28 / 61
第三章 害虫駆除
⑧
しおりを挟む
「高階……? 高階凛のことかしら? それがどうしたの」
凜花は、しゃがみ込むと机の下に隠れている双子の妹に話しかける。優花はなにかに怯えた様子で、しきりに『復讐なんてふざけるな』『阿久津と斎藤が死んじゃった』と言いながらメソメソと泣き出していた。
混乱した優花の言葉を、繋ぎ合わせて推測してみると、斎藤が桜井と同じように『花の寄生』によって死亡。そしてそれを告げた阿久津も、同じように目の前で死んでしまったらしい。凛花はにわかに信じられず、ひとまず妹の背中を撫でると、主電源がついたままのPCに気づいて、立ち上がった。
腰にすがりついている、優花をそのままにしておいて、凜花はディスプレイの電源を入れた。
「――――本当ね。優花の言う通り死んでる。まずいわ」
そこには電気を消した暗い部屋の中で、ディスプレイの蒼白い光に照らされて、花の化物のような人形が、だらんと椅子に座っているのが見えた。画面が、ところどころ赤く見えるのは、血しぶきのせいだろうか。
優花に見せられた、渋谷のスクランブル交差点の動画と、全く同じような死に方だ。凛花は阿久津や斎藤が死んだことに対して、別段動揺している様子もなく、冷静に見ている。
問題なのは、彼らが死んだことではなく、半グレ組織『ランボチーム』に属している男が、死の直前に自分たちに接触してきたことだ。凜花は阿久津のPCのセキュリティホールに入って、ハッキングすると、自分たちに繋がるものをすべてを消去した。
「ツールで履歴の復元ができないくらい痕跡を消したから、これで大丈夫。私たちに辿り着けるような人間は、ボンクラな警察にはいないでしょ。そうね、犯罪心理学の先生でもなければ、無理かな。なんてね」
「さすが凛花! でも、阿久津はあいつが来るって言ってたよ。これは復讐だって。優花たちのことを殺しに来るって、阿久津は凄く怯えてたんだけど」
「でも、高階凛に両親はいないでしょ。あの時は、恋人だって居なかったし。あいつには兄が居たけれど私が知ってる限り、凛が死んでからは酒に溺れていて、日雇いで食いつないでいるみたいだったわ。はっきり言って雑魚ね。復讐なんてできるはずないじゃない。私たちには関係ないんじゃないかしら?」
凛花の言葉に、優花は落ち着きを取り戻した。阿久津の言葉は、とてつもなく恐ろしいものだったが、姉の凜花が毅然とした態度でそう言ってくれたので問題ない。本当のところは、阿久津が勝手にそう思い込んでいるだけで、全く自分たちは関係無いのだろうと思える。
「うん……。そ、そうだよね。優花たちに楯突く奴なんてこの東京で……ううん、この日本でいないよ!」
「そうよ。でも、念の為にお父様に働きかけておくわ。そうしたら優花も怖くないよね?」
優花はすっかり安心して、いつものように笑ったが、凜花は内心穏やかではなかった。さすがに、これだけ自分たちに関わった人間が、次々と死ぬのは偶然ではない。異常すぎる。それも、全員の共通点が『高階凛』なのだから。
何者かによって復讐される。
そう思っても不思議ではないことを、二人は高階凛にしてしまった。
✤✤✤
神部財閥、今の神部グループは大正から昭和にかけて発展し、特に戦後は重工業で財をなした。それから不動産や金融、また福祉などの事業を拡大して、日本の有力な財閥として繁栄していった一族だ。神部は政界から警察、アウトローにいたるまで、幅広く繋がりがある。
もちろんその事業は、教育関係にも拡大され、聖南私立女子高等学校の理事長として、凜花たちの父である、神部明彦が就任した。
凜花は、しゃがみ込むと机の下に隠れている双子の妹に話しかける。優花はなにかに怯えた様子で、しきりに『復讐なんてふざけるな』『阿久津と斎藤が死んじゃった』と言いながらメソメソと泣き出していた。
混乱した優花の言葉を、繋ぎ合わせて推測してみると、斎藤が桜井と同じように『花の寄生』によって死亡。そしてそれを告げた阿久津も、同じように目の前で死んでしまったらしい。凛花はにわかに信じられず、ひとまず妹の背中を撫でると、主電源がついたままのPCに気づいて、立ち上がった。
腰にすがりついている、優花をそのままにしておいて、凜花はディスプレイの電源を入れた。
「――――本当ね。優花の言う通り死んでる。まずいわ」
そこには電気を消した暗い部屋の中で、ディスプレイの蒼白い光に照らされて、花の化物のような人形が、だらんと椅子に座っているのが見えた。画面が、ところどころ赤く見えるのは、血しぶきのせいだろうか。
優花に見せられた、渋谷のスクランブル交差点の動画と、全く同じような死に方だ。凛花は阿久津や斎藤が死んだことに対して、別段動揺している様子もなく、冷静に見ている。
問題なのは、彼らが死んだことではなく、半グレ組織『ランボチーム』に属している男が、死の直前に自分たちに接触してきたことだ。凜花は阿久津のPCのセキュリティホールに入って、ハッキングすると、自分たちに繋がるものをすべてを消去した。
