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雨宮健の心霊事件簿 ファイル002
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僕は、梨子と別れてばぁちゃんの為に近所の有名な和菓子屋で団子を買うと、マンションに戻った。ばぁちゃんはするすると机に座るとポチッとTVの電源を勝手につける。
僕は、お茶と団子の用意をすると座って何となく疑問に感じていた事を口にした。
「そう言えば、ばぁちゃん。聞きそびれてたけどこの間さ、なんにも憑いてない人を二回視た事があるっていってたけど……なんなの?」
『――――ああ。そんな事言うてたな。
まぁ、守護霊が不在な人間もいるけどね、何も憑いてないのは厄介だ。
ばぁちゃんが視た事があるのは、一人は子供の頃でね。戦時中に敵味方関係なく随分と酷い事をやってた近所の爺さんがいてねぇ。結局、戦後も反社会的な組織に入って酷い事件起こして獄中で死んじまったって聞いたよ。
霊も元は人間だからねぇ、健だって数え切れないくらい沢山殺してる相手には近付きたくないだろう?
そういう奴はね、自分が殺した相手の霊のことなんて恐れないんだ』
僕は、その言葉に背中がゾクゾクした。
でも間宮さんがそんな殺人を犯すようにな凶悪な感じでは無いし、反社会的な組織にいるような人でも無い。やはり僕の勘違いだと思う。
「もう一人はなんなの? やっぱり凶悪犯とか……?」
『――――もう一人は、呪詛使いの九十九一族の長だよ。昔々、あの島に四国から二つの一族が渡って来たんだ。
どちらも元々師匠同じ、大陸の呪術の流れと、日本の土着信仰を組み合わせて島で祓い屋みたいな事をしてたのさ。
九十九家は、蠱毒や犬神を使った呪詛を得意としていて、ほとんど呪い専門でやっていた。昭和には政府の役人や実業家も訪れるほどだったんだよ。
もう一つの一族はね、風水や龍神の力を借りて悪霊や魔を祓っていた。それが雨宮家だ』
いきなり、とんでもないファンタジックな話の展開になって僕は頭にはてなマークが付いた。でも、間宮先生に霊感はなさそうな感じだったし、やはり僕の思い過ごしに違いない。
それに島の人の事はだいたい知っているけどそんな名字の人は記憶に無いのだけど。
「なにそれ、漫画みたいだね。九十九家なんてあったけ? 聞いた事ないよ」
『この島から出ていったからねぇ。どうなったかは知らないけど、雨宮家は九十九家には関わらん。呪詛なんぞやってたら罰が当たるわ』
ばぁちゃんが同業者嫌いなのも、このあたりから来てるのだろうか。両家に何があったかは聞けなかったけど、結局間宮さんはどちらでもないし僕の勘違いにしておこうかな……。
『まぁ、あんたは直ぐに巻き込まれるから体質だから気を付けなさい。さて、お団子、お団子♡』
ばぁちゃんは、団子の魂(?)を食べつつ男性アイドルの番組に見入っていた。なんだか嫌な予感がするけど、僕も団子を食べよう。
ようやく、一息付ける。
✤✤✤
雨宮健の背後にいる守護霊と目が合った事を思い出して僕は笑みを浮かべた。彼女はおそらく雨宮楓だろう。
コートの中で振動する携帯を取ると僕は返事をする。
