【R18】花街の朧狐は契約の巫女を溺愛する〜お狐様のお仕置き〜

蒼琉璃

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拾 花魁道中②

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 呆然としていると、錦と言われたお狐様の唇が重なる。錦の舌が私の唇を割って入ってきた瞬間、私は、我に返って胸板をドンッ、と押した。
 そして、真っ赤になると反射的に錦狐の頬をパシンと叩いてしまった。

「な、な、何するの、バカッ! 痴漢! 私は、あんたの女じゃないんだからね!」
『………』

 まさか、自分がビンタされるとは思っていなかったのか、錦は目を丸くして、私を見下ろした。
 こんな白昼堂々、しかも浅霧太夫の花魁道中目当てに、大勢の神使やあやかしたちが集まる前で、殴ってしまった。『なんだ、なんだ、痴話喧嘩か?』と言いながら、私たちにみんなの注目が集まってしまい、さらに顔が熱くなる。
 これは、恥ずかしい。
 恥ずかしすぎるし、錦から聞いた、朧さんが魅久楽の遊郭で、一番人気の浅霧太夫の『間夫』なんて聞いちゃったから、ショックなのと恥ずかしいので、感情がぐちゃぐちゃになってる。
 錦は、私が殴ったほうの頬を撫でニヤリと不敵に笑う。私は真っ赤になって、泣きそうになりながら走り出した。

『いいねぇ。あの感じ。可愛いじゃん。久々に気に入ったわ。あの女、朧狐から寝取ろうかな』


❖✥❖

 私は、気持ちがふわふわとしたまま『いづも屋』で芋きんつばだけ購入した。店主さんに、また来ると行った手前もあるし、お梅狐さんにもお世話になっているから。
 でも、全然心はここにあらずだ。もう、今日は探検する気力もないし、お屋敷に帰ろうかな……。でも、朧さんとどんな顔して会えばいいの?

「だいたい、契約した巫女って、どういう意味なの。恋人? 愛人? まさか……神使の専用セフレ?」

 自分で口にして、イライラしてきた。昼も夜もドロドロに交尾したいって、そういうことなの? 胸がズキズキする。もう、朧さんとエッチしない。あんな美人な彼女がいるなんて聞いてないし、ピロトークで本気になりかけてたのに。バカッ、バカッ!
 それに、変なお狐様の神使に絡まれて、痴漢されちゃうし、もう最悪。

『なんぞおしたんか、つむぎはん。えらい早いお帰りどすえ。泣いてはるん?』
「お、お梅狐さん。ちょっと目にゴミが入って。あ、あの。これ良かったら召し上がってください。美味しそうだったから」
『おおきに。なんや、えらい気を使わせてしもて。せやけど、いづも屋の芋ようかんはええお味で、ほんまおいしおすからなぁ』

 お梅狐さんに笑顔が浮かぶ。きつい感じの人だけど、甘いものは好物なのかな。
 知らないうちに私は、泣いてたみたいで、恥ずかしくなって目を擦った。
 朧さんは悪い狐だし、彼女や愛人が数十人いたって、隠し子がいたっておかしくないけど、予想以上にショックだった。だって、特別扱いするんだもん。
 下駄を脱いで、玄関を上がった瞬間に障子が開く音がして、私は顔を上げた。

『えらい早いお帰りやねぇ、つむぎちゃん。なんや、俺に会いとうて、はよ帰ってきたん?』
「お、朧さん」

 朧さんが、障子を明けて戸口で両手を着物の袖の中で組むようにして立っていた。お昼間に神使のお仕事をするときは、正装しているんだって。やっぱり神様にお会いする時は、あんなにチャラくてもキチンとしているんだなって思った。
 良家の若旦那って感じで、ピシッとしてる。それなのに、羽織りを着崩れさせて退廃的で色っぽい立ち姿に、私はドキドキしたけれど、今すごく怒ってるの。

『坊も、いつもより今日は、はようお帰りにならはって。お茶の用意するさかい、待っておくれやす』
『ほな、頼むわ。つむぎちゃんにも、ひやこい茶でも用意したって』
「…………」

 私は、キュッと唇を閉じると、お尻を気にしつつトントンと階段を登った。一応、私のお部屋も用意して貰ってるし。と言っても、朧さんの部屋と、襖一枚で区切られているだけ。
 無言のまま、朧さんの横を通り過ぎようとすると、ぐっと腰を抱かれて引き戻され、私は悲鳴を上げた。

「きゃっ! な、なに。朧さん」
『なんや、あんたから嫌な臭いがするわ。しょーもない東の狐の臭いや。どないしたん、つむぎちゃん。えらい、ご機嫌斜めやねぇ』

 驚いて朧さんを見上げると、クンクンと首筋の香りを嗅がれて私はドキドキしてしまった。ここで流されちゃったら、またエッチなことされそうだし、グイグイ朧さんを押し退けようとしたけど、全然ビクともしない。
 東の狐って、さっきの錦のことかな? なんか、朧さんは笑顔だけど、凄い圧を感じる。

