイレに向かうと、掃除入れに忍ばせていた袋を取り出した。
「さて、ゲームの始まりだ」
葵はボーイの姿に変装すると、鏡の前で薄笑いを浮かべた。
その中でいくつかの事業や子会社はもとより、他会社のIT企業、CMでおなじみの某大手企業にフロアを貸し出したりしている。
さらには、広告マーケティングの展示会場などがあり、こちらもイベントが定期的に開催されていた。
三階までが商業施設になっていて、最上階のブライダルフロアと合わせて、この区域だけが一般の人間が出入りできる。
商業施設には、数人の私服警官といつもより警備員の人数を多めに配置している。ここを訪れる客も、今のご時世ならテロリストを警戒しての警備だろうと、特に不審に思っている様子はない。
裏口には関係者以外、立ち入り禁止の駐車場がある。
植物たちの話によると、社員や業者、最上階を利用する関係者がここから入り、エレベーターに乗って、各フロアを移動するという。
「あ、お兄さん。清掃会社の人~~? いつもの人じゃないね」
「ハウスクリーニング 爽風の山下です。夜勤の中村さんが急病で、私が急遽担当になりまして」
二人の警備員に止められ、葵はにっこりと微笑んだ。深く被った帽子の下を、彼らは指名手配犯の葵だと、認識することはできないだろう。
花の中には、サルビアやダチュラのように幻覚作用を引き起こす毒を持った種類がある。
葵は、ここに来るはずだった清掃会社の一人に目をつけ、彼と入れ替わることに成功した。
そして、手のひらにダチュラを咲かせて、警察官と警備員の間を抜けていく。
「そうなんだぁ。それじゃ、よろしくねぃ」
「ブライダルフロアのトイレのほう、しっかりと掃除頼むよ~~」
「ええ。お努めご苦労さまです」
警備員も、警察官も目は虚ろでヘラヘラと笑っている。葵が去った後もしばらくはこのままだろう。
レセプションパーティーのゲストたちが集まる頃には、彼らは普段通りに戻っていて、葵を通したことも忘れているだろうが。
レセプションパーティーが、土曜の夜ということもあり、商業施設はまだ賑わいがある。オフィスフロアとなると、人もまばらでエレベーターで社員で鉢合わせになることも、ほぼなかった。
あれだけ大きな事件になっても、人々は葵に関心を抱かず、素通りする。世間は連続殺人鬼に恐れながら、日々の生活に追われていて、他人を見る余裕さえない。
まさか、自分の隣に犯人がいるなんて考えもしないだろう。
――――チン。
葵は、レセプションパーティー会場より手前のフロアで降りる。案の定ここは、神部グループと無関係の会社が入ったフロアで、土曜は休日になっている。事前に、警察がここを待機場所に使っていないかどうかは、植物たちの情報で把握していた。
「警察の警備も、入口や最上階に比べて緩くなるな。とはいっても、監視カメラはあるか」
警備は少なくとも、真下のフロアは警察も警戒しているだろう。目の前にいる人間に微量の毒で幻覚を見せることはできても、監視カメラを騙すことはできない。また、監視カメラを壊してしまえば、すぐに怪しまれてしまう。
葵はトイレに向かうと、掃除入れに忍ばせていた袋を取り出した。
「さて、ゲームの始まりだ」
葵はボーイの姿に変装すると、鏡の前で薄笑いを浮かべた。
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