迷い家と麗しき怪画〜雨宮健の心霊事件簿〜②

蒼琉璃

文字の大きさ
上 下
39 / 39

雨宮健の心霊事件簿 ファイル002

しおりを挟む
 僕は、梨子と別れてばぁちゃんの為に近所の有名な和菓子屋で団子を買うと、マンションに戻った。ばぁちゃんはするすると机に座るとポチッとTVの電源を勝手につける。
 僕は、お茶と団子の用意をすると座って何となく疑問に感じていた事を口にした。

「そう言えば、ばぁちゃん。聞きそびれてたけどこの間さ、なんにも憑いてない人を二回視た事があるっていってたけど……なんなの?」
『――――ああ。そんな事言うてたな。
 まぁ、守護霊が不在な人間もいるけどね、何も憑いてないのは厄介だ。
 ばぁちゃんが視た事があるのは、一人は子供の頃でね。戦時中に敵味方関係なく随分と酷い事をやってた近所の爺さんがいてねぇ。結局、戦後も反社会的な組織に入って酷い事件起こして獄中で死んじまったって聞いたよ。
 霊も元は人間だからねぇ、健だって数え切れないくらい沢山殺してる相手には近付きたくないだろう?
 そういう奴はね、自分が殺した相手の霊のことなんて恐れないんだ』

 僕は、その言葉に背中がゾクゾクした。
 でも間宮さんがそんな殺人を犯すようにな凶悪な感じでは無いし、反社会的な組織にいるような人でも無い。やはり僕の勘違いだと思う。

「もう一人はなんなの? やっぱり凶悪犯とか……?」
『――――もう一人は、呪詛使いの九十九つくも一族の長だよ。昔々、あの島に四国から二つの一族が渡って来たんだ。
 どちらも元々師匠同じ、大陸の呪術の流れと、日本の土着信仰を組み合わせて島で祓い屋みたいな事をしてたのさ。
 九十九家は、蠱毒こどくや犬神を使った呪詛を得意としていて、ほとんど呪い専門でやっていた。昭和には政府の役人や実業家も訪れるほどだったんだよ。
 もう一つの一族はね、風水や龍神の力を借りて悪霊や魔を祓っていた。それが雨宮家だ』

 いきなり、とんでもないファンタジックな話の展開になって僕は頭にはてなマークが付いた。でも、間宮先生に霊感はなさそうな感じだったし、やはり僕の思い過ごしに違いない。
 それに島の人の事はだいたい知っているけどそんな名字の人は記憶に無いのだけど。

「なにそれ、漫画みたいだね。九十九家なんてあったけ? 聞いた事ないよ」
『この島から出ていったからねぇ。どうなったかは知らないけど、雨宮家は九十九家には関わらん。呪詛なんぞやってたら罰が当たるわ』

 ばぁちゃんが同業者嫌いなのも、このあたりから来てるのだろうか。両家に何があったかは聞けなかったけど、結局間宮さんはどちらでもないし僕の勘違いにしておこうかな……。

『まぁ、あんたは直ぐに巻き込まれるから体質だから気を付けなさい。さて、お団子、お団子♡』

 ばぁちゃんは、団子の魂(?)を食べつつ男性アイドルの番組に見入っていた。なんだか嫌な予感がするけど、僕も団子を食べよう。 
 ようやく、一息付ける。

✤✤✤

 雨宮健の背後にいる守護霊と目が合った事を思い出して僕は笑みを浮かべた。彼女はおそらく雨宮楓だろう。
 コートの中で振動する携帯を取ると僕は返事をする。

「僕だ。ああ、やっぱり雨宮健は紅眼べにめの一族だったな。見えてきたよ」

 電話を切ると、囚人護送車が人気の無い橋の上で激しくクラクションを鳴らしているのが見えた。僕は、ポケットに手を入れたまま見つめていたが、蛇行した車が壁に激突する。
 その背後に黒のセダンが三台停車し、ゆっくりと護送車の扉を開いた。

 囚人は一人、有村敏夫ありむらとしお、女子中学生めった刺し殺人事件の犯人だった。運転手と、助手席にいた警官は金網越しに即死している。
 敏夫は頭から地を流していた。
 僕は、向かいの席に座ると足を組んだ。

「うう、いったい……。龍之介くん、どうしてここに……? わ、私を恨んで?」
「有村さん、雨宮くんや天野くんに危害を加えようとしたのはいただけなかったですね。何でもなかったから良かったですけど。貴方は何人もの子供を殺しましたね」
「な、なんだ……私刑でもする気なのか!」

 怯えたように噛み付く有村に、僕は若干失望しつつもため息をついて言う。

「いえいえ、我々にとっては貴重な人材なんですよ。連続殺人犯なんて、蠱毒こどくとして使うには最高の霊体ですから」
「い、いったい何なんだそれは……何の話なんだ?」

 蠱毒は起源は古代中国の少数民族までさかのぼる。様々なむしや蛇、小動物を瓶に詰め込み殺し合いをさせ、生き残った物を最後に殺して呪術として使う。
 だが僕たちはそれを悪霊やこういった犯罪者の霊体で行う。
 僕は、コートのポケットから、くるりとナイフを回すと有村容疑者の喉元を切った。くぐもった悲鳴と血が溢れると、絶命した。

「龍之介様」 
「うん」

 僕は、古い壷を黒服の男から受け取ると有村敏夫の霊体を掴んで放り込み蓋をして術をかけた。そして、軽やかな足取りで護送車から降りた。

「警視長からこの件の事は任せておくようにと連絡が入りました」
「弁護士とやり合わず、税金も使わないで死刑に出来るならそうだろうね。香織ちゃんの仇も取れたし、いいかな?」

 僕はそう言うと、車の後部座席に乗った。木箱に蠱毒を入れると満足する。これで良い仕事が出来そうだ。
 それにしても楽しみだな、雨宮くんは次にどんな心霊事件に巻き込まれるんだろう。
 僕は彼の能力を評価しているし、様々な心霊事件を呼び寄せる事を興味深く思っている。
 いつか彼とも敵対してしまう時が来るかもしれないが、その時はぜひとも紅眼べにめ一族のお手並み拝見といきたい。
 メッセージ受信の着信音がして僕は液晶画面を見ると笑った。

「ああ、早速何か事件に巻き込まれたようだな」



 ファイル002 迷い家と麗しき怪画 完
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

夜薙 実寿
2024.05.18 夜薙 実寿

健くんシリーズ第二弾、読了致しました!
久々に読んだけれど、やっぱり面白いなぁ( *´艸`)
まさか、絵画事件のみならず、殺人事件の方まで解決に導いてしまうとは!
梨子ちゃんもしっかり活躍してたし、驚愕の黒幕発表(?)もありけりで、かなり満足度の高い一冊でした!(`・ω・´)フンスッ!
新キャラの琉花ちゃんも可愛いぞぉお!!最初、胡散臭そうとか思ってゴメンね!(笑)
琉花ちゃんの健くんへの態度なんかも、見てて、おやや?とニヨニヨしてしまいましたわ( *◜ω◝ )これは……今後が楽しみですね!
第三弾もまた楽しく伺わせて頂きます!( •̀•́ )キリッ✧︎
素敵な作品をありがとうございました!!

蒼琉璃
2024.05.20 蒼琉璃

わー!!感想ありがとうございます!気づかずに承認遅くなりました💦
このお話しはホラーとミステリーをやりたくて書いてみました。そうなんですよ、琉花もお気に入りのキャラです。お暇な時に楽しんで頂けたら嬉しい\(^o^)/

解除
樹結理(きゆり)

②読了~!
まさかの犯人とまさかの人がラストに……
おぉ、面白いですー!!
健くんの恋愛模様も気になります( *´艸`)✨
③も楽しみです✨
一気読み出来るから楽しい✨

蒼琉璃
2023.08.29 蒼琉璃

樹結理さん、ありがとうございます!シリーズ②まで一気読みして頂いて(*^^*)♡
健はもだもだしておりますねー!!!!③もぜひ楽しんで頂けたら!ありがとうございます❤

解除

あなたにおすすめの小説

バベル病院の怪

中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。 大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。 最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。 そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。 その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める—— 「次は、君の番だよ」

日常怪談〜穢〜

蒼琉璃
ホラー
何気ない日常で誰かの身に起こったかもしれない恐怖。 オムニバスの短編ホラーです。エブリスタでも投稿しています。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

アララギ兄妹の現代心霊事件簿【奨励賞大感謝】

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「令和のお化け退治って、そんな感じなの?」 2020年、春。世界中が感染症の危機に晒されていた。 日本の高校生の工藤(くどう)直歩(なほ)は、ある日、弟の歩望(あゆむ)と動画を見ていると怪異に取り憑かれてしまった。 『ぱぱぱぱぱぱ』と鳴き続ける怪異は、どうにかして直歩の家に入り込もうとする。 直歩は同級生、塔(あららぎ)桃吾(とうご)にビデオ通話で助けを求める。 彼は高校生でありながら、心霊現象を調査し、怪異と対峙・退治する〈拝み屋〉だった。 どうにか除霊をお願いするが、感染症のせいで外出できない。 そこで桃吾はなんと〈オンライン除霊〉なるものを提案するが――彼の妹、李夢(りゆ)が反対する。 もしかしてこの兄妹、仲が悪い? 黒髪眼鏡の真面目系男子の高校生兄と最強最恐な武士系ガールの小学生妹が 『現代』にアップグレードした怪異と戦う、テンション高めライトホラー!!! ‎✧ 表紙使用イラスト……シルエットメーカーさま、シルエットメーカー2さま

植物人-しょくぶつびと-

一綿しろ
ホラー
植物の様に水と太陽光で必要な養分を作る機能を持った人間「植物人」を生み出す薬を作った男がいた。 男は病から人を救うと言う名目でその薬を使い続ける。 だが、薬を奪われない限り枯れない植物「植物化」になってしまう者、人から精気を喰らう化け物「植物妖」になり果てる者が大半だった。 男は結局は病で死んだ。多くの植物人、植物妖たちを残して。 これはその薬から生まれた植物化、植物妖たちを枯る「殺め」になった男の話。 ※同タイトルの作品があった為、タイトルや造語を変更しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。