24 / 43
拾陸 再会と偵察①
しおりを挟む
朧さんとの屋形船デートを楽しんだ後、私は、西陣織の小物店『こうめや』でバイトする事になった。店主さんは牛の神使の女将で、とっても優しそうな雰囲気の方だったので、私は安心したのを覚えている。
私が手伝いたいと申し出た時は、女将さんは、かなり驚いた様子だったけれど、朧さんの所に居る人間なら、大丈夫だねぇと太鼓判を押してくれたの。
開店して猫の手も借りたいくらい、忙しいみたいだから良かったな。
売り子さんは、私の他にもう一人女の子が居るらしい。今日は初めて、その子とお仕事が被ったんだけど……。
『あんたが、ここで働く事になった人間?』
その子は私より小柄で、垂れた耳にふわふわの白い髪の可愛らしい子だった。私を見ると、興味津々な感じで目を大きくさせ、まじまじと見つめてくる。
に、人間ってそんなに珍しいのかな……。
でも神使の後ろで、時代劇風の付き人みたいな人間の男の人は見た事あるけれど、女の人は見た事ないかも。
『魅久楽に来た人間で、菖蒲屋の女郎以外の女の子は、初めて見たよ。あたし、お雪。お雪ちゃんって呼んで。よろしくね!』
「よ、よろしくね。私はつむぎって言うの」
『女将さんに聞いたよ。あの朧さんの所で居候してるんだろ。もしかして、あんたは朧さんのコレなの?』
「えっと……うん。そうなるのかな」
お雪ちゃんは小指を立てた。私は赤くなりながら、なんだか照れ臭く感じてはにかんでしまう。なんだろう、私にも元彼はいたけど、誰かとつき合ってるって聞かれてこんなに嬉しくなって、照れたのは初めてかも。
朧さんは、私の彼氏なんだ……それどころか同棲までしている。
『いいなぁ……。朧さんってあたし達の憧れよ。遊び人だけと、高嶺の花って言うか……色気の塊と言うか。あたしも一夜共にしたいけど、素人とは色恋しないところがまたねぇ、玄人だわって感じだろ。てかさ、あんた、朧さんに身請けされたの?』
「ううん、違う。なんか色々とあって結果的にこうなってしまって」
『なになに! その色々な所がすっごく興味あるんだけど』
どこの世界でも、女の子同士の会話では、恋バナが話題になりやすいみたい。お雪ちゃんは物凄い勢いで食い付くと、店先の段差に座って羨ましそうに足をばたつかせた。
『お雪! まーたお喋りが止まらないのかい。これから忙しくなるんだから、さぼってないでさっさとお掃除でもおし!』
『はーい、女将さん。つむぎちゃん、頑張ろうね』
さっきからお雪ちゃんの質問攻めだったので、ちょっと女将さんの雷には助かったなぁ。
ここの品揃えは、ハンカチや扇子、お財布や小物入れの他に、西陣織で作った可愛い動物の小さなぬいぐるみなんかも売ってあって可愛い。
意外と神使のお客さんは、自分と同じ動物のぬいぐるみを買って行くらしい。
それと、他の小物屋さんとは違う特徴として、お店の前には休憩する為の赤い床几も置かれているの。
夏は冷やし飴とか、かき氷、餡蜜なんかを出して、冬になったら、ぜんざいとかお団子とかに変えるつもりだって話していた。ここはあまり気温や景色的に季節の変化はないけど、現世の四季と連動しているのかな?
他のお店との違いを出す為に、ちょっとした茶屋みたいな事もしてるから、ここのお仕事は結構忙しい。
でも、飲食のバイトよりもましだから、一ヶ月もしたら、このお仕事にも慣れそうだから、頑張らなくちゃ!