『ちゃあんと、俺になんでも話しーや。フグみたいにほっぺた膨らませるあんたも、可愛いけどなぁ。なぁ、つむぎちゃん。どしたん?』
「あっ、ちょ、ちょっと朧さん! ひゃっ」

 片手で私の頬を掴んで、朧さんは狐目をキュッと細める。私の体を軽々と抱き上げ、部屋まで連れ込むと、胡座の上に座らせた。ご、強引なんだから……。
 逃げられないようにガッシリ腰を抱かれて、ニコニコしている顔が怖い。でも、私は今すごく怒ってるしっ、そんなんじゃ絆されない。

「――――花魁道中を見たんです。藤屋の浅霧太夫って花魁の。朧さんって浅霧太夫さんの恋人だったんですね!!」

 物凄く力を籠めて言うと、プイッとしあさっての方を向いた。動揺したり困惑したりするのかと思ったけど、朧さんはポリポリと頬を掻いた後に、ニヤニヤしながら私の肩に顎を乗せる。

『なんや、つむぎちゃん。やきもち焼いてるんか? せやなぁ。浅霧が太夫になる前は間夫やったで。俺が本気やったら、とうの昔に浅霧の身請けしとるやろ。せやけど、あいつは藤屋の太夫になって、魅久楽の頂点に立ってる。あいつの方は、今も俺に未練はあるようやけどなぁ。俺は、そない優しいおとことちゃうよ』
「え、その……。それじゃあ浅霧太夫さんは元カノってことなの? 今は浅霧太夫さんのところに通ってない?」
『せや。そないフグみたいに頬膨らませて、怒らんでええよ。昨夜の話は本気にしてええさかい。で、なんであんたがそれを知ってるん?』

 朧さんなら、身請けできる金額は用意できそうだから、嘘じゃなさそう。このクズ変態狐の言うことを、真に受けていいのかな……と思うけど。そんなことより、朧さんは別のことが気になるみたい。

「え、えと。花魁道中見てたら錦狐ってお狐様に声をかけられて。朧さんのことを知ってるみたい。凄く失礼な奴」
『へぇ……葛西錦ちゃう? いちびりのしょーもない悪狐やで。東の狐は下品でかなわんわ。俺とあいつは水と油やねん。錦は日本三大稲荷で、笠間稲荷神社の神使や』

 笠間稲荷神社って、茨城の方にある稲荷神社だったような気がする。なんとなく朧さんは錦と似たような属性な気がするけど、悪い狐でも考えが違うのかな。
 朧さんは、金色の目を細めながら、私の両頬を包み込んで詰めるように見てくる。こ、怖い。

『なんや、されたんか?』
「き、キスされて……。公衆の面前で、思いっきりビンタしました」
『ビンタァ? 阿呆や。ざまぁあらへんな。ダッサ! あんた最高やねぇ、つむぎちゃん』

 その瞬間、朧さんはゲラゲラと笑った。そして真顔になると私にキスする。完全に油断していたから、慣れた舌が押し入ってくると、簡単に絡め取られちゃう。
 粘膜が擦れて、いやらしく舌が動くとぞくぞくと背中を駆け上ってくる快楽に、呼吸が乱れた。抵抗できない……気持良くて、朧さんの胸を押し返せない。だめ。飲み込まれちゃう、体が動かない。

「んっ、んぅっ……朧さっ……はぁっ」

 ちゅく、と舌が離れる音がして、唾液が糸を引くと私は真っ赤になる。朧さんはとっても悪い顔をして笑うと、私の唇を親指で撫でた。

『消毒完了やねぇ、つむぎちゃん』

 な、なにそれ。元カノのことだって、向こうはまだ未練あるとか不穏なこと聞いたし!
 色々聞きたいことあるのに、今のキスでちょっと……、なんか色々と満足した。うう、悔しい。

「い、今のはずるいです」
『なぁなぁ、つむぎちゃん。仲直りに魅久楽の温泉に行けへん? 混浴やで、俺と一緒に入れるし。明日にでもどう? 今日は、つむぎちゃんにはよ会いとうて、仕事を急いで終わらせてきてん』
「こ、混浴ぅ? 他の人もいたらちょっと」
『大丈夫やて。魅久楽はあたり前に混浴あるで。誰もそんなん気にしてへんよ。ちゃんと隠せば見ぃへんわ。あんたは俺の女やし。なんなら貸し切りにしよか』

 朧さんは私の抗議も無視して、抱きしめてくると甘えるように笑う。ああ、もう、どうせ私には選択肢はないんでしょ!

「選択肢に『だめ』はないでしょ? でも、温泉は少し興味ある……かな」
『よう分かっとるな。ほな、決まりやね。つむぎちゃんの浴衣姿も、可愛いやろなぁ』

 物凄く上機嫌な朧さんは、なんだかいやらしい目をしていた。
 
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