花の檻

蒼琉璃

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第三章 害虫駆除

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 阿久津の所属する『ランボチーム』は、暴力団との繫がりがあり、いわゆる死体処理の仕事を、請け負ったことが何度かある。
 それが遺体かどうか知らないが、とりあえず指定の場所に呼び出され、絶対に荷物の中身を見たり、聞かない約束で、建築現場までつれて行かれる。そして人が一人入れるような重い箱をそこに置き、コンクリートを流し込むボタンを押すという簡単なものから、
 組の上納金を盗んで飛んだ男を、ヤクザがリンチし、代りに東京湾に沈めたこともあった。彼は参加はしなかったが、粉砕機で遺体の処理をしたなんて話も、聞いたことがある。
 しかし、目の前にある斉藤の変り果てた姿は、それとは比にならないほど現実離れしていて、猟奇的だった。少なくともさっきまで話していた斎藤が、どうやってそうなったのか想像もつかない。唯一分かることは、時間から考えても、斉藤は、生きながらこんな目にあったんじゃないかと想像した。

「さ、斎藤……」

 阿久津は掠れた声で、仲間の名前を呼びながら二の腕を掻いた。なんだかさきほどから、痛痒いような妙な感覚がして、バリバリと腕を掻きむしる。
 斉藤の遺体を直視できないが、蔓と蔓の間に何かが挟まっていたのを発見した阿久津は、それを、震える指で挟むと取った。

「…………」

 それは写真だった。
 証明写真のようで、可愛らしい顔立ちの女子高生が、緊張した様子でカメラを見ている。阿久津にはこの女子高生に見覚えがあり、言葉を失った。斉藤や近藤とは違い、阿久津が二年前の出来事をはっきりと覚えていたのは、それが印象に残るような、胸糞悪い依頼だったからだ。

「クソ、なんで、今頃……ふ、復讐かよ」

 阿久津は、バリバリと腕を掻きながらその写真を仕舞うと、なんだか熱っぽい体を立たせてトイレから出た。汗が滲んで顔色の悪い。そんな阿久津の様子を心配した島村が、彼に声を掛けるが、もうそれどころではない。

「うるせぇ……。お、お嬢に知らせねぇと」 

 阿久津は、島村を押しのけるとフラフラとクラブから出ていく。

✤✤✤

 PCの画面には、銃を持った自分の分身が近未来のステージを走っている。同じように銃を持った敵兵士が、壁からにゅっと出てくると、それに向かって優花は銃をぶっ放していた。
 気持ちのいいゲーム進行に、優花が機嫌よく楽しんでいると、画面の端に、何度目かの阿久津の呼出しマークがまた出てきたので、彼女は悪態をついてコントロールを投げ出した。

「優花、今ね。すっげーエイム上手くやれてたんだけど。阿久津、今日はクラブには行けねーって言ったじゃんね?」

 呼び出して来たのは、半グレの阿久津だった。こちらから連絡する以外は、できるだけ連絡をするなと凜花も優花も、きつく釘をさしておいたはずだが、やはり、こいつらには常識は通じないと心の中で悪態をつく。
 勉強が苦手な優花は、試験勉強にすぐに飽きてしまい、自分の部屋でゲームをしていた。通ボタンを押すとしばらく、暗い画面が続き、明らかに顔色の悪い阿久津が、落ちくぼんだ目で画面越しに優花を、神妙な目つきで見ている。

「お嬢……」
「へ? あんた、どうしたの? もしかしてクスリでラリっての?」

 自慢のツーブロのアシメントリーの髪も、今は汗でぐしゃぐしゃになっている。顔色も高熱を出しているかのように目が赤く、汗をかいていた。
 そして、しきりに周りをせわしなく怯えた様子で見ている様子は、クスリを摂取した時の状況に似ていた。
 それでも阿久津は今までこんな状態で、優花に連絡を取ろうとすることはなかったので、違和感を感じ、思わず画面に食い入るように見る。
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