『つむぎちゃん、餡蜜をお出しして頂戴。それが終わったら、こっちでお雪のお会計を手伝っとくれ』
「はい、女将さん」
奥で商品の整理をしていた私は、女将さんから餡蜜と、冷たいお茶を乗せたお盆を受け取ると、お客さんにお出しする。
「お待たせしました。餡蜜と煎茶です」
「つむぎ……?」
「え?」
聞き慣れた声がして、私は驚いて床几に座ったお客さんを見る。そこには浴衣姿の莉緒ちゃんが、内輪を扇いでいた。
莉緒ちゃんの側には、若い衆のような鷲の羽根が生えた険しい顔の人が、腕を組みながら立っている。私は反射的に軽く会釈をしたの。
確か朧さんは、事故で崖から車が転落して、三人とも亡くなる運命にあるって言っていたよね。
うん、八百万の神様に不敬を働いた者は黄泉の世界に行くか、魅久楽で神使の元で働くか、売られて罪を償うかって言っていたもの。
「吃驚したぁ! つむぎもこの魅久楽に来てたんだ。つむぎが行方不明になって大変だったんだよ。警察に行ったんだけど、逆に私達が怪しまれて事情聴取されたし。結局、つむぎが見つからなくて、私達は帰るしかなかったんだけど、まさかその途中に事故に遭って死ぬなんて思わないじゃんね? やっぱりあんたも死んでたんだ。この店で働かされてるわけ?」
「えっと……死んだのかは分からないけど、お狐様のお屋敷でお世話になってるんだよ。それで、ここのお店で働かせて貰ってるの。ねぇ、莉緒ちゃん。山崎くんや加藤くんも魅久楽に来てるの?」
莉緒ちゃんは、あっけらかんとしていて、餡蜜を受け取ると、ぱくぱく食べる。
「そうなんだぁ。山崎くんと加藤くんの事は知らない。生きてるのか死んでるのかも分かんない。てかさ、私目覚めたら菖蒲屋に居たんだよね」
「え、だ、大丈夫なの……。莉緒ちゃん、菖蒲屋ってその」
私は上手く言えずに言葉を濁した。
私の彼氏と浮気した事は、絶対に許せない。
好きだった人を奪われた事より、出来心だったとしても、友達の莉緒ちゃんに裏切られた事がきつかったから。
けれど、莉緒ちゃんを助けてあげたい気持ちはある。どこかでまだ私は、彼女を友達だと思っているし、遊郭なんて女性には苦界でしかないんだから。
でも、私には彼女を身請けできるほどのお金なんて持っていないし、まさか朧さんに肩代わりさせる訳にもいかないので、ただ私には、彼女を心配する事しかできない。
「つむぎが言う通り、罰当たりな事したし、地獄に落ちるよりましかな。実は、つむぎに内緒にしてたけどさぁ、私、ホストに貢ぎしてて、風俗のバイトしてたんだよね。人間の客より魅久楽の客のほうがマナー良いし、上手いし、妊娠の心配も性病もないみたいだからさ。衣食住も揃ってるし、まぁ悪くないかなぁ。年季明けまで頑張るか、イケメン神使を捕まえて、身請けして貰う」
「そうなんだ……。それでいいの? 莉緒ちゃん」
「まぁ、悪くないかな。てかさ、もう死んでるし、暇じゃん」
「……私、ここで働いているから、また遊びに来て」
「休みがいつになるか分からないけど。楼主の機嫌取りしとかないとね、私売れっ子だからさ、抜けられると困るみたいだし。つむぎのお気に入りのお店教えてよ。奢ったげる。ここじゃあんまり稼げないでしょ」
ショートカットの髪を遊ばせる莉緒ちゃんの仕草が懐かしい。莉緒ちゃんが風俗でバイトをしているのも知らなかったし、私も契約の巫女の事や、恋人が朧さんなのも彼女に言えなかった。
浮気してたのを問い質す事もできなかった。
上手く言えないけど、莉緒ちゃんの事を私は全然知らなくて、こんなにも自分と価値観が違ったんだと思ったら、なんとなく寂しくて、一歩引いてしまう自分がいた。
自分だけ朧さんに助けられた事に、罪悪感があったけれど、なにもかも色々と吹っ切れたような気がする。
魅久楽で生きて、友達を沢山作ろう。
私はここで、朧さんとちゃんと新しい人生を歩みたい。
『つむぎちゃーん! 手伝ってよ』
お雪ちゃんに呼ばれて、私は莉緒ちゃんと見張りの若い衆に頭を下げると、お雪ちゃんの隣で小物の会計をした。
❖✥❖
午前中のお仕事が落ち着くと、私とお雪ちゃんは談笑しながら、軽いお昼ご飯を食べた。お雪ちゃんは好奇心旺盛で、現世に興味があり、恋バナ大好きな女の子だった。
素直で明るくて、可愛らしい神使だから、仲良くできそう。
魅久楽で分からない事があったら、なんでもあたしに聞いてくれ、教えてあげると言ってくれたので、頼もしいなぁ。
やっぱり、女の子にしか相談できない事もあるもんね。
『さってと、そろそろ休憩終わり! つむぎちゃん、午後は稼ぎ時だから、頑張ろう』
「うん。仕事上がりのご褒美を楽しみにして乗り切ろ」
この『こうめや』は夕方でお店を閉める。朧さんが神使のお仕事から戻る頃には、お家に帰れるので、私的にピッタリのバイトだ。
今日は女将さんが、餡蜜を食べてお帰りと言ってくれたので、さらに頑張れそう!
