花の檻

蒼琉璃

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第三章 害虫駆除

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「高階……? 高階凛のことかしら? それがどうしたの」

 凜花は、しゃがみ込むと机の下に隠れている双子の妹に話しかける。優花はなにかに怯えた様子で、しきりに『復讐なんてふざけるな』『阿久津と斎藤が死んじゃった』と言いながらメソメソと泣き出していた。
 混乱した優花の言葉を、繋ぎ合わせて推測してみると、斎藤が桜井と同じように『花の寄生』によって死亡。そしてそれを告げた阿久津も、同じように目の前で死んでしまったらしい。凛花はにわかに信じられず、ひとまず妹の背中を撫でると、主電源がついたままのPCに気づいて、立ち上がった。
 腰にすがりついている、優花をそのままにしておいて、凜花はディスプレイの電源を入れた。

「――――本当ね。優花の言う通り死んでる。まずいわ」

 そこには電気を消した暗い部屋の中で、ディスプレイの蒼白い光に照らされて、花の化物のような人形が、だらんと椅子に座っているのが見えた。画面が、ところどころ赤く見えるのは、血しぶきのせいだろうか。
 優花に見せられた、渋谷のスクランブル交差点の動画と、全く同じような死に方だ。凛花は阿久津や斎藤が死んだことに対して、別段動揺している様子もなく、冷静に見ている。
 問題なのは、彼らが死んだことではなく、半グレ組織『ランボチーム』に属している男が、死の直前に自分たちに接触してきたことだ。凜花は阿久津のPCのセキュリティホールに入って、ハッキングすると、自分たちに繋がるものをすべてを消去した。

「ツールで履歴の復元ができないくらい痕跡を消したから、これで大丈夫。私たちに辿り着けるような人間は、ボンクラな警察にはいないでしょ。そうね、犯罪心理学の先生でもなければ、無理かな。なんてね」
「さすが凛花! でも、阿久津はあいつが来るって言ってたよ。これは復讐だって。優花たちのことを殺しに来るって、阿久津は凄く怯えてたんだけど」
「でも、高階凛に両親はいないでしょ。あの時は、恋人だって居なかったし。あいつには兄が居たけれど私が知ってる限り、凛が死んでからは酒に溺れていて、日雇いで食いつないでいるみたいだったわ。はっきり言って雑魚ね。復讐なんてできるはずないじゃない。私たちには関係ないんじゃないかしら?」

 凛花の言葉に、優花は落ち着きを取り戻した。阿久津の言葉は、とてつもなく恐ろしいものだったが、姉の凜花が毅然きぜんとした態度でそう言ってくれたので問題ない。本当のところは、阿久津が勝手にそう思い込んでいるだけで、全く自分たちは関係無いのだろうと思える。

「うん……。そ、そうだよね。優花たちに楯突く奴なんてこの東京で……ううん、この日本でいないよ!」
「そうよ。でも、念の為にお父様に働きかけておくわ。そうしたら優花も怖くないよね?」

 優花はすっかり安心して、いつものように笑ったが、凜花は内心穏やかではなかった。さすがに、これだけ自分たちに関わった人間が、次々と死ぬのは偶然ではない。異常すぎる。それも、全員の共通点が『高階凛』なのだから。
 何者かによって復讐される。
 そう思っても不思議ではないことを、二人は高階凛にしてしまった。

✤✤✤

 神部財閥、今の神部グループは大正から昭和にかけて発展し、特に戦後は重工業で財をなした。それから不動産や金融、また福祉などの事業を拡大して、日本の有力な財閥として繁栄していった一族だ。神部は政界から警察、アウトローにいたるまで、幅広く繋がりがある。
 もちろんその事業は、教育関係にも拡大され、聖南私立女子高等学校の理事長として、凜花たちの父である、神部明彦かんべあきひこが就任した。
 
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