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第四章 復讐の力を手に入れて
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鬼頭は、呆れたようにそう言うと島村のことは、他の刑事に任せることにした。そして、フロアを隅々まで眺め、カラーライトとは別に、監視カメラが、天井に埋め込まれていることに気づいた。
夜間営業する店なら、当然どの店でもトラブルが発生することを見越して、監視カメラが設置されてるのが普通だ。
「防犯カメラの映像が見たいんだが」
「あぁ、勝手にどうぞ。さっきもイケメンの刑事さんが上がってったけど。二階っすよ。その人に、見方教わってください」
捜査一課にそんなイケメン刑事がいたか、と首をひねりながら、鬼頭は強面の顔をさらにしかめる。ポツポツと伸び始めた髭に触れ、派手なクラブハウスのステージの端に、隠れていた裏の階段を上る。
ここはどうやら控室になっていて、そこで監視カメラの映像が見れるようだった。二階の扉を開けると、そこにはやはりというべきか、佐伯がすでに居た。
佐伯は、椅子に座りながら監視カメラの映像を見ている。そして、鬼頭の気配を感じ、無表情のまま、くるりとこちらに体を向けた。
「遅かったな、鬼頭。待ちくたびれてしまった」
「呼んでもいないのに、来るのが早すぎる。俺は、赤坂から今こっちにお前が来る、と聞いたばかりだぞ」
「君のスマホは、スマホとして機能していないからな。署に連絡した頃にはもう僕は現場に向かっていた。君は束縛されるのが苦手で、マメな連絡も好まないだろう。だから、すぐに女に逃げられるんだよ」
余計なお世話だと、鬼頭は内心毒づいた。佐伯の男女関係なんぞに興味はないが、この男に女心が、分かるようには思えない。お前も独身だろうが、という言葉が出そうになって、飲み込む。そして佐伯の隣まで来ると、監視カメラを再生した。
「それで、犯人らしき怪しい人物でも、見つかったのか?」
「このクラブに通う客は、どれも怪しい奴ばかりだ。クスリを摂取している者もいれば、売春婦もいる。だけど……」
佐伯が、監視カメラの映像を早送りすると、停止ボタンを押した。そこにはDJに向かって腕を振る男女の若者。カウンターによりかかりながら、酒を飲むカップルが映っていた。
そして大柄のスキンヘッドで、いかにも半グレというようなファッションをした男が、トイレの方向に向かって歩いている。そして、距離を開けて黒いフードの男が、その後をつけているように見えた。
「彼は、この空間の色とは違う。DJにも関心がない。残念ながらこの監視カメラは、その先まで写してないが、確実に被害者と思われる特徴を持った人物が、これ以降、監視カメラには映っていない。つまりトイレから出てこなかったことになる」
「これが斎藤だな。近藤が歌舞伎町で死んだ時、目撃者が黒いフードの男とすれ違ったと言っていた」
佐伯は、フッと笑うとゆっくりと立ち上がる。証拠品がすべて鑑識に押収される前に現場に向かうと告げた。コートを整えながら、佐伯がふと顎を撫でながら言う。
「この犯人は単独犯だな。少なくとも殺された二人は半グレだ。この犯人は、アウトローな彼らを嫌悪し、殺すことに、なんのためらいや罪悪感もない。自分自身の価値観や、正義感を持ち合わせている使命型だろう。そして、計画的に見えて、証拠品を現場に残す無秩序型に近い。だが、僕からすると彼は、シリアルキラーの連続殺人犯というよりも復讐殺人のように思える。そうでないと、半グレと、第一の被害者には結びつかないんだ。彼女の環境も、年齢も、性別も、職業も、他の二人と共通点がない」
「なるほどな。なら、過去の類似事件を調べるより、奴らの周辺で起きた事件を調べたほうが良さそうだ」
「あぁ。彼は殺人に手慣れていない。桜井鳴海が最初の殺人でキーパーソンだ。彼女の過去を調べろ」
佐伯はヒラヒラと手を振るだけで、鬼頭の質問には答えなかった。鬼頭は立ったまま、監視カメラを早送りする。画面の中に、黒いフードの男がいないか、目を凝らして見ていた。
客が落ち着き始めた頃、酔っ払った女二人がトイレの方に向かう。次の瞬間、数人がトイレの方を振り向き、異変を感じた島村と共に走って向かった。
ざわざわとし始めた頃、半グレ風の男がそちらにゆっくりと向かい、どこからともなく人並みから、逆方向に歩く黒いフードの男が影のように現れて、半グレ風の男にぶつかって出口へと向かっていった。