閉店近くまでお雪ちゃんと二人で、お会計や品出しをしていると、七三分けの黒髪に吊り目の上品な着物を着たお狐様と、その隣には、かなり美人の蛇の神使がより添っていた。
彼女の周りには、同じく蛇の禿が二人付き添っている。女性の着物もそうだけど、禿を連れている所を見ると、このお客様は座敷持や呼出の遊女さんなのかな?
「いらっしゃいませ。どうぞご自由にご覧下さい」
『なんや珍しなぁ。西陣織の小物屋はぎょーさんあるけど、茶屋付きは小洒落てはるな。それに、この魅久楽のどこ探しても、人間の娘が売り子やってるとこはあらしまへんで』
京訛りのお狐様は、目を細めて愉快そうに笑った。お狐様はを見ると、朧さんが言っていた事を思い出すから、少し緊張しちゃうな……。もしこの方が東雲の門下にいるお狐様なら、絶対バレないようにしなくちゃ。
蛇の遊女さんは妖艶だけど、どこか目元が冷たくて、気の強そうな感じがする。
浅霧さんとは、また違う雰囲気の美人さんだな。
『へぇ。魅久楽にいる人間は、誰も彼もが罪人でありんす。わちきは、女郎じゃありんせん人間を見たのは、お初でありんす』
女性は口元を袖で抑えると、金色の蛇の目をギュッと細めたの。
なんだろう、彼女の目を見ると凄く背筋がゾッとした。
私が手伝いたいと申し出た時は、女将さんは、かなり驚いた様子だったけれど、朧さんの所に居る人間なら、大丈夫だねぇと太鼓判を押してくれたの。
開店して猫の手も借りたいくらい、忙しいみたいだから良かったな。
売り子さんは、私の他にもう一人女の子が居るらしい。今日は初めて、その子とお仕事が被ったんだけど……。
『あんたが、ここで働く事になった人間?』
その子は私より小柄で、垂れた耳にふわふわの白い髪の可愛らしい子だった。私を見ると、興味津々な感じで目を大きくさせ、まじまじと見つめてくる。
に、人間ってそんなに珍しいのかな……。
でも神使の後ろで、時代劇風の付き人みたいな人間の男の人は見た事あるけれど、女の人は見た事ないかも。
『魅久楽に来た人間で、菖蒲屋の女郎以外の女の子は、初めて見たよ。あたし、お雪。お雪ちゃんって呼んで。よろしくね!』
「よ、よろしくね。私はつむぎって言うの」
『女将さんに聞いたよ。あの朧さんの所で居候してるんだろ。もしかして、あんたは朧さんのコレなの?』
「えっと……うん。そうなるのかな」
お雪ちゃんは小指を立てた。私は赤くなりながら、なんだか照れ臭く感じてはにかんでしまう。なんだろう、私にも元彼はいたけど、誰かとつき合ってるって聞かれてこんなに嬉しくなって、照れたのは初めてかも。
朧さんは、私の彼氏なんだ……それどころか同棲までしている。
『いいなぁ……。朧さんってあたし達の憧れよ。遊び人だけと、高嶺の花って言うか……色気の塊と言うか。あたしも一夜共にしたいけど、素人とは色恋しないところがまたねぇ、玄人だわって感じだろ。てかさ、あんた、朧さんに身請けされたの?』
「ううん、違う。なんか色々とあって結果的にこうなってしまって」
『なになに! その色々な所がすっごく興味あるんだけど』
どこの世界でも、女の子同士の会話では、恋バナが話題になりやすいみたい。お雪ちゃんは物凄い勢いで食い付くと、店先の段差に座って羨ましそうに足をばたつかせた。
『お雪! まーたお喋りが止まらないのかい。これから忙しくなるんだから、さぼってないでさっさとお掃除でもおし!』
『はーい、女将さん。つむぎちゃん、頑張ろうね』
さっきからお雪ちゃんの質問攻めだったので、ちょっと女将さんの雷には助かったなぁ。
ここの品揃えは、ハンカチや扇子、お財布や小物入れの他に、西陣織で作った可愛い動物の小さなぬいぐるみなんかも売ってあって可愛い。
意外と神使のお客さんは、自分と同じ動物のぬいぐるみを買って行くらしい。
それと、他の小物屋さんとは違う特徴として、お店の前には休憩する為の赤い床几も置かれているの。
夏は冷やし飴とか、かき氷、餡蜜なんかを出して、冬になったら、ぜんざいとかお団子とかに変えるつもりだって話していた。ここはあまり気温や景色的に季節の変化はないけど、現世の四季と連動しているのかな?
