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第三章 害虫駆除
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斎藤は鼻血を出しながら、自分を殴りつけた葵を見た。これが普通の状況なら、斉藤は自分を殴りつけた葵に激怒して、そのまま腕力に物を言わせるように、トイレでリンチをしていただろう。しかし、斉藤の目の前にいる葵の姿は、あまりにも異様で、人間からかけ離れている。斉藤は驚愕し、喉の奥で鶏が締められたかのような、うめき声をあげることしかできなかった。
「ヒッ……ヒィッ、どうなって……んだ!?」
トイレの出入口を塞ぐ、植物の蔓はどうやら葵の背中から伸びていて、うねうねと触手のようにうごめいている。それが、天井まで届くとすべてを覆い尽くすかのように、パリンと電球を割った。そして薄暗いトイレの中で便器のセンサーライトだけが、不気味に青く光っている。
「お前が言うように、警察に行っても意味はなかったな。あいつらは、本当に役立たずだ」
葵はそう言って鼻で笑う。
そしてパーカーを脱いで両足を踏ん張った瞬間、肩甲骨の部分から腰にいたるまで、SF映画にでもありそうな、ロボットが翼を広げるようにメリメリと音がして、パッカリと割れた。
葵の背中には、たくさんの花が咲き乱れ、濃厚な花の匂いがする。葵の血を吸った蔓がうねうねと互いに絡まり合い、まるで枝のように鋭利になると、キリストの張り付けのように、斉藤の手の平と足の甲を鋭く貫いた。
「ぎゃああああああ!!」
トイレに、斉藤の大絶叫が響いたが、鼓膜に響くほどの重低音と、白人DJの煽り声、客の熱狂によってすべてが掻き消されてしまう。今日は、人気のDJをクラブに呼んだお陰で、その場にいるすべての人が、フロアに釘付けになっていた。
「くそっ、いでぇ! あっ、ああ、お、お前が近藤を殺したのか! はぁ、ひぎぃっ」
「――――そうだ。桜井も近藤も俺が殺したよ。凛が元気だと? ふざけるな……。お前たちが俺の妹を殺したんだよ」
葵は、怒鳴りつけるでもなく凍てつくような視線で、斉藤を見た。腕の皮膚が、体内で蔓を飼っているかのようにうごめいて、どくどくと波打っている。そして、葵の白目は吸血鬼のように赤く充血していた。
相手が人間なら、斎藤もどうにか反撃のしようがあるが、目の前にいる葵は人間じゃない。異形の存在に、スキンヘッドで強面の斉藤が、あまりの恐怖に失禁していた。
「ほ、ほんとうに、俺はただ、あいつらの命令に従っただけなんだよぉ! そうだよ、阿久津が、お嬢たちの頼み事が、おもしろそうだからやろうぜって言ったんだ! 俺は言いなりだったんだ。本当はあんたの妹をやりたくなんてなかったんだよ。許してくれ、助けてくれよぉ!」
両手両足に感じる激痛に、斉藤の顔が段々と青ざめていく。大柄の男がまるで、子供のように大泣きして、許しを請う姿は哀れだった。だが、葵は全く表情も変えず、斎藤を見下したような目で見た。
「動画の中じゃ、お前は十分楽しんでいただろう、ゴミクズが。どれだけ謝罪しようが、お前らのやったことは、消えないんだよ。凛の痛みを消せるはずがないだろ。俺は、お前らに償いをさせる猶予も与えたくはない。だから死ね」
「ヒッ、う、うわ、うわ、ぐっ」
葵は、斉藤の首に力を入れた。彼の背中から伸びた蔓の集合体がゆらゆらとさまよい、斉藤のヘソに狙いを定めると、そこを突き破って体内に入っていく。
斉藤の叫び声は、あいかわらず大音量の音にかき消される。ヘソの窪みから、内蔵を犯される痛みと、なにかによって自分の体内を蝕まれ、育っていくような、おぞましい感覚がして、半狂乱になった。
