【R18】鬼華

蒼琉璃

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鳥籠の蝶

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 ひらひらと蝶々が舞っている。
 美しい羽根が光を浴びてキラキラ光る様子を若菜は楽しそうに眺めていた。
 裸足のまま、鈴音のような愛らしい笑い声を上げ、綺麗な蝶を追い掛けて走っているとゆらりと体のバランスを崩した。
 だが、突然現れた若い天狗に抱きとめられた。

「若菜様。危のうございますよ。転けて怪我でもされたら……鬼蝶様が心配されます」

 若菜を受け止めた若い天狗は、頬を上気させ無垢な若菜の笑顔に頬を染める。
 狂女のように少し乱れた着物から見える乳房が、男の視覚を惑わせた。なにより肌から香る清らかな霊気に当てられしらずしらず体が熱くなってしまうような感覚に襲われ息を呑む。
 
 ここに来たばかりの彼女は怯え、必死に抵抗していたが鬼蝶の媚薬と淫らなしつけ、そして救出が来ないと言う、決定的な残酷な現実を知って徐々に心が壊れていった。
 式神は消え、下界で神の力を使った晴明は天界から処罰された。最愛だった義弟は若菜を記憶から消し、もうこの世に彼女の味方は一人もいなくなってしまった。
 
 安倍晴明によって深手を負わされた法眼を殺害し、天狗の新しい総大将になった鬼蝶。
 法眼よりも統率は厳しく、狂気が見え隠れするが手腕は確かなもので以前よりも増してこの混沌とした人間界で天狗の力を強めていた。
 彼が長い間、側近として鞍馬天狗に付き従っていた事もあるが、なにより的確で決断の速さや駆け引きの巧妙さなど、非常に抜け目がなかった事もあげられる。
 さらに、童子のように可愛らしい顔は、他の妖魔達を油断させるには十分すぎるほどで騙される者も多い。
 その鬼蝶が溺愛するこの人間の娘は『神の繭』という特別な存在だった。
 男の両手が若菜の腕をやんわり掴むと、ビクリと大きく震える。

「やっ……!」

 若菜は怖がるような素振りをして、天狗の手から逃れると、走り始め『遊び場』から『蝶の部屋』へと戻ろうとした。
 襖が開いて、鬼蝶が入ってくると走り寄った若菜を受け止めた。一瞬驚いた若菜が怯えるように、鬼蝶に擦り寄ると胸に顔を埋める。

「どうしたの、若菜」
「きちょう、どこにいってたの?」
「す、すみません。鬼蝶様。若菜様が蝶を追い掛けて転びそうになったところを自分が支えたのですが」
「なるほどねぇ。若菜はさぁ、僕以外の奴に触れられると怖がるんだよ。言ったはずだよねぇ? 何があっても触れるなって……殺されたいの?」
「も、申し訳ありません」

 若菜はビクリと体を震わせると、彼の首元に両手を絡ませると自ら口付けた。
 鬼蝶の怒りを買うと、たとえ部下であろうと容赦なく殺される。それを見る恐怖に耐えられず、若菜はこうして口付けをねだった。
 それにつがいが不機嫌だと、なかなか夜伽から開放してくれず、朝まで寝かせて貰えなくなってしまって体が休まる事がない。

「んっ……んん、きちょう。おかえりなさい。わかな、さみしかったの」
「ごめんよ、若菜。ちょっと妖狐のやつらを従わせるのに時間がかかっちゃったんだよ。ん……ん……番だから少しでも離れると寂しいんだねぇ、アハハ」

 若菜の甘えた声に、気を良くした鬼蝶は若菜の口付けを受け舌を絡めた。呼吸を奪うような淫らな口付けに、若菜の蜂蜜のような瞳が濡れて彼を見上げた。
 片方の目は、鬼蝶とおなじくレースの眼帯をつけられている。
 幼い口調で子供のようになってしまった若菜の柔らかな髪を愛しそうに撫でた。

「ん、若菜。また可愛い眼帯を作らせたよ。お前の髪によく似合う、愛らしいものだ。あいつは腕がいいから、ここで働かせてもいいんだけどねぇ」
「ありがとう、きちょう。ん、ももの、かおりする」

 若菜は鬼蝶の腕に絡みつくと、くんくんと鼻を鳴らせた。着物の袖から桃を取り出した若菜は嬉しそうに目を輝かせる。
 桃は若菜の好物だ。
 鬼蝶から取ろうとすると、手を上に挙げて笑ったので、若菜は子供のように不満そうに唇を尖らせた。そんな可愛らしい仕草も、鬼蝶の心を擽るには十分すぎるほどだ。

「お前が僕に食べさせてくれる? そうだなぁ、風呂に入りながら口移ししてよ。若菜の唾液は甘いから、もっと美味しくなりそうでしょ?」
「ん、いいよ。おふろはいるの? わかながおくちでたべさせてあげる」

 若菜の帯を取ると、さらりと着物が開けてしなやかなで傷一つない裸体があらわになる。
 首筋には鬼蝶がつけた鮮やかな口付けの痕が刻まれていた。
 満足そうにその痕を指でなぞると若菜の体を自分の着物で隠し、淀んど目で棒立ちしていた先程の天狗を睨みつけた。
 若菜も鬼蝶にまとわりつきながら蜜色の瞳でちらりと若い天狗を見る。

「おい、早く用意しろよ。若菜に見惚れてないでさ」 
「は、はい!」

 あの娘の毒に当てられてはいけない。
 何人かの天狗が男女問わず、あの香りに誘われて欲望を抑えきれなくなり、指先が触れる前に首をはねられた。
 あの蜜を貰う事を許されるのは、鬼蝶が皆の前で犯す時だけだ、と若い天狗は自らを戒めた。
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