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二話 突然の連絡
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今朝はとんでもなく嫌な夢を見たが、仕事に追われ、嬉しい出来事が起これば、そんな事もあっという間に忘れてしまう。
『健くん、久しぶりにお茶しない?』と天野梨子から連絡が入った時は、僕は洗面台の前で歯磨きをしながら、ガッツポーズを作った。
梨子も僕と同じく、住み慣れた辰子島を後にして、北関東方面に越してきた。理由はこちらの大学に通う事になったのと、永山達也がいるからだろう。
達也は、僕の数少ない地元の友人でもあり、同時に恋敵でもある。と言っても僕の場合は一方的な片思いで、梨子にきちんと告白する事もできなかった。
僕が告白をまごついている間に、高校三年の最後の夏がきた。達也は梨子と付き合い、僕は完全に彼女に振られてしまったのだ。
もう、二年も前の出来事なのに、梨子から彼氏ができたと聞いた時の事を思い出すと、今でも結構こたえる。
僕も都会に出て来たんだ。
これから先、新しい出会いだってあるかもしれないし、いい加減梨子の事は、吹っ切ろうと思っていた矢先に、彼女からメッセージがきて、男として色々と期待してしまったのだ。
『梨子、久しぶりだね。いいよ、何時がいいかな?』
彼女との連絡も久しぶりで、メッセージを送る指先が汗ばむ。
僕は下心があるような、気持ちの悪い受け答えになっていないか何度も読み返して、細心の注意を払った。
『できたら、今直ぐにでも、健くんに会いたいな』
『今? 別にいいけど、梨子はどこに住んでるんだよ。今から会うとなると、帰りは終電近くなるぞ』
『それでもお願い。どうしても健くんと話したい』
積極的なメッセージに、僕は有頂天になりそうだった。それと同時に、何かよほど切羽詰まっていて、緊急に相談したい事があるんじゃないだろうかとも思えた。
考えたくないが、達也からDVされているとか。いや、さすがにあいつはそんな事をするような奴じゃないな。
『私、S市の○○駅の近くに住んでるんだよ』
『え、僕の最寄り駅から三駅先に住んでるんだ? それなら、車で送迎出来るよ』
『ありがとう。健くん、○○区の夜カフェ分かる? そこで私待ってるから。健くん、本当に無理言ってごめんね』
メッセージで短い会話を交わすと、僕はジャケットを羽織って、車に乗り込んだ。
まさか梨子が、僕が使う沿線に住んでいたなんて、本当に驚いた。
都会は広いし、社会人と大学生じゃ生活するリズムが違うから、偶然には会わないよな。最近、彼女と疎遠になっていたから全然知らなかった。
それにしても、こんな夜遅くにわざわざ僕に会いたい、だなんて積極的に自分から誘ってくるような子じゃなかったし、真剣に相談したい事があるのかもしれない。
達也と梨子が別れたなんて言う話は、級友からも聞いていないので、一体なんだろう。僕にしか言えないような悩みでもあるのかもしれないが、久しぶりに会える事に、浮足立ってしまう。
僕は準備を済ますと、指定された場所へと向かった。この店は、流行りの『夜カフェ』で、夕方から早朝まで営業している。Z世代に人気で、最近地方でも、この手のカフェができ始めているらしい。
こんな時間でも離島とは違い、カップルや、学生達で賑わっている。
梨子は、奥の部屋から僕に手を振っていた。
「ごめん、梨子。待たせたかな? あ、僕は珈琲でお願いします」
僕はテーブルに来たウェイターに注文し、自分でも分かるくらい陽気な声で、梨子に話し掛けた。
高校の頃は陸上部で、日に焼けたショートカットの、中性的な女の子だった梨子も、二年の間に随分と大人びたな。ショートボブが似合う、色白の綺麗な子になっていた。
彼女は目鼻立ちが整っていて、クラスの中でも美少女だと思っていたが、都会の大学に通ってからさらに垢抜けたというか、読者モデルでもやっていそうなくらい、お洒落な女子大生に変身していた。
ただ、少し気になったのは、彼女の表情は暗くて、やつれているように見えた。
「健くん、ごめんね。急に呼び出しちゃって。どうしても今日中に、話したかったんだ」
「いや、別に気にしなくていいよ。その代わり珈琲、僕に一杯奢ってくれる?」
ふざけたように言うと、梨子は微かに笑った。普段の彼女なら、明るく笑って僕に冗談を返すのだが、今日は言葉に反応するのもやっと、と言うように憔悴しきっている。
これはさすがに本格的に参っているようなので、世間話もそこそこにして僕は本題を切り出した。
「あのさ、梨子。僕に話したい事があるんじゃない? ここに来た時から思っていたんだけど、さっきから様子が変だよ」
「うん……。やっぱり健くんには、そう言うの分かっちゃうんだね」
カラン、とレモンティーの中に入っていた氷が溶ける音が響くと、梨子は消え入りそうな声で、ポツリと呟く。
