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第二章 プロファイリング
⑤
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――――犯行現場の写真だ。
歌舞伎町の路地で、緑の電灯に染まった遺体は、見たこともない異形の怪物だった。ホラー映画のワンシーンを、写真に収めているようで、まるで現実味がない。CGの合成や特殊メイクにしか見えず、これを誰かに見せられても悪い冗談にしか思えないだろう。
渋谷で公開処刑された、桜井の殺害方法と全く同じ方法で殺されている。佐伯が、直接彼女の遺体や動画を見ることを拒んだのは、ある意味正解だったかもしれない。
鬼頭はあの美しく咲く花に寄生され、腐敗臭を放つ死肉の皮膚が盛り上がり、体内で幼虫が蠢くのを見てから、しばらく食欲をなくしてしまった。
刑事になってから目を覆いたくなるような悲惨な状態の遺体と、何度か対面したことはあるが、あれを見た恐怖は、それらとは異質の物だった。
花の檻に入り、内側から虫に食い潰され、まるで、生きていたころの人間の尊厳なんてこれっぽっちもなく、腐り、養分になっていく。あの姿はいつか、自分に訪れる死と腐敗の過程を見ているようだと、鬼頭は思った。あるいは、何か自分よりも強大な存在に養分を吸われ、皮一枚になっていくような、恐怖感と絶望。
「鬼頭、君は前回と状況が異なると言ったが、それは間違いだ。犯人は被害者に懺悔させるという形で、僕たちと、次のターゲットにメッセージを送っている」
佐伯は、犯行現場に残されたメッセージを、アップにした写真を見ている。確かに犯人からの、明確な犯行予告はなかったが、被害者はカメラの前で懺悔をしていた。
「あの懺悔は、辱めるのが目的だけじゃなく、誰かに宛てた見せしめか。双子の女王蜂ってのが引っかかる。その人物が、次のターゲットにされるんじゃないのか」
「その女王蜂に対する陶酔を、皮肉っているようにも思えるな。鬼頭、検視結果はどうなんだい」
「信じられないかもしれないが、被害者の遺体は、短時間で植物の種に寄生され、内蔵を突き破り、脳の細胞が破壊されて死亡している。薬物や刃物で殺されて、遺体を花で埋め尽くされていたわけじゃない。どうやって、人間の体に大量に植物の種を植えられるのか、さっぱりわからんとさ」
この検死結果を突きつけられた時、鬼頭はあまりの不可解さに閉口した。どう考えても、人間に寄生する植物が、短時間で体内から開花するとは思えないし、そもそも、人間の肉体に寄生できるような植物が、この世にあるのか、と頭を抱えた。
どう見ても、桜井と近藤の遺体に咲いていた花は、日本でも一般的に見るような花ばかりだった。例えばアマゾンの奥地に寄生する、怪しい新種の花なら、まだこの疑問の答えになりそうだが。
「まるでオカルトだな。きっと見落としている事件のピースがあるんだろう。僕が知る限り、人間に寄生できるのは虫だけだ。このメッセージを送った、連続殺人鬼が人工的にそう見えるように、なんらかのトリックをしたんだろう」
「連続殺人鬼か。しかし二人に接点も共通点はないぞ。歌舞伎町の方は男が被害者だしな」
「必ず、犯人が執着する共通点があるはずだ。まずは、過去の類似事件を調べてくれ。殺害方法からみて、おそらく同一人物だろう。過去に世間へ向けて、処刑を誇示するような発言をしたり、被害者の映像を撮っていた手口など、とにかく情報が欲しい。ああそれから、その件の映像を、僕に送ってくれ」
歌舞伎町の路地で、緑の電灯に染まった遺体は、見たこともない異形の怪物だった。ホラー映画のワンシーンを、写真に収めているようで、まるで現実味がない。CGの合成や特殊メイクにしか見えず、これを誰かに見せられても悪い冗談にしか思えないだろう。
渋谷で公開処刑された、桜井の殺害方法と全く同じ方法で殺されている。佐伯が、直接彼女の遺体や動画を見ることを拒んだのは、ある意味正解だったかもしれない。
鬼頭はあの美しく咲く花に寄生され、腐敗臭を放つ死肉の皮膚が盛り上がり、体内で幼虫が蠢くのを見てから、しばらく食欲をなくしてしまった。
刑事になってから目を覆いたくなるような悲惨な状態の遺体と、何度か対面したことはあるが、あれを見た恐怖は、それらとは異質の物だった。
花の檻に入り、内側から虫に食い潰され、まるで、生きていたころの人間の尊厳なんてこれっぽっちもなく、腐り、養分になっていく。あの姿はいつか、自分に訪れる死と腐敗の過程を見ているようだと、鬼頭は思った。あるいは、何か自分よりも強大な存在に養分を吸われ、皮一枚になっていくような、恐怖感と絶望。
「鬼頭、君は前回と状況が異なると言ったが、それは間違いだ。犯人は被害者に懺悔させるという形で、僕たちと、次のターゲットにメッセージを送っている」
佐伯は、犯行現場に残されたメッセージを、アップにした写真を見ている。確かに犯人からの、明確な犯行予告はなかったが、被害者はカメラの前で懺悔をしていた。
「あの懺悔は、辱めるのが目的だけじゃなく、誰かに宛てた見せしめか。双子の女王蜂ってのが引っかかる。その人物が、次のターゲットにされるんじゃないのか」
「その女王蜂に対する陶酔を、皮肉っているようにも思えるな。鬼頭、検視結果はどうなんだい」
「信じられないかもしれないが、被害者の遺体は、短時間で植物の種に寄生され、内蔵を突き破り、脳の細胞が破壊されて死亡している。薬物や刃物で殺されて、遺体を花で埋め尽くされていたわけじゃない。どうやって、人間の体に大量に植物の種を植えられるのか、さっぱりわからんとさ」
この検死結果を突きつけられた時、鬼頭はあまりの不可解さに閉口した。どう考えても、人間に寄生する植物が、短時間で体内から開花するとは思えないし、そもそも、人間の肉体に寄生できるような植物が、この世にあるのか、と頭を抱えた。
どう見ても、桜井と近藤の遺体に咲いていた花は、日本でも一般的に見るような花ばかりだった。例えばアマゾンの奥地に寄生する、怪しい新種の花なら、まだこの疑問の答えになりそうだが。
「まるでオカルトだな。きっと見落としている事件のピースがあるんだろう。僕が知る限り、人間に寄生できるのは虫だけだ。このメッセージを送った、連続殺人鬼が人工的にそう見えるように、なんらかのトリックをしたんだろう」
「連続殺人鬼か。しかし二人に接点も共通点はないぞ。歌舞伎町の方は男が被害者だしな」
「必ず、犯人が執着する共通点があるはずだ。まずは、過去の類似事件を調べてくれ。殺害方法からみて、おそらく同一人物だろう。過去に世間へ向けて、処刑を誇示するような発言をしたり、被害者の映像を撮っていた手口など、とにかく情報が欲しい。ああそれから、その件の映像を、僕に送ってくれ」
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