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エレンディルの愛玩人形

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 ――――ガタ、ガタッ
 舗装されていない道を人造馬が引いた馬車が走る度に、小石が跳ね飛び、穴が空いた場所に車輪が取られるとその度に大きく中が揺れ、隣と肩がぶつかりあった。軽く睨みつけてくる少女にメリッサは謝罪した。
 車内には、20歳前後の男女数名、押し込められるように乗せられ、それぞれ首輪が付けられていた。
 顔見知りはないが、皆同じ人間ヒューマンで、貧困地区の出身だろう。
 この奴隷商人の馬車の行き先は、エルフの貴族や軍人の屋敷で、彼等に気に入られれば、使用人や兵士になる。そしてエルフの買手が居ない奴隷は、男女とも値段に見合った娼館に売られる事になる。

 更にそこでも引き取って貰えなければ、貧困地区に追い返され、もっと過酷な場所へと売り飛ばされ、死と隣り合わせの強制労働をさせられと言う噂がある。誰もがその噂を恐れて、ボロボロの身なりであるものの、体を綺麗にして必死に買い手を求めていた。
  誰とも気軽に話が出来るような雰囲気は無く、メリッサは重苦しい沈黙に耐えられ無くなって窓から外を見た。

 ――――アルフヘイム。
 エルフの理想郷アルカディア。美しい自然と荘厳な建物、そして高潔で高等な種族が支配する国。思わず、感嘆の溜息が溢れた。

 千年前、人間ヒューマンはこの星の頂点に立っていたが、度重なる破壊兵器を使った戦争と自然破壊によって文明は滅び、絶滅寸前まで数を減らした。
 人間ヒューマンに変わってこの星を支配したのは、高度な文明を持つ耳の尖ったエルフだ。
彼等はこの星の自然を再生させ、愚かで野蛮な人間を制御コントロールする事にした。即ち、保護地区に追いやり、奴隷として人間を管理すると言う事だ。
 メリッサは貧困地区に生まれ、親の借金と兄弟姉妹を養う為に、エルフの奴隷商人に売られこの馬車に乗っている。それを聞かされた時は両親に裏切りと恐怖で涙を流したが、その日の食べ物にも困り、常に飢えている幼い妹と弟を見れば諦めもついた。

「さぁ、お前たち。ウォルフォード家に着いたぞ。此処は比較的人間ヒューマンを買ってくれる貴族だ。使用人でも観賞用でも見世物でもいい、売り込め。早くでろ!」

 恰幅の良い中年のエルフが、鞭を地面に振ると、次々に首輪をした奴隷達が馬車から降りる。そこは自然豊かな美しい庭園に、キラキラと水飛沫が飛び散る噴水、汚れの無い美しいお伽噺の城のような邸が佇んでいて、メリッサは薄い青の瞳を輝かせた。

「なんて綺麗なお屋敷なの。……ここで働けたらいいな」
「おい、立ち止まるな! ウォルフォードご兄弟が待っているぞ」

 急かすように、背中を押されてメリッサは一番最後に屋敷へと入っていった。螺旋階段に大きなシャンデリア。
 大きなソファーは高価なもので、美しい装飾が施されている。恐らくそのお値段は、メリッサの家族が半年働かなくても食べていける程の高価な家具だろう。
 気難しそうな、年老いたエルフの執事が眼鏡をあげ奴隷達を一瞥し、宙に浮いたパネルを操作して、主人を呼び出した。アクセントに癖のある独特な言葉で改まって言う。

「ゴホンッ、エレンディル様、ティリオン様、奴隷の用意が出来ました」

 暫くして、螺旋階段から降りてきたのはアルフヘイムの漆黒の軍服姿の若い男性で、尖った耳、漆黒の髪に青い目をした背の高いハイエルフの美丈夫だった。エルフは男女ともに美しいが、鋭く気高い猛禽類のような美しさで、メリッサは思わず見惚れてしまった。
 同じく、背後から現れたのは銀髪に青い瞳の褐色のエルフ……恐らくダークエルフのようだが、此方は貴族の装いで幾らか華奢なように思える。優男にも見えるが彼もまた目が覚めるような美貌の持ち主だ。
 ウォルフォード兄弟、と聞いていたが義理なのだろうか。
 
「随分と遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「エレンディル兄さん、落ち着いてくれよ。今日は、僕と遠乗りの約束だったのに、奴隷商人が来ると知ったら、子供みたいにはしゃいで……僕には人間ヒューマンの何がいいのやらさっぱりだ。どれも一緒だろ」