梨子の言葉に、僕は嫌な予感がした。
だいたい、こう言う流れで切り出されると、その後に続く話の展開が、容易に想像できてしまうからだ。
「楓おばあちゃんは拝み屋じゃない? 健くんも、霊感強いの?」
「まぁ……、人よりは少しだけあるかな。何かあったの?」
僕はその質問に言葉を濁した。
達也と別れて、真っ先に顔が浮かんだのは僕だった……、なんて淡い期待をしたが、それは全くの勘違いだった。
僕は友達や、会社の同僚に霊感があるとか、お化けが視えるなんて事を口走った事はない。ばぁちゃんが拝み屋をしていても、自分はできるだけ、そっちの世界に関わらないようにしていたからだ。
当然そんな事を口にすれば、普通の人は、馬鹿にするか、反応に困る。霊の存在を信じない人からすると、オカルトやスピリチュアルに傾倒する『やばい奴』だと眉を顰めるだろう。
「実は、先週の連休にね。達也と友達で心霊スポットに行ったんだよ。それでちょっと色々あったんだ」
「あぁ、なるほど……幽霊を見たとか? 心霊写真が撮れちゃったとかかな」
心霊スポットに行って、霊を見たんだけど、取り憑かれたかもしれないから、霊視して欲しいだとか、心霊写真らしきものが撮れてから、不幸になったのでお祓いをして欲しいとか、良くある相談の一つだ。
そのほとんどが気のせいや勘違いで、他に科学的な要因がある。例えそこにいたのが、本当の霊だとしても、よほど強い念を持っていない限り、向こうは意識なんてしていない。
心霊写真なんて、ほぼ周囲の環境かカメラに原因があるものばかりだし。
壁に3つ穴が揃えば、人の顔に見えたりするような、シミュラクラ現象と言う、心理的なものだってある。ばぁちゃんを頼ってくる人の中には、こういう依頼者も多かった。
僕はとりあえず、彼女を否定せず話に耳を傾ける事にした。
「ねぇ、健くんは、神隠しの家って知ってる? 他の呼び名だと、成竹さんの家とか、言うらしいけど」
「いや、僕は心霊スポットとか全然興味がないから知らない。そこって有名な場所なの?」
申し訳ないけど僕には、とりあえず免許を取ったら、心霊スポットへ肝試しに行く人達の気持ちがさっぱり分からないし、暇だから心霊スポットに行こう、なんて感覚が理解できない。
今でこそ僕は、霊を見ないように自分の中で遮断できるようになったが、その方法をばぁちゃんに教えて貰うまで、現実に存在している人間のように、頻繁に霊を視ていた。
なので、興味もなければ有名な心霊スポットなんてできれば知りたくもないので、全くピンと来なかった。
「私も連れて行かれただけだから、詳しくないんだよ。達也と裕二が言うには、有名な場所らしいの」
『健くん、久しぶりにお茶しない?』と天野梨子から連絡が入った時は、僕は洗面台の前で歯磨きをしながら、ガッツポーズを作った。
梨子も僕と同じく、住み慣れた辰子島を後にして、北関東方面に越してきた。理由はこちらの大学に通う事になったのと、永山達也がいるからだろう。
達也は、僕の数少ない地元の友人でもあり、同時に恋敵でもある。と言っても僕の場合は一方的な片思いで、梨子にきちんと告白する事もできなかった。
僕が告白をまごついている間に、高校三年の最後の夏がきた。達也は梨子と付き合い、僕は完全に彼女に振られてしまったのだ。
もう、二年も前の出来事なのに、梨子から彼氏ができたと聞いた時の事を思い出すと、今でも結構こたえる。
僕も都会に出て来たんだ。
これから先、新しい出会いだってあるかもしれないし、いい加減梨子の事は、吹っ切ろうと思っていた矢先に、彼女からメッセージがきて、男として色々と期待してしまったのだ。
『梨子、久しぶりだね。いいよ、何時がいいかな?』
彼女との連絡も久しぶりで、メッセージを送る指先が汗ばむ。
僕は下心があるような、気持ちの悪い受け答えになっていないか何度も読み返して、細心の注意を払った。
『できたら、今直ぐにでも、健くんに会いたいな』
『今? 別にいいけど、梨子はどこに住んでるんだよ。今から会うとなると、帰りは終電近くなるぞ』
『それでもお願い。どうしても健くんと話したい』
積極的なメッセージに、僕は有頂天になりそうだった。それと同時に、何かよほど切羽詰まっていて、緊急に相談したい事があるんじゃないだろうかとも思えた。
考えたくないが、達也からDVされているとか。いや、さすがにあいつはそんな事をするような奴じゃないな。
『私、S市の○○駅の近くに住んでるんだよ』
『え、僕の最寄り駅から三駅先に住んでるんだ? それなら、車で送迎出来るよ』
『ありがとう。健くん、○○区の夜カフェ分かる? そこで私待ってるから。健くん、本当に無理言ってごめんね』
メッセージで短い会話を交わすと、僕はジャケットを羽織って、車に乗り込んだ。
まさか梨子が、僕が使う沿線に住んでいたなんて、本当に驚いた。
都会は広いし、社会人と大学生じゃ生活するリズムが違うから、偶然には会わないよな。最近、彼女と疎遠になっていたから全然知らなかった。