他のお店との違いを出す為に、ちょっとした茶屋みたいな事もしてるから、ここのお仕事は結構忙しい。
でも、飲食のバイトよりもましだから、一ヶ月もしたら、このお仕事にも慣れそうだから、頑張らなくちゃ!
『つむぎちゃん、餡蜜をお出しして頂戴。それが終わったら、こっちでお雪のお会計を手伝っとくれ』
「はい、女将さん」
奥で商品の整理をしていた私は、女将さんから餡蜜と、冷たいお茶を乗せたお盆を受け取ると、お客さんにお出しする。
「お待たせしました。餡蜜と煎茶です」
「つむぎ……?」
「え?」
聞き慣れた声がして、私は驚いて床几に座ったお客さんを見る。そこには浴衣姿の莉緒ちゃんが、内輪を扇いでいた。
莉緒ちゃんの側には、若い衆のような鷲の羽根が生えた険しい顔の人が、腕を組みながら立っている。私は反射的に軽く会釈をしたの。
確か朧さんは、事故で崖から車が転落して、三人とも亡くなる運命にあるって言っていたよね。
うん、八百万の神様に不敬を働いた者は黄泉の世界に行くか、魅久楽で神使の元で働くか、売られて罪を償うかって言っていたもの。
「吃驚したぁ! つむぎもこの魅久楽に来てたんだ。つむぎが行方不明になって大変だったんだよ。警察に行ったんだけど、逆に私達が怪しまれて事情聴取されたし。結局、つむぎが見つからなくて、私達は帰るしかなかったんだけど、まさかその途中に事故に遭って死ぬなんて思わないじゃんね? やっぱりあんたも死んでたんだ。この店で働かされてるわけ?」
「えっと……死んだのかは分からないけど、お狐様のお屋敷でお世話になってるんだよ。それで、ここのお店で働かせて貰ってるの。ねぇ、莉緒ちゃん。山崎くんや加藤くんも魅久楽に来てるの?」
莉緒ちゃんは、あっけらかんとしていて、餡蜜を受け取ると、ぱくぱく食べる。
「そうなんだぁ。山崎くんと加藤くんの事は知らない。生きてるのか死んでるのかも分かんない。てかさ、私目覚めたら菖蒲屋に居たんだよね」
「え、だ、大丈夫なの……。莉緒ちゃん、菖蒲屋ってその」
私は上手く言えずに言葉を濁した。
私の彼氏と浮気した事は、絶対に許せない。
好きだった人を奪われた事より、出来心だったとしても、友達の莉緒ちゃんに裏切られた事がきつかったから。
けれど、莉緒ちゃんを助けてあげたい気持ちはある。どこかでまだ私は、彼女を友達だと思っているし、遊郭なんて女性には苦界でしかないんだから。
でも、私には彼女を身請けできるほどのお金なんて持っていないし、まさか朧さんに肩代わりさせる訳にもいかないので、ただ私には、彼女を心配する事しかできない。
「つむぎが言う通り、罰当たりな事したし、地獄に落ちるよりましかな。実は、つむぎに内緒にしてたけどさぁ、私、ホストに貢ぎしてて、風俗のバイトしてたんだよね。人間の客より魅久楽の客のほうがマナー良いし、上手いし、妊娠の心配も性病もないみたいだからさ。衣食住も揃ってるし、まぁ悪くないかなぁ。年季明けまで頑張るか、イケメン神使を捕まえて、身請けして貰う」
「そうなんだ……。それでいいの? 莉緒ちゃん」
「まぁ、悪くないかな。てかさ、もう死んでるし、暇じゃん」
「……私、ここで働いているから、また遊びに来て」
「休みがいつになるか分からないけど。楼主の機嫌取りしとかないとね、私売れっ子だからさ、抜けられると困るみたいだし。つむぎのお気に入りのお店教えてよ。奢ったげる。ここじゃあんまり稼げないでしょ」
ショートカットの髪を遊ばせる莉緒ちゃんの仕草が懐かしい。莉緒ちゃんが風俗でバイトをしているのも知らなかったし、私も契約の巫女の事や、恋人が朧さんなのも彼女に言えなかった。