「ツールで履歴の復元ができないくらい痕跡を消したから、これで大丈夫。私たちに辿り着けるような人間は、ボンクラな警察にはいないでしょ。そうね、犯罪心理学の先生でもなければ、無理かな。なんてね」
「さすが凛花! でも、阿久津はあいつが来るって言ってたよ。これは復讐だって。優花たちのことを殺しに来るって、阿久津は凄く怯えてたんだけど」
「でも、高階凛に両親はいないでしょ。あの時は、恋人だって居なかったし。あいつには兄が居たけれど私が知ってる限り、凛が死んでからは酒に溺れていて、日雇いで食いつないでいるみたいだったわ。はっきり言って雑魚ね。復讐なんてできるはずないじゃない。私たちには関係ないんじゃないかしら?」
凛花の言葉に、優花は落ち着きを取り戻した。阿久津の言葉は、とてつもなく恐ろしいものだったが、姉の凜花が毅然とした態度でそう言ってくれたので問題ない。本当のところは、阿久津が勝手にそう思い込んでいるだけで、全く自分たちは関係無いのだろうと思える。
「うん……。そ、そうだよね。優花たちに楯突く奴なんてこの東京で……ううん、この日本でいないよ!」
「そうよ。でも、念の為にお父様に働きかけておくわ。そうしたら優花も怖くないよね?」
優花はすっかり安心して、いつものように笑ったが、凜花は内心穏やかではなかった。さすがに、これだけ自分たちに関わった人間が、次々と死ぬのは偶然ではない。異常すぎる。それも、全員の共通点が『高階凛』なのだから。
何者かによって復讐される。
そう思っても不思議ではないことを、二人は高階凛にしてしまった。
✤✤✤
神部財閥、今の神部グループは大正から昭和にかけて発展し、特に戦後は重工業で財をなした。それから不動産や金融、また福祉などの事業を拡大して、日本の有力な財閥として繁栄していった一族だ。神部は政界から警察、アウトローにいたるまで、幅広く繋がりがある。
もちろんその事業は、教育関係にも拡大され、聖南私立女子高等学校の理事長として、凜花たちの父である、神部明彦が就任した。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる
登場する怪異談集
初ノ花怪異談
野花怪異談
野薔薇怪異談
鐘技怪異談
その他
架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。
完結いたしました。
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
一ノ瀬一二三の怪奇譚
田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。
取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。
彼にはひとつ、不思議な力がある。
――写真の中に入ることができるのだ。
しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。
写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。
本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。
そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。
だが、一二三は考える。
「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。
「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。
そうして彼は今日も取材に向かう。
影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。
それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。
だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。
写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか?
彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか?
怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。
視える僕らのルームシェア
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる