36 / 39
未解決事件の真相①
しおりを挟む
僕は、患者衣を着させられていたが、そんな事はお構い無しで靴に履き替えると琉花さんが声をかけてきた。
「なんだか知らないけど、琉花も一緒にいく! 琉花も初心者マークだけど、病人に運転なんてさせて、事故起こしたりしたら困るもん」
「い、いや……でも、真砂さん。これから行くところは危険な人物がいるんだよ」
「言っとくけど、琉花はこれでも空手もやってたし、護身術の達人でもあるの。あんたより何倍も運動神経はいいんだけど!」
琉花さんの気迫に押されつつ、僕はとりあえず彼女に運転を頼む事にした。初心者マークなのは不安だけど、免許証を持っていない僕が今捕まるわけにはいかない。
僕達は看護師と医者の目をかいくぐって駐車場まで辿り着くと、琉花さんの車の助手席に乗り込んだ。
「で、琉花はどこを目指せばいいわけ? 目的地に着くまで、何が起こってるのか説明してよね」
「ああ、えっと……とりあえず、視えた道を指示するからそこに向かって、時間がないんだ」
目的地はわからないが、犯人の視界をジャックして車が走った場所ははっきりと覚えている。琉花さんを巻き込むつもりはなかったけどとにかく僕は梨子を助けたい。
僕は、彼女に指示するとその場所に覚えがあるのかニヤリと不敵に笑った。
「そこ、知ってる。心霊スポットになってる廃ラブホテルでしょ。だったらあんまり車通らないし飛ばせる」
「えっ、わっ!」
そう言うと、琉花さんは荒っぽい運転で車を走らせた。
✤✤✤
真っ白な光に包まれて、私は思わず目を閉じた。だんだんと光が収まって、ゆっくりと目を開けるとそこには、克明さんが倒れていた。
「克明さん! 大丈夫ですか!」
私は慌てて、倒れ込んでいる克明さんに駆け寄った。呼吸もしているし、生きてはいるがひどく衰弱しきっていた。
浅野清史郎が、克明さんをこの世界に引き戻したのだろうか、一緒にいた健くんも意識を取り戻したのかも知れないと思うと、安堵して深く息を吐いた。
とりあえず、私は救急車を呼ぼうとiPhoneを取り出す。すると、手の内でバイブレーションの振動がして、誰からか電話がかかってきた。間宮先生が私を心配してかけてきたのかと思って、私は液晶画面を見た。
「知らない番号からだ……一体誰?」
普段なら、無視して着信拒否の設定をするところだけど、私はなんだかその電話に出なければいけないような気持ちになってしまっていた。
「も、もしもし……、天野ですが」
『梨子、僕だよ!』
「健くんっ、意識が戻ったんだね、良かった! もう大丈夫なの?」
『そんな事は後でいいからっ、梨子。今すぐそこを離れるんだ! 香織ちゃんを殺した犯人がそこにいるんだよ!』
私の言葉を遮るように、健くんは切羽詰まったように話した。普段こんな荒い口調で話すような人では無いし、こんな趣味の悪い冗談を言うようなタイプではない。
香織ちゃんを殺した犯人がここにいるとは一体どういう事だろう。ここには、私と間宮先生しかいないはずだ。
私が彼に問い掛けようとした時、何者かの気配を感じて、私は無意識に振り返った。
「――――っ!!」
懐中電灯の光を向けた瞬間、スパナを持った中年の男が眩しい光に目を背けた。私は、反射的に横に反れると、鈍く風を切るような音がした。
「だ、誰なの!! 貴方が香織ちゃんを殺し……えっ!?」
私はとっさに体を起こして、暗闇の中に浮かぶ人物を見て絶句した。まさか、予想していなかった人物がそこには立っている。
――――有村香織の父親だ。
「なぜだ……、どうして……いまさら香織の事を調べたんだ。克明くんを探すなんて口実だったんだろう。何が目的なんだ」
「貴方が……犯人だったんですね、でもどうして!」
眼鏡の奥の、血走った目を見つめながら私は震える声で聞いた。運動神経は人よりいいつもりだけど、相手は中年とはいえ丸腰で男の人となんてやり合えない。
「殺すつもりは無かったさ……。ずっと香織への気持ちを抑えていた。だけど、あの子は……私のコレクションに気付いてしまったんだ。
香織は母親譲りで賢い子だったんだ。セーラー服姿も、昔の妻とそっくりでね。だから……よせば良いのに調べ始めた」
私は、香織ちゃんらしき霊が落とした未解決事件が考察された本を思いだした。殺された被害者は、どれも黒髪のセーラー服姿の少女。
年格好も彼女と変わらないような少女ばかりを狙っている。
この男は、実の娘に対して歪んだ愛情を持っていた。一度目の事件では歪んだ欲望を爆発させて少女を殺害し、それから犯行に気付いた実の娘を殺害したのだろうか。
「私の出張先と、殺人事件のあった場所の接点に調べてね。当時はどうやって殺されたかなんて簡単に世間にわかってしまうような時代だった。魔が差したんだ……悪戯するつもりだったが騒がれて……殺した時、私は興奮してしまった。
彼女との思い出を持っていたくて、体の一部を取ると持って帰った」
「最低……! 自分の娘まで手にかけるなんて」
男は薄ら笑いを浮かべると、スパナを向けながらゆっくりと歩いてくる。
「殺すつもりは無かった。自首して欲しいと泣かれたよ。でも私は幸せな家庭を壊したくなかった……多感な時期に母親は必要だろう? 娘の成長も見たかった。
あの子は、克明くんに懐いていて、本当の家族はお兄ちゃんだけだと言ったんだ。島を離れて克明くんの側にいるとね!