鮮血が飛び散り、葵の頬に返り血が少しかかると、斉藤の手足は無惨に吹き飛んで断面図から花と蔓が飛び出した。そして、眼球を突き破って蔓が飛び出すと、痙攣する斉藤の体を覆うように美しい花たちが群生する。
そして、斉藤の屍はゴロンと冷たい床に倒れた。
「ヒッ……ヒィッ、どうなって……んだ!?」
トイレの出入口を塞ぐ、植物の蔓はどうやら葵の背中から伸びていて、うねうねと触手のようにうごめいている。それが、天井まで届くとすべてを覆い尽くすかのように、パリンと電球を割った。そして薄暗いトイレの中で便器のセンサーライトだけが、不気味に青く光っている。
「お前が言うように、警察に行っても意味はなかったな。あいつらは、本当に役立たずだ」
葵はそう言って鼻で笑う。
そしてパーカーを脱いで両足を踏ん張った瞬間、肩甲骨の部分から腰にいたるまで、SF映画にでもありそうな、ロボットが翼を広げるようにメリメリと音がして、パッカリと割れた。
葵の背中には、たくさんの花が咲き乱れ、濃厚な花の匂いがする。葵の血を吸った蔓がうねうねと互いに絡まり合い、まるで枝のように鋭利になると、キリストの張り付けのように、斉藤の手の平と足の甲を鋭く貫いた。
「ぎゃああああああ!!」
トイレに、斉藤の大絶叫が響いたが、鼓膜に響くほどの重低音と、白人DJの煽り声、客の熱狂によってすべてが掻き消されてしまう。今日は、人気のDJをクラブに呼んだお陰で、その場にいるすべての人が、フロアに釘付けになっていた。
「くそっ、いでぇ! あっ、ああ、お、お前が近藤を殺したのか! はぁ、ひぎぃっ」
「――――そうだ。桜井も近藤も俺が殺したよ。凛が元気だと? ふざけるな……。お前たちが俺の妹を殺したんだよ」
葵は、怒鳴りつけるでもなく凍てつくような視線で、斉藤を見た。腕の皮膚が、体内で蔓を飼っているかのようにうごめいて、どくどくと波打っている。そして、葵の白目は吸血鬼のように赤く充血していた。
相手が人間なら、斎藤もどうにか反撃のしようがあるが、目の前にいる葵は人間じゃない。異形の存在に、スキンヘッドで強面の斉藤が、あまりの恐怖に失禁していた。
「ほ、ほんとうに、俺はただ、あいつらの命令に従っただけなんだよぉ! そうだよ、阿久津が、お嬢たちの頼み事が、おもしろそうだからやろうぜって言ったんだ! 俺は言いなりだったんだ。本当はあんたの妹をやりたくなんてなかったんだよ。許してくれ、助けてくれよぉ!」
両手両足に感じる激痛に、斉藤の顔が段々と青ざめていく。大柄の男がまるで、子供のように大泣きして、許しを請う姿は哀れだった。だが、葵は全く表情も変えず、斎藤を見下したような目で見た。
「動画の中じゃ、お前は十分楽しんでいただろう、ゴミクズが。どれだけ謝罪しようが、お前らのやったことは、消えないんだよ。凛の痛みを消せるはずがないだろ。俺は、お前らに償いをさせる猶予も与えたくはない。だから死ね」
「ヒッ、う、うわ、うわ、ぐっ」
葵は、斉藤の首に力を入れた。彼の背中から伸びた蔓の集合体がゆらゆらとさまよい、斉藤のヘソに狙いを定めると、そこを突き破って体内に入っていく。
斉藤の叫び声は、あいかわらず大音量の音にかき消される。ヘソの窪みから、内蔵を犯される痛みと、なにかによって自分の体内を蝕まれ、育っていくような、おぞましい感覚がして、半狂乱になった。
鮮血が飛び散り、葵の頬に返り血が少しかかると、斉藤の手足は無惨に吹き飛んで断面図から花と蔓が飛び出した。そして、眼球を突き破って蔓が飛び出すと、痙攣する斉藤の体を覆うように美しい花たちが群生する。
そして、斉藤の屍はゴロンと冷たい床に倒れた。
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