浮気してたのを問い質す事もできなかった。
上手く言えないけど、莉緒ちゃんの事を私は全然知らなくて、こんなにも自分と価値観が違ったんだと思ったら、なんとなく寂しくて、一歩引いてしまう自分がいた。
自分だけ朧さんに助けられた事に、罪悪感があったけれど、なにもかも色々と吹っ切れたような気がする。
魅久楽で生きて、友達を沢山作ろう。
私はここで、朧さんとちゃんと新しい人生を歩みたい。
『つむぎちゃーん! 手伝ってよ』
お雪ちゃんに呼ばれて、私は莉緒ちゃんと見張りの若い衆に頭を下げると、お雪ちゃんの隣で小物の会計をした。
❖✥❖
午前中のお仕事が落ち着くと、私とお雪ちゃんは談笑しながら、軽いお昼ご飯を食べた。お雪ちゃんは好奇心旺盛で、現世に興味があり、恋バナ大好きな女の子だった。
素直で明るくて、可愛らしい神使だから、仲良くできそう。
魅久楽で分からない事があったら、なんでもあたしに聞いてくれ、教えてあげると言ってくれたので、頼もしいなぁ。
やっぱり、女の子にしか相談できない事もあるもんね。
『さってと、そろそろ休憩終わり! つむぎちゃん、午後は稼ぎ時だから、頑張ろう』
「うん。仕事上がりのご褒美を楽しみにして乗り切ろ」
この『こうめや』は夕方でお店を閉める。朧さんが神使のお仕事から戻る頃には、お家に帰れるので、私的にピッタリのバイトだ。
今日は女将さんが、餡蜜を食べてお帰りと言ってくれたので、さらに頑張れそう!
閉店近くまでお雪ちゃんと二人で、お会計や品出しをしていると、七三分けの黒髪に吊り目の上品な着物を着たお狐様と、その隣には、かなり美人の蛇の神使がより添っていた。
彼女の周りには、同じく蛇の禿が二人付き添っている。女性の着物もそうだけど、禿を連れている所を見ると、このお客様は座敷持や呼出の遊女さんなのかな?
「いらっしゃいませ。どうぞご自由にご覧下さい」
『なんや珍しなぁ。西陣織の小物屋はぎょーさんあるけど、茶屋付きは小洒落てはるな。それに、この魅久楽のどこ探しても、人間の娘が売り子やってるとこはあらしまへんで』
京訛りのお狐様は、目を細めて愉快そうに笑った。お狐様はを見ると、朧さんが言っていた事を思い出すから、少し緊張しちゃうな……。もしこの方が東雲の門下にいるお狐様なら、絶対バレないようにしなくちゃ。
蛇の遊女さんは妖艶だけど、どこか目元が冷たくて、気の強そうな感じがする。
浅霧さんとは、また違う雰囲気の美人さんだな。
『へぇ。魅久楽にいる人間は、誰も彼もが罪人でありんす。わちきは、女郎じゃありんせん人間を見たのは、お初でありんす』
女性は口元を袖で抑えると、金色の蛇の目をギュッと細めたの。
なんだろう、彼女の目を見ると凄く背筋がゾッとした。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
甘々に
緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。
ハードでアブノーマルだと思います、。
子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。
苦手な方はブラウザバックを。
初投稿です。
小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。
また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。
ご覧頂きありがとうございます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる