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羅城門の従者③
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先日の傷は、思ったよりも酷くなかったが擦り傷を見られるのを気にして、店に立つ時はくるみはデニムのレギンスにした。
いつの間にか真夏の茹だるような暑さは日に日に収まって、秋の気配を感じられるようになってきている。今日もお客さんは盛況で、器用な槐が老若男女問わず、気持ちの良い接客をしていた。
漣といえばそこにいるだけで、愛される看板猫なので、気ままにお客さんにスリスリしては膝の上に乗って愛でられている。いたって平和なcafe『妖』の日常だ。
玄関の鈴が鳴って、くるみが顔を上げると、そこには叔父が立っていた。少し逢わないだけで随分と久し振りに感じられるのはここ数日があまりに、濃い出来事が続いたからだろうか。
「こんにちは、くるみちゃん。数日任せてただけなのに繁盛してるようだね、すごいな。経営に向いているんじゃない」
「あ、叔父さん。今日は病院は午前中に行ってきたの? ううん、私って言うか……、槐と漣ちゃんのお陰だから」
叔父は、空いたカウンターに座った。今日は珍しくカジュアルなマスター姿ではなく小綺麗な格好をしている。叔母さんの入院先に着替えを届けて、外出の用意をしたようだ。槐は、従兄弟らしくにっこりと微笑んで、叔父の目の前に水を差し出した。
「叔父さん、今日はなんだかお洒落だな。どこか行く予定があるの? お店出てくれるかと思ったんだけど」
「あー、ごめんね、槐くん。実はこの店の取材がしたいってライターさんから連絡が来てさぁ。実はその方とこれから打ち合わせなんだよ」
「えっっ! 取材なんて初めてじゃない? ついにcafe『妖』も雑誌に乗ったりしちゃうのっ」
くるみは頬を染めて思わず食い気味にカウンターから身を乗り出して頬を染めた。自分の店ではないが、やはり働いている場所が雑誌で紹介されるのは嬉しいし、両親にも何かしら伝えられる事があるのでは無いかと思った。
騒ぎを聞きつけた茶トラの猫こと、猫又の漣が、ニャア?と鳴いて叔父の側で座ると不思議そうに見上げていた。
「いやぁ、僕もそんな事を考えた事なかったから驚いたよ。完全な道楽みたいだものだから……それもこれも、この子とくるみちゃんのお陰だな。やぁ、始めまして、君が漣ちゃんだね」
ひょい、と漣を抱き上げると叔父さんは膝の上に乗せて喉を撫でてやった。元々叔父さんは猫を飼っていた事もあり、猫好きだった事が幸いして漣をお店に出すことを許された。何度か写メを送って、早くこの子に会いたいと鼻の下を伸ばしていたので、幸せそうな表情で後頭部の匂いを嗅いだり撫でたりしている。
スキンシップの激しさにイカ耳になりながら目を不機嫌そうに歪ませる漣に、槐は笑いを必死にこらえていた。
「私も……? 槐ならわかるけど、どうして」
「くるみちゃん、前に創作絵本で入選したでしょ? やっぱりその辺りはライターさんと地続きなのかもね。それで、突然で悪いんだけどライターさんが、くるみちゃんも一緒に打ち合わせしたいって言うんだよ」
くるみは、驚いたように目を見開いた。創作絵本で入選した事をライターが知っていた事に驚いた。もしかして何かしら絵本の仕事を頂けるかも知れないと目を輝かせた。
しかし、まだお客さんも沢山いるし自分が抜けては槐に迷惑がかかってしまう。不意に優しく頭を撫でられた。顔を上げると槐が後目に微笑んでいた。
心臓が一瞬飛び跳ね、赤面すると頷く。その視線はここは俺に任せて行ってこい、という合図だった。
「あ、そうだ……忘れてた。忙しいだろうし、やっぱりこれからは、二人と僕だけで店を回すのは大変だろうから、新しいアルバイトを雇ったんだ。僕の、親友の息子さんなんだけどね……」
そう言うと、再びカラカラとカフェの扉が開く音がして入ってきた青年に時間が止まったように周りが見つめた。黒い服を来た目を引くような銀髪の青年が入ってきたからだ。
秋物の黒のジャケットを羽織ったお洒落な青年は、垢抜けていて神秘的だった。耳には勾玉のようなピアスを付けている。バンドや音楽関係の人なのだろうか、それにしては随分と落ち着いた感じで浮世離れした美しさがある。口元のホクロが艶っぽい。
「――――は?」
「?」
隣の槐がおかしな声をあげたので、くるみは現実に戻って首を傾げた。何とも言えない複雑な表情と共に肩を竦めて溜息を付いている。槐は、彼を知っているのだろうか。
漣と言えば人見知りのしない子なのに毛を逆立てて睨みつけている。
「あ、こっちだよ雅くん。くるみちゃん、槐くん。こちらは茨木雅くん。僕の高校時代の友人の息子さんなんだ。ちょっと今、求職中だから手伝って貰おうとね。ちなみにくるみちゃんと同い年だよ」
「秋本さん、紹介ありがとうございます。都内でスタジオのスタッフしてたんですが……色々とありまして。くるみさん……色々と噂は聞いています。よろしくお願いします」
雅は、ふわりと柔和な笑みを浮かべた。優しげな笑顔は女性なら胸を掴まれてしまうのではないかと思った。頬を染め差し出された手を取って握手した。
「神代くるみと言います。よろしくね。同年代だし何でも遠慮せずに聞いてね。じゃあ、私は着替えてくるから、槐、茨木くんをよろしくね」
「――――嗚呼。話したい事もあるしな」
くるみが自室へと戻り、叔父が漣を槐に手渡して店の外に出ると優雅に雅はカウンター席に座った。他の人間に聞かれないように、漣を抱いたまま槐は顔を近付ける。
フーーッと威嚇しながら、漣は雅に毛を逆立てていた。
「お前、くるみの叔父の記憶を変えたのか? そんなにここで働きたいなら、俺に頼めばよかろう」
「それでは、あの娘は私を警戒するでしょう。猫をかぶって貰っては化けの皮を剥がせませぬ。――――こんな、小汚い猫又まで飼って、油断のならない女です。人間として共に働いてその本性を、きちんと朱点童子様にご確認頂かないと」
雅は一切表情を変えず、出された珈琲をすました表情で飲んでいた。小姑のような頑固な家来に溜息を付いた。茨木は一番の家来で小鬼の頃から知っている。弟や息子のようにも思っていた槐は、呆れたように苦笑した。
「――――全く、誰に似てこんな頑固になったのか」
ともかく、ここに茨木がいるならば、くるみな安全だろうと彼女を見送った。
✤✤✤
冷房のよく聞いた駅近くのカフェの中、くるみはガウンを羽織り直しながら叔父と二人でライターを待っていた。久しぶりのワンピース姿で、槐と漣はたいそう気に入った様子だったが、二人をお店に残しておくのは、何だか心苦しく思えた。
日が経つにつれて、槐も漣も大切な存在になっていくような気がする。特に槐に関しては、轢かれそうになったあの瞬間、強く自分自身の気持ちを意識してしまった。
――――初恋の相手は槐で、大人になってこうして出逢って、改めて好きになってしまった。槐は、いつも自分をからかって嫁にするなどと言うが本気なのだろうか。
本気で自分を恋人や伴侶に、と考えているのだろうか。『空蝉の姫』は操りの術が効かないというだけで『運命の女』とするのは何だか寂しい。もっと確信できるような槐の『好き』が欲しいと思ってしまう。それは我儘な事かも知れないが、その気持ちが好きの証であるように思えてくるみは一人頬を染めると、アイスコーヒーを飲んだ。
「くるみちゃん、あの人じゃないかな」
「えっ……」
黒のスーツ姿の男性が店員に案内するようにやってきた。長身で180センチ位あるだろうか。涼し気な目元と眼鏡が印象的な男性で、少し冷たい感じのする男性だった。
年齢は三十路手前だろうか、キャリアのある女性にもてそうな、知的で美形のビジネスマンだった。てっきりカフェに詳しそうな女性ライターが来るのかと思っていたが、予想は完全に外れた。とても記事を書くような仕事をしているように思えない。
「前の方の取材が長引いてしまい、お待たせして申し訳ありませんでした。秋本さんに神代さんですね……? 私はこういうものです」
「いえいえ、源さん、東京からわざわざどうも、ありがとうございます。僕は秋本佑樹と申します。こちらは姪の神代くるみです」
「初めまして、神代くるみです。源……樹さん、ですね」
名刺を受け取ると、聞いたことのある出版社名のライターになっていた。そう言えばこの会社は、源財閥の関連会社だったような気がする。
(――――源……って?)
まじまじと名刺に見入っていると、それを察したのか、樹が微笑んだ。叔父は不思議そうにするくるみに助け船を出すように言う。
「樹さんは、源財閥のご子息でね。本社の方で働きながら、副業でWebライターもされてるんだよ。地方のカフェとか日本の伝統芸能とかを記事にされてるんだ。町おこしや村おこしの為にね」
「そ、そうなのですか。確か不動産とかリゾート開発の方にも力を入れてますよね」
二人は、促されて座ると樹を見つめた。彼ははウェイターにブラックコーヒーを頼むと、和やかに微笑んで、テーブルにおいた両手の指先を組んだ。よく見れば高そうなブランドスーツを着ている。高級ホテルのラウンジが似合いそうな樹は、田舎の駅前カフェでは異質で浮いた存在に思えた。
「ええ。でも、私はこちらの副業の方が気にっていまして。現地に向かい、お話をして取材するのが好きなのです。そう言えば、神代さんの絵本読ませて頂きました。大変心が暖まりましたよ」
「あ、ありがとうございます……!」
くるみは目を輝かせた。出版社のライターが副業とはいえ、源財閥のご子息に気にいって貰えたのは何かのご縁なのかもしれない。和やかに微笑みながら、話を続けた。
「ところで、この辺りで変わった事はありませんか?」
「おかしな……おかしな、こと……そういえば……、しらない……猫と……おに……おにが」
樹の眼鏡の奥が光ったかと思うと、叔父がまるで催眠術に掛かったかのように呂律の回らない口調で話し始めた。くるみは驚いて様子のおかしい叔父を見ると、慌てたように樹を見た。
「何も無いです!」
突然、鬼の事を話し始めようとした叔父を遮るように反射的にくるみは答えた。するとその声に正気を取り戻したように叔父は、体を震わせた。驚いたのは、叔父だけで無く源樹も同じだった。
眼鏡の奥で目を見開き、くるみをじっと見つめた。
いつの間にか真夏の茹だるような暑さは日に日に収まって、秋の気配を感じられるようになってきている。今日もお客さんは盛況で、器用な槐が老若男女問わず、気持ちの良い接客をしていた。
漣といえばそこにいるだけで、愛される看板猫なので、気ままにお客さんにスリスリしては膝の上に乗って愛でられている。いたって平和なcafe『妖』の日常だ。
玄関の鈴が鳴って、くるみが顔を上げると、そこには叔父が立っていた。少し逢わないだけで随分と久し振りに感じられるのはここ数日があまりに、濃い出来事が続いたからだろうか。
「こんにちは、くるみちゃん。数日任せてただけなのに繁盛してるようだね、すごいな。経営に向いているんじゃない」
「あ、叔父さん。今日は病院は午前中に行ってきたの? ううん、私って言うか……、槐と漣ちゃんのお陰だから」
叔父は、空いたカウンターに座った。今日は珍しくカジュアルなマスター姿ではなく小綺麗な格好をしている。叔母さんの入院先に着替えを届けて、外出の用意をしたようだ。槐は、従兄弟らしくにっこりと微笑んで、叔父の目の前に水を差し出した。
「叔父さん、今日はなんだかお洒落だな。どこか行く予定があるの? お店出てくれるかと思ったんだけど」
「あー、ごめんね、槐くん。実はこの店の取材がしたいってライターさんから連絡が来てさぁ。実はその方とこれから打ち合わせなんだよ」
「えっっ! 取材なんて初めてじゃない? ついにcafe『妖』も雑誌に乗ったりしちゃうのっ」
くるみは頬を染めて思わず食い気味にカウンターから身を乗り出して頬を染めた。自分の店ではないが、やはり働いている場所が雑誌で紹介されるのは嬉しいし、両親にも何かしら伝えられる事があるのでは無いかと思った。
騒ぎを聞きつけた茶トラの猫こと、猫又の漣が、ニャア?と鳴いて叔父の側で座ると不思議そうに見上げていた。
「いやぁ、僕もそんな事を考えた事なかったから驚いたよ。完全な道楽みたいだものだから……それもこれも、この子とくるみちゃんのお陰だな。やぁ、始めまして、君が漣ちゃんだね」
ひょい、と漣を抱き上げると叔父さんは膝の上に乗せて喉を撫でてやった。元々叔父さんは猫を飼っていた事もあり、猫好きだった事が幸いして漣をお店に出すことを許された。何度か写メを送って、早くこの子に会いたいと鼻の下を伸ばしていたので、幸せそうな表情で後頭部の匂いを嗅いだり撫でたりしている。
スキンシップの激しさにイカ耳になりながら目を不機嫌そうに歪ませる漣に、槐は笑いを必死にこらえていた。
「私も……? 槐ならわかるけど、どうして」
「くるみちゃん、前に創作絵本で入選したでしょ? やっぱりその辺りはライターさんと地続きなのかもね。それで、突然で悪いんだけどライターさんが、くるみちゃんも一緒に打ち合わせしたいって言うんだよ」
くるみは、驚いたように目を見開いた。創作絵本で入選した事をライターが知っていた事に驚いた。もしかして何かしら絵本の仕事を頂けるかも知れないと目を輝かせた。
しかし、まだお客さんも沢山いるし自分が抜けては槐に迷惑がかかってしまう。不意に優しく頭を撫でられた。顔を上げると槐が後目に微笑んでいた。
心臓が一瞬飛び跳ね、赤面すると頷く。その視線はここは俺に任せて行ってこい、という合図だった。
「あ、そうだ……忘れてた。忙しいだろうし、やっぱりこれからは、二人と僕だけで店を回すのは大変だろうから、新しいアルバイトを雇ったんだ。僕の、親友の息子さんなんだけどね……」
そう言うと、再びカラカラとカフェの扉が開く音がして入ってきた青年に時間が止まったように周りが見つめた。黒い服を来た目を引くような銀髪の青年が入ってきたからだ。
秋物の黒のジャケットを羽織ったお洒落な青年は、垢抜けていて神秘的だった。耳には勾玉のようなピアスを付けている。バンドや音楽関係の人なのだろうか、それにしては随分と落ち着いた感じで浮世離れした美しさがある。口元のホクロが艶っぽい。
「――――は?」
「?」
隣の槐がおかしな声をあげたので、くるみは現実に戻って首を傾げた。何とも言えない複雑な表情と共に肩を竦めて溜息を付いている。槐は、彼を知っているのだろうか。
漣と言えば人見知りのしない子なのに毛を逆立てて睨みつけている。
「あ、こっちだよ雅くん。くるみちゃん、槐くん。こちらは茨木雅くん。僕の高校時代の友人の息子さんなんだ。ちょっと今、求職中だから手伝って貰おうとね。ちなみにくるみちゃんと同い年だよ」
「秋本さん、紹介ありがとうございます。都内でスタジオのスタッフしてたんですが……色々とありまして。くるみさん……色々と噂は聞いています。よろしくお願いします」
雅は、ふわりと柔和な笑みを浮かべた。優しげな笑顔は女性なら胸を掴まれてしまうのではないかと思った。頬を染め差し出された手を取って握手した。
「神代くるみと言います。よろしくね。同年代だし何でも遠慮せずに聞いてね。じゃあ、私は着替えてくるから、槐、茨木くんをよろしくね」
「――――嗚呼。話したい事もあるしな」
くるみが自室へと戻り、叔父が漣を槐に手渡して店の外に出ると優雅に雅はカウンター席に座った。他の人間に聞かれないように、漣を抱いたまま槐は顔を近付ける。
フーーッと威嚇しながら、漣は雅に毛を逆立てていた。
「お前、くるみの叔父の記憶を変えたのか? そんなにここで働きたいなら、俺に頼めばよかろう」
「それでは、あの娘は私を警戒するでしょう。猫をかぶって貰っては化けの皮を剥がせませぬ。――――こんな、小汚い猫又まで飼って、油断のならない女です。人間として共に働いてその本性を、きちんと朱点童子様にご確認頂かないと」
雅は一切表情を変えず、出された珈琲をすました表情で飲んでいた。小姑のような頑固な家来に溜息を付いた。茨木は一番の家来で小鬼の頃から知っている。弟や息子のようにも思っていた槐は、呆れたように苦笑した。
「――――全く、誰に似てこんな頑固になったのか」
ともかく、ここに茨木がいるならば、くるみな安全だろうと彼女を見送った。
✤✤✤
