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1、滅びの王とお嬢様(※性描写有り)
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オフィーリア大陸は、一年のほとんどが雪に覆われています。
雪解けから春に変わり、豊穣の女神エルザが目を覚ますと、短い夏の間私たち人と、獣人に恵みを与えてくださるのです。
それは、かつて私たちがまだ、文明を築く前の遥か昔のこと。
この冷えた大陸を生きていくために必要な『火』を、獣人たちによってもたらされました。彼らは、魔法により獣の姿に変わることができる思慮深い先住民です。
神話によると、彼らは豊穣の女神エルザによって、私たちよりも先に創造され、人族と長らく友好関係を築いていました。
しかし、人が火を使って文明を発展させていくにつれ、やがて獣人たちの土地を奪い、彼らを北へ北へと追いやりました。
そして、二十年前……。
私の父であるアルフレッド・シュタウフェンベルクと、リーデンブルク辺境伯によって行われた『プロメテウス掃討作戦』の卑劣な奇襲によって、獣人のヘイミル王と王族が殺害され、歯向かう獣人たちを虐殺しました。
生き残った獣人たちは奴隷として捕らえられ、売られ、虐げられたのです。
「お嬢様……どうしました? 貴女の綺麗な体が誰かに見られては困ります」
暖炉の炎の中で薪が折れる乾いた音がしますと、背後によく知る気配を感じ、私の裸体を後ろから抱きしめてくれる大きな腕に安心感を覚えました。
あまりにも澄んだ月が美しくて、生まれた姿のまま窓辺に立っていたのです。
愛しい、傷だらけの腕を抱きしめるようにして彼の胸板に背中をもたれると、私は彼を見上げます。
「……すこし、昔のことを思い出していたわ、アルノー」
殺された滅びの王ヘイミル様の忘れ形見であるディートリヒは、アルノーと名前を変え、復讐を誓い、小間使いの奴隷としてアルフレッド・シュタウフェンベルク家……、つまり私の家に潜入したのです。
何も知らない私は、幼い頃からいつも共にいたアルノーを、自分の家族よりも信頼し、愛してしまったのです。
彼もまた、私を利用するつもりでいたはずなのに、憎しみよりも私への愛を取りました。
リーデンブルク家の圧政により、この領地の人々は不満を抱えていました。
アルノーは、密かに繋がりを持っていた獣人解放軍『獣の火』共に、反旗を翻し、死亡した辺境伯に変わり時期領主となったギルベルト様を打ち破ったのです。
そしてかつて、獣人の祖先たちが生活していたこの土地を、アルノーは取り戻したのです。
「ヴェードル国との外交を成功させるまでは、まだ不安が大きいかな? オリーヴィアお嬢様」
「ふふ、貴方ならきっと獣人と人族が共存できる新しい国を作れると信じているから、なんの心配もないの。私も人族と獣人のかけ橋になれるようにやるべきことをするわ」
金と緑色を混ぜたような美しい硝子玉のような瞳が優しく歪みました。アルノーが私をお嬢様と呼ぶのは、二人きりの時だけ。
そして、私がアルノーと呼ぶのも二人きりの時だけです。
私がアルノーの古傷だらけの胸板を愛しそうに撫でると、彼は軽々と裸の私を抱き上げ、ベッドの端に腰を下ろしました。
不思議な魔力が宿ったかのような綺麗な瞳以外は、人族と変わらない彼も、時には獣人王として気高き黒豹の姿に変わります。
その神秘的な美しさといったら、まるで夜の宝石のよう。
私はアルノーの膝の上に乗せられると、何度も唇を重ね合わせ、濡れた舌を絡ませました。
そして私たちは、お互いの熱がまだ引いていない事を、瞳で確認し合ったのです。
「オリーヴィア、この国の名前をルサリィにしようと思っているんだ」
「ルサリィ……? 素敵な響きね。聞いたことがない単語だわ、もしかして獣人の言葉かしら……? まだまだ私は勉強不足ね」
「知らなくても当然だ、これは古代の言葉だから。ルサリィ、そういう意味がある」
アルノーの瞳が暖炉の炎のように揺らめき、彼の伝えたい想いが、私の胸の奥まで直接届くような気がして頬が熱くなります。
私は、アルノーの形の良い濡れた唇を誘うように指先で撫でると、また子宮から湧き上がる欲情を感じました。
先ほどまで、さんざんベットで交わっていたというのに、私の花弁は貪欲なまでに濡れ、彼を受け入れる準備を整えていました。
貞淑なシュタウフェンベルク家の令嬢の姿はそこにはなく、ただ最愛の人との情交を貪る娼婦のよう。私は、雄々しくそそり勃ったアルノーの陰茎の上にゆっくりと腰を下ろしたのです。
「はぁっ……オリーヴィア」
「んんっ……、はぁっ……ディートリヒ」
まだ呼びなれない貴方の真実の名前。
汗で濡れた互いの額を合わせますと、私とアルノーは指を重ね、呼応するように淫らに下半身を動かしました。
お互いの粘膜が絡まり合う淫らな音と、薄暗い燭台のゆらめく炎の中で、冷えた体が熱くなっていく感覚に、私は淫らな嬌声を漏らしたのです。
「はぁっ……オリーヴィア、豊穣の女神が嫉妬するくらい、君は美しい。俺の愛するオリーヴィア」
「あっ、はぁっ……あんっ……あぁっ、……女神様に叱られてしまうわ……はぁっ、愛してる、ディートリヒ……はぁっ……私の全て……んっ」
どれほど言葉を紡いでも、言い表せないようなもどかしさを感じます。
アルノーに純潔を捧げ、幾度か閨を共にし、もう男性の性器が挿入される痛みは感じることはありません。
ただ、愛しい人の一部と繋がれる幸福さに身も心も蕩けてしまいそうでした。
やがて、私たちは言葉を交わす余裕も無くなり、おたがいを求め、粘膜を擦り合わせることに夢中になっていました。
私は長年、年上の執事だったアルノーの指先で、女性が感じる場所を丁寧に開発され、令嬢とは思えないほど淫らな体になりました。
私とアルノーだけが知る秘密の背徳。
禁断の遊び。
すべて、アルノーに教えられた幸せ。
そして、泉のように溢れる愛液が、私たちの動きを助け、快感の頂へと導いていくのです。
「んっ……はぁっ、あっ……あんっ、ああっ……いい、アルノーっ……はぁっ……私もうっ……んっ、あっ、ああっ、――――ッッ!」
私とアルノーは体を密着させ、そのまま同時に時が止まったように抱きしめ合いました。
アルノーの大きな手が、汗ばんだ私の背中から臀部を撫でると、また啄むような優しい口付けを交わします。
「必ず、俺と君の結婚を皆に認めさせる。女神エルザに誓って、君のこの指に指輪をはめよう」
私たちはかつて敵同士でした。
獣人王の一言で、獣人たちは私に従うでしょう。けれど、獣人王の伴侶として王妃として隣にいるためには、ふさわしい存在でなければなりません。
そして、共存していく人族にとってもふさわしい王と、王妃でなければならないのです。
彼らにとって私たちは、裏切り者でしかないのですから。
「雪解けが待ち遠しいわ、ディートリヒ」
私がそう答えると、再び二人でシーツの海にじゃれ合うように倒れ込みました。
✤✤✤
反乱のあと、かつてのリーデンブルク辺境伯の城に私たちは移り住みました。
そして、獣人族の解放軍と人族のエルザの守護騎士団が、新たな領主であるアルノーに仕える事になったのです。
この領地をかつての獣人の国として正式に認められるには、このスラティナ地方を支配する、ヴェードル国と交渉し独立しなければなりません。
この数ヶ月、幾度か境界線で小競り合いがあり、その度に自由になった獣人たちと騎士たちによって撃退されたようです。
金獅子と呼ばれた騎士団長のギルベルト様をアルノーに殺害され、反感を持つ騎士も多くいましたが、主人への忠誠や神への奉仕、博愛精神もすべての騎士が持ち合わせているわけではなく、この豊かとは言えない大陸で生きていくためには、新しい主人に仕えるよりほかなかったようです。
けれど、騎士団と解放軍との溝は埋められないままです。
「オリーヴィア様、また獣人の孤児院に行かれるのですか。以前より治安は良くなりましたが……褒められた行動ではありません」
スカーフを頭に巻いた私に、守護騎士団のゲオルクが声をかけてきました。
どこか冷たい、アイスブルーの瞳。
私よりも年上の方で、貴族のギルベルト様よりも戦場を渡り歩いてきた、本物の鋭さを感じられました。
私を、見下すような目で見るのはギルベルト様と政略結婚をしていたにも関わらず、夫を裏切り、反乱を起こした獣人のアルノーと恋人関係にあるからでしょう。
彼の内心は穏やかでは無いはずです。
私は、物心ついた時からずっとアルノーだけを信頼し愛してきました。
政略結婚を決められ、ギルベルト様に嫡男を生むための女だと罵られても、自分の心に嘘をつけず体を許せなかったのです。
自分が、彼の家族や獣人たちを虐殺した敵の娘だと知った時、この命をかけてお父様とともに罪を償うつもりでした。
まさか、アルノーが私を助けに来てくれるとは思わなかったけれど、私たちはたがいに深い愛で結ばれていると確信したのです。
けれど、そんな事情を彼は知らなくて当然です。
「ええ。孤児院に行ったら次は病院へ慰問に行きます。私には医療の心得は無いけれど、これから学んで、獣人と人の役に立ちたいと思っていますわ。また、護衛ですの?」
今の私には、貴族の恩恵はありません。
いいえ、それでいいのです。
たとえこの地を新たに統治するアルノーに恩赦を言い渡されても、私はギルベルト様のお父様を毒殺した悪女、そして処刑を免れた罪人でしかないのですから。
けれど豊穣の女神エルザによって生かされた私の命は、新しい国の民のために使われるべきだと、告げられたような気がしたのです。
廊下を歩く、冷たい靴の音と混じって、板金鎧のぶつかる音がし、ゲオルクが私の後ろを追ってくる気配がしました。
「ディートリヒ様のご命令です。子供であっても獣人は凶暴だ。人族を憎む者が貴女の命を狙うかもしれない」
「――――そうかしら? 毛布もお菓子も人族の子供と同じく喜んでくれるわ。人が恐れるから獣の姿になれないのが不満のようだけれど」
雪解けから春に変わり、豊穣の女神エルザが目を覚ますと、短い夏の間私たち人と、獣人に恵みを与えてくださるのです。
それは、かつて私たちがまだ、文明を築く前の遥か昔のこと。
この冷えた大陸を生きていくために必要な『火』を、獣人たちによってもたらされました。彼らは、魔法により獣の姿に変わることができる思慮深い先住民です。
神話によると、彼らは豊穣の女神エルザによって、私たちよりも先に創造され、人族と長らく友好関係を築いていました。
しかし、人が火を使って文明を発展させていくにつれ、やがて獣人たちの土地を奪い、彼らを北へ北へと追いやりました。
そして、二十年前……。
私の父であるアルフレッド・シュタウフェンベルクと、リーデンブルク辺境伯によって行われた『プロメテウス掃討作戦』の卑劣な奇襲によって、獣人のヘイミル王と王族が殺害され、歯向かう獣人たちを虐殺しました。
生き残った獣人たちは奴隷として捕らえられ、売られ、虐げられたのです。
「お嬢様……どうしました? 貴女の綺麗な体が誰かに見られては困ります」
暖炉の炎の中で薪が折れる乾いた音がしますと、背後によく知る気配を感じ、私の裸体を後ろから抱きしめてくれる大きな腕に安心感を覚えました。
あまりにも澄んだ月が美しくて、生まれた姿のまま窓辺に立っていたのです。
愛しい、傷だらけの腕を抱きしめるようにして彼の胸板に背中をもたれると、私は彼を見上げます。
「……すこし、昔のことを思い出していたわ、アルノー」
殺された滅びの王ヘイミル様の忘れ形見であるディートリヒは、アルノーと名前を変え、復讐を誓い、小間使いの奴隷としてアルフレッド・シュタウフェンベルク家……、つまり私の家に潜入したのです。
何も知らない私は、幼い頃からいつも共にいたアルノーを、自分の家族よりも信頼し、愛してしまったのです。
彼もまた、私を利用するつもりでいたはずなのに、憎しみよりも私への愛を取りました。
リーデンブルク家の圧政により、この領地の人々は不満を抱えていました。
アルノーは、密かに繋がりを持っていた獣人解放軍『獣の火』共に、反旗を翻し、死亡した辺境伯に変わり時期領主となったギルベルト様を打ち破ったのです。
そしてかつて、獣人の祖先たちが生活していたこの土地を、アルノーは取り戻したのです。
「ヴェードル国との外交を成功させるまでは、まだ不安が大きいかな? オリーヴィアお嬢様」
「ふふ、貴方ならきっと獣人と人族が共存できる新しい国を作れると信じているから、なんの心配もないの。私も人族と獣人のかけ橋になれるようにやるべきことをするわ」
金と緑色を混ぜたような美しい硝子玉のような瞳が優しく歪みました。アルノーが私をお嬢様と呼ぶのは、二人きりの時だけ。
そして、私がアルノーと呼ぶのも二人きりの時だけです。
私がアルノーの古傷だらけの胸板を愛しそうに撫でると、彼は軽々と裸の私を抱き上げ、ベッドの端に腰を下ろしました。
不思議な魔力が宿ったかのような綺麗な瞳以外は、人族と変わらない彼も、時には獣人王として気高き黒豹の姿に変わります。
その神秘的な美しさといったら、まるで夜の宝石のよう。
私はアルノーの膝の上に乗せられると、何度も唇を重ね合わせ、濡れた舌を絡ませました。
そして私たちは、お互いの熱がまだ引いていない事を、瞳で確認し合ったのです。
「オリーヴィア、この国の名前をルサリィにしようと思っているんだ」
「ルサリィ……? 素敵な響きね。聞いたことがない単語だわ、もしかして獣人の言葉かしら……? まだまだ私は勉強不足ね」
「知らなくても当然だ、これは古代の言葉だから。ルサリィ、そういう意味がある」
アルノーの瞳が暖炉の炎のように揺らめき、彼の伝えたい想いが、私の胸の奥まで直接届くような気がして頬が熱くなります。
私は、アルノーの形の良い濡れた唇を誘うように指先で撫でると、また子宮から湧き上がる欲情を感じました。
先ほどまで、さんざんベットで交わっていたというのに、私の花弁は貪欲なまでに濡れ、彼を受け入れる準備を整えていました。
貞淑なシュタウフェンベルク家の令嬢の姿はそこにはなく、ただ最愛の人との情交を貪る娼婦のよう。私は、雄々しくそそり勃ったアルノーの陰茎の上にゆっくりと腰を下ろしたのです。
「はぁっ……オリーヴィア」
「んんっ……、はぁっ……ディートリヒ」
まだ呼びなれない貴方の真実の名前。
汗で濡れた互いの額を合わせますと、私とアルノーは指を重ね、呼応するように淫らに下半身を動かしました。
お互いの粘膜が絡まり合う淫らな音と、薄暗い燭台のゆらめく炎の中で、冷えた体が熱くなっていく感覚に、私は淫らな嬌声を漏らしたのです。
「はぁっ……オリーヴィア、豊穣の女神が嫉妬するくらい、君は美しい。俺の愛するオリーヴィア」
「あっ、はぁっ……あんっ……あぁっ、……女神様に叱られてしまうわ……はぁっ、愛してる、ディートリヒ……はぁっ……私の全て……んっ」
どれほど言葉を紡いでも、言い表せないようなもどかしさを感じます。
アルノーに純潔を捧げ、幾度か閨を共にし、もう男性の性器が挿入される痛みは感じることはありません。
ただ、愛しい人の一部と繋がれる幸福さに身も心も蕩けてしまいそうでした。
やがて、私たちは言葉を交わす余裕も無くなり、おたがいを求め、粘膜を擦り合わせることに夢中になっていました。
私は長年、年上の執事だったアルノーの指先で、女性が感じる場所を丁寧に開発され、令嬢とは思えないほど淫らな体になりました。
私とアルノーだけが知る秘密の背徳。
禁断の遊び。
すべて、アルノーに教えられた幸せ。
そして、泉のように溢れる愛液が、私たちの動きを助け、快感の頂へと導いていくのです。
「んっ……はぁっ、あっ……あんっ、ああっ……いい、アルノーっ……はぁっ……私もうっ……んっ、あっ、ああっ、――――ッッ!」
私とアルノーは体を密着させ、そのまま同時に時が止まったように抱きしめ合いました。
アルノーの大きな手が、汗ばんだ私の背中から臀部を撫でると、また啄むような優しい口付けを交わします。
「必ず、俺と君の結婚を皆に認めさせる。女神エルザに誓って、君のこの指に指輪をはめよう」
私たちはかつて敵同士でした。
獣人王の一言で、獣人たちは私に従うでしょう。けれど、獣人王の伴侶として王妃として隣にいるためには、ふさわしい存在でなければなりません。
そして、共存していく人族にとってもふさわしい王と、王妃でなければならないのです。
彼らにとって私たちは、裏切り者でしかないのですから。
「雪解けが待ち遠しいわ、ディートリヒ」
私がそう答えると、再び二人でシーツの海にじゃれ合うように倒れ込みました。
✤✤✤
反乱のあと、かつてのリーデンブルク辺境伯の城に私たちは移り住みました。
そして、獣人族の解放軍と人族のエルザの守護騎士団が、新たな領主であるアルノーに仕える事になったのです。
この領地をかつての獣人の国として正式に認められるには、このスラティナ地方を支配する、ヴェードル国と交渉し独立しなければなりません。
この数ヶ月、幾度か境界線で小競り合いがあり、その度に自由になった獣人たちと騎士たちによって撃退されたようです。
金獅子と呼ばれた騎士団長のギルベルト様をアルノーに殺害され、反感を持つ騎士も多くいましたが、主人への忠誠や神への奉仕、博愛精神もすべての騎士が持ち合わせているわけではなく、この豊かとは言えない大陸で生きていくためには、新しい主人に仕えるよりほかなかったようです。
けれど、騎士団と解放軍との溝は埋められないままです。
「オリーヴィア様、また獣人の孤児院に行かれるのですか。以前より治安は良くなりましたが……褒められた行動ではありません」
スカーフを頭に巻いた私に、守護騎士団のゲオルクが声をかけてきました。
どこか冷たい、アイスブルーの瞳。
私よりも年上の方で、貴族のギルベルト様よりも戦場を渡り歩いてきた、本物の鋭さを感じられました。
私を、見下すような目で見るのはギルベルト様と政略結婚をしていたにも関わらず、夫を裏切り、反乱を起こした獣人のアルノーと恋人関係にあるからでしょう。
彼の内心は穏やかでは無いはずです。
私は、物心ついた時からずっとアルノーだけを信頼し愛してきました。
政略結婚を決められ、ギルベルト様に嫡男を生むための女だと罵られても、自分の心に嘘をつけず体を許せなかったのです。
自分が、彼の家族や獣人たちを虐殺した敵の娘だと知った時、この命をかけてお父様とともに罪を償うつもりでした。
まさか、アルノーが私を助けに来てくれるとは思わなかったけれど、私たちはたがいに深い愛で結ばれていると確信したのです。
けれど、そんな事情を彼は知らなくて当然です。
「ええ。孤児院に行ったら次は病院へ慰問に行きます。私には医療の心得は無いけれど、これから学んで、獣人と人の役に立ちたいと思っていますわ。また、護衛ですの?」
今の私には、貴族の恩恵はありません。
いいえ、それでいいのです。
たとえこの地を新たに統治するアルノーに恩赦を言い渡されても、私はギルベルト様のお父様を毒殺した悪女、そして処刑を免れた罪人でしかないのですから。
けれど豊穣の女神エルザによって生かされた私の命は、新しい国の民のために使われるべきだと、告げられたような気がしたのです。
廊下を歩く、冷たい靴の音と混じって、板金鎧のぶつかる音がし、ゲオルクが私の後ろを追ってくる気配がしました。
「ディートリヒ様のご命令です。子供であっても獣人は凶暴だ。人族を憎む者が貴女の命を狙うかもしれない」
「――――そうかしら? 毛布もお菓子も人族の子供と同じく喜んでくれるわ。人が恐れるから獣の姿になれないのが不満のようだけれど」
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