「僕だ。ああ、やっぱり雨宮健は紅眼の一族だったな。見えてきたよ」
電話を切ると、囚人護送車が人気の無い橋の上で激しくクラクションを鳴らしているのが見えた。僕は、ポケットに手を入れたまま見つめていたが、蛇行した車が壁に激突する。
その背後に黒のセダンが三台停車し、ゆっくりと護送車の扉を開いた。
囚人は一人、有村敏夫、女子中学生めった刺し殺人事件の犯人だった。運転手と、助手席にいた警官は金網越しに即死している。
敏夫は頭から地を流していた。
僕は、向かいの席に座ると足を組んだ。
「うう、いったい……。龍之介くん、どうしてここに……? わ、私を恨んで?」
「有村さん、雨宮くんや天野くんに危害を加えようとしたのはいただけなかったですね。何でもなかったから良かったですけど。貴方は何人もの子供を殺しましたね」
「な、なんだ……私刑でもする気なのか!」
怯えたように噛み付く有村に、僕は若干失望しつつもため息をついて言う。
「いえいえ、我々にとっては貴重な人材なんですよ。連続殺人犯なんて、蠱毒として使うには最高の霊体ですから」
「い、いったい何なんだそれは……何の話なんだ?」
蠱毒は起源は古代中国の少数民族まで遡る。様々な蟲や蛇、小動物を瓶に詰め込み殺し合いをさせ、生き残った物を最後に殺して呪術として使う。
だが僕たちはそれを悪霊やこういった犯罪者の霊体で行う。
僕は、コートのポケットから、くるりとナイフを回すと有村容疑者の喉元を切った。くぐもった悲鳴と血が溢れると、絶命した。
「龍之介様」
「うん」
僕は、古い壷を黒服の男から受け取ると有村敏夫の霊体を掴んで放り込み蓋をして術をかけた。そして、軽やかな足取りで護送車から降りた。
「警視長からこの件の事は任せておくようにと連絡が入りました」
「弁護士とやり合わず、税金も使わないで死刑に出来るならそうだろうね。香織ちゃんの仇も取れたし、いいかな?」
僕はそう言うと、車の後部座席に乗った。木箱に蠱毒を入れると満足する。これで良い仕事が出来そうだ。
それにしても楽しみだな、雨宮くんは次にどんな心霊事件に巻き込まれるんだろう。
僕は彼の能力を評価しているし、様々な心霊事件を呼び寄せる事を興味深く思っている。
いつか彼とも敵対してしまう時が来るかもしれないが、その時はぜひとも紅眼一族のお手並み拝見といきたい。
メッセージ受信の着信音がして僕は液晶画面を見ると笑った。
「ああ、早速何か事件に巻き込まれたようだな」
ファイル002 迷い家と麗しき怪画 完
僕は、お茶と団子の用意をすると座って何となく疑問に感じていた事を口にした。
「そう言えば、ばぁちゃん。聞きそびれてたけどこの間さ、なんにも憑いてない人を二回視た事があるっていってたけど……なんなの?」
『――――ああ。そんな事言うてたな。
まぁ、守護霊が不在な人間もいるけどね、何も憑いてないのは厄介だ。
ばぁちゃんが視た事があるのは、一人は子供の頃でね。戦時中に敵味方関係なく随分と酷い事をやってた近所の爺さんがいてねぇ。結局、戦後も反社会的な組織に入って酷い事件起こして獄中で死んじまったって聞いたよ。
霊も元は人間だからねぇ、健だって数え切れないくらい沢山殺してる相手には近付きたくないだろう?
