コインランドリー

蒼琉璃

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第二夜

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 運の悪いことに、引っ越しそうそう洗濯機が壊れてしまった。 
 息子達は野球部で、汚れたユニフォームを洗わないと、明日の試合にはまにあわない。
 脱ぎ散らかした子供の靴下や下着、ユニフォーム、夫の作業衣を持って近くのコインランドリーに向かった。

「今日ばっかりは仕方ないか……明日、午後から旦那と洗濯機見に行くかな」

 腹立たしいことに、夫は昨日の歓迎会で酔いつぶれて二日酔い。なので車が出せず、大荷物を持って慣れない街のコインランドリーまで一人で行かなくちゃいけない。
 引っ越ししたばかりで、このあたりのことはまだ良くわからないけど、近くにコインランドリーがあってラッキーだった。
 昼間でも薄暗くて、使っている人は私の他にいないけど、普通はそういうものなのかもしれない。

「ここのランドリー、本当に使われているのかな。なーんか埃っぽいていうか」

 なんだか気持ち悪い場所。
 私は洗濯物を入れると、近くに座って携帯をいじり始める。
 文字を追っていると日頃の疲れが出たのか眠くなって、壁に持たれながら少し目を閉じた。
 夫がもっと育児に協力的だったら、次は女の子が欲しいと思ってたんだけど、このままじゃ無理そうだわ。

 ――――ギャア
 ――――ンギャア

 赤ちゃんの泣き声のようなものが聞こえて思わず目が覚めた。
 いけない、一時間ちかく寝てたかも。
 あいかわらず私以外は誰もいないし、外で赤ちゃんをあやしたり、抱いて歩いているような人もいないのに、この泣き声はなんだろう。
 猫が盛ってるのかなと思ったけど、春先でもないし……。

「この部屋から聞こえる……?」

 もしかして私が眠っている間に、誰かが置き去りにしたんじゃないかとか、恐ろしいことを想像して、コインランドリーをくまなく探したけど見あたらない。

 ――――ギャア
 ――――ンギャア

 さらに声が激しくなって、それが私の使っているランドリーからだと気が付くと頭が真っ白になった。
 まさか、私が使う前に赤ちゃんが入れられてたの。
 そんなはずない、人の物が入っているのは嫌だから、きちんと確認したし……もしかして、停止してから誰かが赤ちゃんを入れたんじゃないの。
 蓋を開けると部屋中にぐずるような赤ちゃんの声が聞こえて、真っ青になって衣服の中に手を突っ込んだ。
 服の間から見える小さな青白い手がニュッと伸びて私の指を掴み、ユニフォームの隙間から見えた皺だらけの赤ちゃんが、半分だけ顔を出して嫌な笑顔を浮かべていた。



 そこから、私の記憶はありません。
 どう帰ったのかも覚えていません。
 あれから、新しい洗濯機の中で時々あの子が顔を出して笑うんです。

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