それにしても、こんな夜遅くにわざわざ僕に会いたい、だなんて積極的に自分から誘ってくるような子じゃなかったし、真剣に相談したい事があるのかもしれない。
達也と梨子が別れたなんて言う話は、級友からも聞いていないので、一体なんだろう。僕にしか言えないような悩みでもあるのかもしれないが、久しぶりに会える事に、浮足立ってしまう。
僕は準備を済ますと、指定された場所へと向かった。この店は、流行りの『夜カフェ』で、夕方から早朝まで営業している。Z世代に人気で、最近地方でも、この手のカフェができ始めているらしい。
こんな時間でも離島とは違い、カップルや、学生達で賑わっている。
梨子は、奥の部屋から僕に手を振っていた。
「ごめん、梨子。待たせたかな? あ、僕は珈琲でお願いします」
僕はテーブルに来たウェイターに注文し、自分でも分かるくらい陽気な声で、梨子に話し掛けた。
高校の頃は陸上部で、日に焼けたショートカットの、中性的な女の子だった梨子も、二年の間に随分と大人びたな。ショートボブが似合う、色白の綺麗な子になっていた。
彼女は目鼻立ちが整っていて、クラスの中でも美少女だと思っていたが、都会の大学に通ってからさらに垢抜けたというか、読者モデルでもやっていそうなくらい、お洒落な女子大生に変身していた。
ただ、少し気になったのは、彼女の表情は暗くて、やつれているように見えた。
「健くん、ごめんね。急に呼び出しちゃって。どうしても今日中に、話したかったんだ」
「いや、別に気にしなくていいよ。その代わり珈琲、僕に一杯奢ってくれる?」
ふざけたように言うと、梨子は微かに笑った。普段の彼女なら、明るく笑って僕に冗談を返すのだが、今日は言葉に反応するのもやっと、と言うように憔悴しきっている。
これはさすがに本格的に参っているようなので、世間話もそこそこにして僕は本題を切り出した。
「あのさ、梨子。僕に話したい事があるんじゃない? ここに来た時から思っていたんだけど、さっきから様子が変だよ」
「うん……。やっぱり健くんには、そう言うの分かっちゃうんだね」
カラン、とレモンティーの中に入っていた氷が溶ける音が響くと、梨子は消え入りそうな声で、ポツリと呟く。
梨子の言葉に、僕は嫌な予感がした。
だいたい、こう言う流れで切り出されると、その後に続く話の展開が、容易に想像できてしまうからだ。
「楓おばあちゃんは拝み屋じゃない? 健くんも、霊感強いの?」
「まぁ……、人よりは少しだけあるかな。何かあったの?」
僕はその質問に言葉を濁した。
達也と別れて、真っ先に顔が浮かんだのは僕だった……、なんて淡い期待をしたが、それは全くの勘違いだった。
僕は友達や、会社の同僚に霊感があるとか、お化けが視えるなんて事を口走った事はない。ばぁちゃんが拝み屋をしていても、自分はできるだけ、そっちの世界に関わらないようにしていたからだ。
当然そんな事を口にすれば、普通の人は、馬鹿にするか、反応に困る。霊の存在を信じない人からすると、オカルトやスピリチュアルに傾倒する『やばい奴』だと眉を顰めるだろう。
「実は、先週の連休にね。達也と友達で心霊スポットに行ったんだよ。それでちょっと色々あったんだ」
「あぁ、なるほど……幽霊を見たとか? 心霊写真が撮れちゃったとかかな」
心霊スポットに行って、霊を見たんだけど、取り憑かれたかもしれないから、霊視して欲しいだとか、心霊写真らしきものが撮れてから、不幸になったのでお祓いをして欲しいとか、良くある相談の一つだ。
そのほとんどが気のせいや勘違いで、他に科学的な要因がある。例えそこにいたのが、本当の霊だとしても、よほど強い念を持っていない限り、向こうは意識なんてしていない。
心霊写真なんて、ほぼ周囲の環境かカメラに原因があるものばかりだし。
壁に3つ穴が揃えば、人の顔に見えたりするような、シミュラクラ現象と言う、心理的なものだってある。ばぁちゃんを頼ってくる人の中には、こういう依頼者も多かった。
僕はとりあえず、彼女を否定せず話に耳を傾ける事にした。
「ねぇ、健くんは、神隠しの家って知ってる? 他の呼び名だと、成竹さんの家とか、言うらしいけど」
「いや、僕は心霊スポットとか全然興味がないから知らない。そこって有名な場所なの?」
申し訳ないけど僕には、とりあえず免許を取ったら、心霊スポットへ肝試しに行く人達の気持ちがさっぱり分からないし、暇だから心霊スポットに行こう、なんて感覚が理解できない。
今でこそ僕は、霊を見ないように自分の中で遮断できるようになったが、その方法をばぁちゃんに教えて貰うまで、現実に存在している人間のように、頻繁に霊を視ていた。
なので、興味もなければ有名な心霊スポットなんてできれば知りたくもないので、全くピンと来なかった。
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