花の檻

蒼琉璃

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第四章 復讐の力を手に入れて

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「あいつ、凛のことも調べているんだ。お父様に言わなきゃ。さっきの刑事、なんて名前なの?」
「たしか、捜査一課の鬼頭と名乗っていました。連続種死殺人事件の捜査で来られたようです」

 渋谷の公開処刑から、最近の斎藤の事件に至るまで、かなり短期間で行われていることから、陰謀論を始め、世間は連続種子殺人事件の被害者に注目している。今月に入って第一の被害者、桜井鳴海の最終学歴が、聖南女子だったこともあり、マスコミが事件の手掛かりを探して、聖南女子の周りをウロウロし始めたと聞いていた。
 もし刑事が、自分の周りに来たことがマスコミにバレれば、また面倒なことになるだろう。優花は爪を噛むと、急いで凜花に連絡した。こういう時に一番頼りになるのは、頭の良い双子の姉だけだ。不安を押し殺すようにしてメッセージを送る。

「あいつ、今の事件から降ろすように凜花から、お父様に頼んでもらわなきゃ。これから優花がどうすればいいか、凜花ならわかる」

 帰路に向う高級車が、人通りの少ない静かな田園調布の並木道にまで差し掛かると、突然運転手がクラクションを鳴らして、優花が顔を上げる。
 黒いフードを被った男が、歩道の真ん中まで歩いてきたからだ。

「おい、危ないぞ!」

 運転手がそう叫んだが、道の真ん中に佇む葵は、微動だにしなかった。仕方なく運転手は数メートル先で停車したが、シークレトサービスは葵を警戒するように、優花に体を低くさせた。なんとなく嫌な予感がして、優花の鼓動が早くなる。

「あいつ……なんなの? ちょっと、車停めるなよ。迂回して家まで帰って。変質者かもしれないし」
「優花お嬢様。このまま体を低くしてください。私たちが、不審者を退かせます」

 そう言うと、シークレトサービスの二人が車から降りてしまった。その様子を運転手が見守る。そして、後部座席から優花も苛立ちながら様子を伺っていた。
 こちらに横顔を向けたままの立ち尽くす葵に、二人が近付くと『道を塞ぐな、立ち退くように』と声を掛けた。無言のままその場を動かない葵の肩に手を置いた瞬間、背中から飛び出した蔓が、目に見えないほどの高速で屈強な男たちを薙ぎ払う。
 優花も、運転手も一瞬にして視界から消えた黒服の男二人に愕然とし、あまりのことに言葉を発することができなかった。葵がゆっくりとこちらを振り向くと、優花はドンと運転席を叩き、叫ぶ。

「おい、早く車出せよ! そいつ轢いてもいいから、さっさと逃げろ!!」
「で、でも、優花様」
「いいから早くして!! なんか良くわかんないけど、そいつは優花に危害加えようとしてんの!! あんたがお父様に消されるか、あいつ殺すしかないんだよ!!」

 車内で優花が絶叫すると、躊躇していた運転手は、背中が濡れるほど滝のような汗をかきながら、ハンドルを握りしめる。優花は、もしもの時のためにダッシュボードの中に、隠し持っていた、護身用の銃があったことを思い出した。サークルで射撃用のライフルしか扱ったことはないが、いざとなればこれも使えるはずと考えていた。
 ダッシュボードをまさぐるように探し、銃を取り出した瞬間に、車は急発進して優花はそれを取り落としてしまう。

「う、うわぁぁ!」

 速度をあげて運転手が、葵に突っ込んでいく。葵の背中から、寄生花と太い蔓が生き物のように、グニャリと波打って、フロントガラスを突き破ると、運転手の頭を串刺しにする。
 そこからみるみるうちに花が咲き、間一髪の所で避けた優花は、絶叫した。
 するすると蔓が戻り、死んだ運転手がペダルを踏み込んだまま暴走した車は、速度をあげて並木道を走り、方向感覚を失って、木に激突すると、優花は運転席に激しく頭と全身をぶつけた。

「ぅう………」

 優花の記憶が混濁していく中で、ガチャリと車のドアが開かれた。ふと、こちらを覗き込むフードを深く被った葵の顔が、脳震盪のうしんとうのせいでぼやけて見える。

「だ……れ……」
「俺がお前たち二人を、簡単に死なせると思うか? 凛があのクラスで感じたように、せいぜい『死』の恐怖に怯えろ」

 優花が意識を失う瞬間に、葵は彼女の口をこじ開けると『花』の種を飲ませた。

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