 弟と思わしきダークエルフが、ソファーに気怠そうに座ると、早速男女一列に並んだ人間をじっくりと見ている。
 メリッサは一番最後で緊張した面持ちで項垂れていた。やはりこんな風に選別されるのは、気分が良いものではない。足音が近付いてくる度に息が詰まりそうになった。

「そう言うな、ティリオン。人間は面白い生き物だ。時にエルフよりも愛情深く忍耐強い……おい、お前は名をなんと言う」

 不意にメリッサは顎を捕まれ、顔をあげられた。驚いたように目を見開き、その高潔で鋭い眼差しと美しい顔に体が硬直した。何も言えず固まっていると、慌てたようにエルフの奴隷商人が頭を垂れて言う。

「エレンディル様、それは69地区のメリッサです。20歳の雌でして……お名前が気に入らなければお買い上げの際、管理名タグごと変えて頂けるサービスも承っております」
「女なのは見て分かる。メリッサか……良い名だ。おい、こっちに来い」

 メリッサの手を掴むと、ティリオンが座るソファーにドシッと座ると目の前に立たせた。
 困惑して、エレンディルを見つめていると不意にスカートを託しあげて冷たい指先が太ももに触れ、ビクリと体を震わせ赤面した。

「………!」
「スカートを持っていろ。いいなメリッサ」
「ちょっと、エレンディル兄さん……全く本気なの?」

 ティリオンが呆れたように溜息を付き、額を抑えた。こんやに沢山の人が見ているのに、この軍人のエルフは、意に介さず指先を這わせて、下着に触れた。やらかな恥丘の感触を確かめるように、撫でられるとメリッサは、初めての感触に体を震わせた。

(い、いや、こんな所で…この人、何しようとしてるの……!?)

 メリッサは唇を噤んで、耳まで赤くなり目を瞑った。指の腹が下着の間から忍び込み、恥毛の無い閉じた亀裂を上下にゆっくりと擦れると、思わず甘い声をあげてしまう。
 何だか変な気分だ。指が花弁を上下する度に感じた事のないむずむずとした気持ち良さに、思わず潤んだ瞳でエレンディルを見つめた。彼は、楽しげに口角をあげ、意地悪な笑みを浮かべている。

「んっ……んん、っ……ゃ……」
「ようやく声を出したな、メリッサ。お前の華は撫でやすい……ん、指が濡れてきたな。気持ちがいいか? 必死に耐えている姿も愛らしいな」

 表面を撫でる音に、蜜の絡まる音が混じって中指が、未開の花奥に挿入されそうになると、メリッサを思わず無礼を拒絶するように、彼の手を抑えた。

「い、いやっ!!」

 誰の侵入も許していない場所だと、自ら告白するような行動に、エレンディルはニヤリと、笑みを浮かべた。淫らなやり取りに背後の人間たちやエルフの商人は、惚けたり気まずそうにしていたが、メリッサの制する声に青褪め、商人が鞭を取り出した。

「よせ。この人間ヒューマンの娘は俺が貰う。先客がいるなら金は幾らでも用意させる。……いいな?」

 奴隷商人は慌てて鞭を直すと、先程とは打って代わりゴマを擦り始めた。エレンディルの合図で、老いた執事がパネルを浮かび上がらせるた。赤ら顔のエルフの商人も同じように胸元から小型の機械を取り出し、パネルを浮かび上がらせ差し出した。エレンディルがサインをして、執事が手続きを始める。

「エレンディル兄さん……その人間をどうするんだ? 人間のメイドならもう間に合ってるぞ」
「メリッサは俺の愛玩人形にする。先ずはお前の服を用意しなくてはな。おい、風呂に入れてやれ。そして俺の部屋へ連れて来い」
「全く悪趣味だな……しかも人間の女を囲うのか」

 突然の事で一体何が起こっているのか、頭の中で整理できないが、自分はこのエレンディル=ウォルフォードと言うエルフの軍人に買われ、愛玩人形にされるという。

(一体、私……これからどうなっちゃうの……?)

 立ち上がったエレンディルは、不敵な笑顔でメリッサに覗き込んできた。そして指先でふっくらとした唇に触れる。そして耳元まで唇を寄せると甘く低く呟いた。

「そう、不安そうな顔をするなメリッサ。悪いようにはしない。お前には今まで味わえなかった贅沢と、最高の悦楽を教えてやる。身も心もな……返事は?」
「は、はい……エレンディル様」
 
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