そういう奴はね、自分が殺した相手の霊のことなんて恐れないんだ』
僕は、その言葉に背中がゾクゾクした。
でも間宮さんがそんな殺人を犯すようにな凶悪な感じでは無いし、反社会的な組織にいるような人でも無い。やはり僕の勘違いだと思う。
「もう一人はなんなの? やっぱり凶悪犯とか……?」
『――――もう一人は、呪詛使いの九十九一族の長だよ。昔々、あの島に四国から二つの一族が渡って来たんだ。
どちらも元々師匠同じ、大陸の呪術の流れと、日本の土着信仰を組み合わせて島で祓い屋みたいな事をしてたのさ。
九十九家は、蠱毒や犬神を使った呪詛を得意としていて、ほとんど呪い専門でやっていた。昭和には政府の役人や実業家も訪れるほどだったんだよ。
もう一つの一族はね、風水や龍神の力を借りて悪霊や魔を祓っていた。それが雨宮家だ』
いきなり、とんでもないファンタジックな話の展開になって僕は頭にはてなマークが付いた。でも、間宮先生に霊感はなさそうな感じだったし、やはり僕の思い過ごしに違いない。
それに島の人の事はだいたい知っているけどそんな名字の人は記憶に無いのだけど。
「なにそれ、漫画みたいだね。九十九家なんてあったけ? 聞いた事ないよ」
『この島から出ていったからねぇ。どうなったかは知らないけど、雨宮家は九十九家には関わらん。呪詛なんぞやってたら罰が当たるわ』
ばぁちゃんが同業者嫌いなのも、このあたりから来てるのだろうか。両家に何があったかは聞けなかったけど、結局間宮さんはどちらでもないし僕の勘違いにしておこうかな……。
『まぁ、あんたは直ぐに巻き込まれるから体質だから気を付けなさい。さて、お団子、お団子♡』
ばぁちゃんは、団子の魂(?)を食べつつ男性アイドルの番組に見入っていた。なんだか嫌な予感がするけど、僕も団子を食べよう。
ようやく、一息付ける。
✤✤✤
雨宮健の背後にいる守護霊と目が合った事を思い出して僕は笑みを浮かべた。彼女はおそらく雨宮楓だろう。
コートの中で振動する携帯を取ると僕は返事をする。
「僕だ。ああ、やっぱり雨宮健は紅眼の一族だったな。見えてきたよ」
電話を切ると、囚人護送車が人気の無い橋の上で激しくクラクションを鳴らしているのが見えた。僕は、ポケットに手を入れたまま見つめていたが、蛇行した車が壁に激突する。
その背後に黒のセダンが三台停車し、ゆっくりと護送車の扉を開いた。
囚人は一人、有村敏夫、女子中学生めった刺し殺人事件の犯人だった。運転手と、助手席にいた警官は金網越しに即死している。
敏夫は頭から地を流していた。
僕は、向かいの席に座ると足を組んだ。
「うう、いったい……。龍之介くん、どうしてここに……? わ、私を恨んで?」
「有村さん、雨宮くんや天野くんに危害を加えようとしたのはいただけなかったですね。何でもなかったから良かったですけど。貴方は何人もの子供を殺しましたね」
「な、なんだ……私刑でもする気なのか!」
怯えたように噛み付く有村に、僕は若干失望しつつもため息をついて言う。
「いえいえ、我々にとっては貴重な人材なんですよ。連続殺人犯なんて、蠱毒として使うには最高の霊体ですから」
「い、いったい何なんだそれは……何の話なんだ?」
蠱毒は起源は古代中国の少数民族まで遡る。様々な蟲や蛇、小動物を瓶に詰め込み殺し合いをさせ、生き残った物を最後に殺して呪術として使う。
だが僕たちはそれを悪霊やこういった犯罪者の霊体で行う。
僕は、コートのポケットから、くるりとナイフを回すと有村容疑者の喉元を切った。くぐもった悲鳴と血が溢れると、絶命した。
「龍之介様」
「うん」
僕は、古い壷を黒服の男から受け取ると有村敏夫の霊体を掴んで放り込み蓋をして術をかけた。そして、軽やかな足取りで護送車から降りた。
「警視長からこの件の事は任せておくようにと連絡が入りました」
「弁護士とやり合わず、税金も使わないで死刑に出来るならそうだろうね。香織ちゃんの仇も取れたし、いいかな?」
僕はそう言うと、車の後部座席に乗った。木箱に蠱毒を入れると満足する。これで良い仕事が出来そうだ。
それにしても楽しみだな、雨宮くんは次にどんな心霊事件に巻き込まれるんだろう。
僕は彼の能力を評価しているし、様々な心霊事件を呼び寄せる事を興味深く思っている。
いつか彼とも敵対してしまう時が来るかもしれないが、その時はぜひとも紅眼一族のお手並み拝見といきたい。
メッセージ受信の着信音がして僕は液晶画面を見ると笑った。
「ああ、早速何か事件に巻き込まれたようだな」
ファイル002 迷い家と麗しき怪画 完
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