冷房のよく聞いた駅近くのカフェの中、くるみはガウンを羽織り直しながら叔父と二人でライターを待っていた。久しぶりのワンピース姿で、槐と漣はたいそう気に入った様子だったが、二人をお店に残しておくのは、何だか心苦しく思えた。
日が経つにつれて、槐も漣も大切な存在になっていくような気がする。特に槐に関しては、轢かれそうになったあの瞬間、強く自分自身の気持ちを意識してしまった。
――――初恋の相手は槐で、大人になってこうして出逢って、改めて好きになってしまった。槐は、いつも自分をからかって嫁にするなどと言うが本気なのだろうか。
本気で自分を恋人や伴侶に、と考えているのだろうか。『空蝉の姫』は操りの術が効かないというだけで『運命の女』とするのは何だか寂しい。もっと確信できるような槐の『好き』が欲しいと思ってしまう。それは我儘な事かも知れないが、その気持ちが好きの証であるように思えてくるみは一人頬を染めると、アイスコーヒーを飲んだ。
「くるみちゃん、あの人じゃないかな」
「えっ……」
黒のスーツ姿の男性が店員に案内するようにやってきた。長身で180センチ位あるだろうか。涼し気な目元と眼鏡が印象的な男性で、少し冷たい感じのする男性だった。
年齢は三十路手前だろうか、キャリアのある女性にもてそうな、知的で美形のビジネスマンだった。てっきりカフェに詳しそうな女性ライターが来るのかと思っていたが、予想は完全に外れた。とても記事を書くような仕事をしているように思えない。
「前の方の取材が長引いてしまい、お待たせして申し訳ありませんでした。秋本さんに神代さんですね……? 私はこういうものです」
「いえいえ、源さん、東京からわざわざどうも、ありがとうございます。僕は秋本佑樹と申します。こちらは姪の神代くるみです」
「初めまして、神代くるみです。源……樹さん、ですね」
名刺を受け取ると、聞いたことのある出版社名のライターになっていた。そう言えばこの会社は、源財閥の関連会社だったような気がする。
(――――源……って?)
まじまじと名刺に見入っていると、それを察したのか、樹が微笑んだ。叔父は不思議そうにするくるみに助け船を出すように言う。
「樹さんは、源財閥のご子息でね。本社の方で働きながら、副業でWebライターもされてるんだよ。地方のカフェとか日本の伝統芸能とかを記事にされてるんだ。町おこしや村おこしの為にね」
「そ、そうなのですか。確か不動産とかリゾート開発の方にも力を入れてますよね」
二人は、促されて座ると樹を見つめた。彼ははウェイターにブラックコーヒーを頼むと、和やかに微笑んで、テーブルにおいた両手の指先を組んだ。よく見れば高そうなブランドスーツを着ている。高級ホテルのラウンジが似合いそうな樹は、田舎の駅前カフェでは異質で浮いた存在に思えた。
「ええ。でも、私はこちらの副業の方が気にっていまして。現地に向かい、お話をして取材するのが好きなのです。そう言えば、神代さんの絵本読ませて頂きました。大変心が暖まりましたよ」
「あ、ありがとうございます……!」
くるみは目を輝かせた。出版社のライターが副業とはいえ、源財閥のご子息に気にいって貰えたのは何かのご縁なのかもしれない。和やかに微笑みながら、話を続けた。
「ところで、この辺りで変わった事はありませんか?」
「おかしな……おかしな、こと……そういえば……、しらない……猫と……おに……おにが」
樹の眼鏡の奥が光ったかと思うと、叔父がまるで催眠術に掛かったかのように呂律の回らない口調で話し始めた。くるみは驚いて様子のおかしい叔父を見ると、慌てたように樹を見た。
「何も無いです!」
突然、鬼の事を話し始めようとした叔父を遮るように反射的にくるみは答えた。するとその声に正気を取り戻したように叔父は、体を震わせた。驚いたのは、叔父だけで無く源樹も同じだった。
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