「…………」
鬼頭は、フードを深く被った男の顔をアップにする。そして、口を撫でながら呻くと何かを考え込むようにして、椅子に座り込んだ。
夜間営業する店なら、当然どの店でもトラブルが発生することを見越して、監視カメラが設置されてるのが普通だ。
「防犯カメラの映像が見たいんだが」
「あぁ、勝手にどうぞ。さっきもイケメンの刑事さんが上がってったけど。二階っすよ。その人に、見方教わってください」
捜査一課にそんなイケメン刑事がいたか、と首をひねりながら、鬼頭は強面の顔をさらにしかめる。ポツポツと伸び始めた髭に触れ、派手なクラブハウスのステージの端に、隠れていた裏の階段を上る。
ここはどうやら控室になっていて、そこで監視カメラの映像が見れるようだった。二階の扉を開けると、そこにはやはりというべきか、佐伯がすでに居た。
佐伯は、椅子に座りながら監視カメラの映像を見ている。そして、鬼頭の気配を感じ、無表情のまま、くるりとこちらに体を向けた。
「遅かったな、鬼頭。待ちくたびれてしまった」
「呼んでもいないのに、来るのが早すぎる。俺は、赤坂から今こっちにお前が来る、と聞いたばかりだぞ」
「君のスマホは、スマホとして機能していないからな。署に連絡した頃にはもう僕は現場に向かっていた。君は束縛されるのが苦手で、マメな連絡も好まないだろう。だから、すぐに女に逃げられるんだよ」
余計なお世話だと、鬼頭は内心毒づいた。佐伯の男女関係なんぞに興味はないが、この男に女心が、分かるようには思えない。お前も独身だろうが、という言葉が出そうになって、飲み込む。そして佐伯の隣まで来ると、監視カメラを再生した。
「それで、犯人らしき怪しい人物でも、見つかったのか?」
「このクラブに通う客は、どれも怪しい奴ばかりだ。クスリを摂取している者もいれば、売春婦もいる。だけど……」
佐伯が、監視カメラの映像を早送りすると、停止ボタンを押した。そこにはDJに向かって腕を振る男女の若者。カウンターによりかかりながら、酒を飲むカップルが映っていた。
そして大柄のスキンヘッドで、いかにも半グレというようなファッションをした男が、トイレの方向に向かって歩いている。そして、距離を開けて黒いフードの男が、その後をつけているように見えた。
「彼は、この空間の色とは違う。DJにも関心がない。残念ながらこの監視カメラは、その先まで写してないが、確実に被害者と思われる特徴を持った人物が、これ以降、監視カメラには映っていない。つまりトイレから出てこなかったことになる」
「これが斎藤だな。近藤が歌舞伎町で死んだ時、目撃者が黒いフードの男とすれ違ったと言っていた」
佐伯は、フッと笑うとゆっくりと立ち上がる。証拠品がすべて鑑識に押収される前に現場に向かうと告げた。コートを整えながら、佐伯がふと顎を撫でながら言う。
「この犯人は単独犯だな。少なくとも殺された二人は半グレだ。この犯人は、アウトローな彼らを嫌悪し、殺すことに、なんのためらいや罪悪感もない。自分自身の価値観や、正義感を持ち合わせている使命型だろう。そして、計画的に見えて、証拠品を現場に残す無秩序型に近い。だが、僕からすると彼は、シリアルキラーの連続殺人犯というよりも復讐殺人のように思える。そうでないと、半グレと、第一の被害者には結びつかないんだ。彼女の環境も、年齢も、性別も、職業も、他の二人と共通点がない」
「なるほどな。なら、過去の類似事件を調べるより、奴らの周辺で起きた事件を調べたほうが良さそうだ」
「あぁ。彼は殺人に手慣れていない。桜井鳴海が最初の殺人でキーパーソンだ。彼女の過去を調べろ」
佐伯はヒラヒラと手を振るだけで、鬼頭の質問には答えなかった。鬼頭は立ったまま、監視カメラを早送りする。画面の中に、黒いフードの男がいないか、目を凝らして見ていた。
客が落ち着き始めた頃、酔っ払った女二人がトイレの方に向かう。次の瞬間、数人がトイレの方を振り向き、異変を感じた島村と共に走って向かった。
ざわざわとし始めた頃、半グレ風の男がそちらにゆっくりと向かい、どこからともなく人並みから、逆方向に歩く黒いフードの男が影のように現れて、半グレ風の男にぶつかって出口へと向かっていった。
「…………」
鬼頭は、フードを深く被った男の顔をアップにする。そして、口を撫でながら呻くと何かを考え込むようにして、椅子に座り込んだ。
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