私は香織の為に必死に働いていたんだよ、それを裏切るなんて……! 私を捨ててどこかに行くくらいなら殺したほうがいい」
「なんて身勝手な人なのっ……」
私の声は震えていた。
逃げようとしても体が動かない。
スパナを振り上げて、犯人が踏込もうとした時、何かに足を取られてたかのように、男は体制を崩して転倒した。
スパナが転がる音がして私は現実に戻った。
「にげ……ろ!」
克明さんが、犯人の足首を掴んで転倒させたようだ。私は弾かれたように逃げ出す。
犯人は、克明さんの存在に驚き目を見開くと手を蹴りつけ立ち上がり追い掛けてきた。
「か、克明くん! 生きてたのか、離せっ……! 待てぇ! 殺してやる!」
「なんだか知らないけど、琉花も一緒にいく! 琉花も初心者マークだけど、病人に運転なんてさせて、事故起こしたりしたら困るもん」
「い、いや……でも、真砂さん。これから行くところは危険な人物がいるんだよ」
「言っとくけど、琉花はこれでも空手もやってたし、護身術の達人でもあるの。あんたより何倍も運動神経はいいんだけど!」
琉花さんの気迫に押されつつ、僕はとりあえず彼女に運転を頼む事にした。初心者マークなのは不安だけど、免許証を持っていない僕が今捕まるわけにはいかない。
僕達は看護師と医者の目をかいくぐって駐車場まで辿り着くと、琉花さんの車の助手席に乗り込んだ。
「で、琉花はどこを目指せばいいわけ? 目的地に着くまで、何が起こってるのか説明してよね」
「ああ、えっと……とりあえず、視えた道を指示するからそこに向かって、時間がないんだ」
目的地はわからないが、犯人の視界をジャックして車が走った場所ははっきりと覚えている。琉花さんを巻き込むつもりはなかったけどとにかく僕は梨子を助けたい。
僕は、彼女に指示するとその場所に覚えがあるのかニヤリと不敵に笑った。
「そこ、知ってる。心霊スポットになってる廃ラブホテルでしょ。だったらあんまり車通らないし飛ばせる」
「えっ、わっ!」
そう言うと、琉花さんは荒っぽい運転で車を走らせた。
✤✤✤
真っ白な光に包まれて、私は思わず目を閉じた。だんだんと光が収まって、ゆっくりと目を開けるとそこには、克明さんが倒れていた。
「克明さん! 大丈夫ですか!」
私は慌てて、倒れ込んでいる克明さんに駆け寄った。呼吸もしているし、生きてはいるがひどく衰弱しきっていた。
浅野清史郎が、克明さんをこの世界に引き戻したのだろうか、一緒にいた健くんも意識を取り戻したのかも知れないと思うと、安堵して深く息を吐いた。
とりあえず、私は救急車を呼ぼうとiPhoneを取り出す。すると、手の内でバイブレーションの振動がして、誰からか電話がかかってきた。間宮先生が私を心配してかけてきたのかと思って、私は液晶画面を見た。
「知らない番号からだ……一体誰?」
普段なら、無視して着信拒否の設定をするところだけど、私はなんだかその電話に出なければいけないような気持ちになってしまっていた。
「も、もしもし……、天野ですが」
『梨子、僕だよ!』
「健くんっ、意識が戻ったんだね、良かった! もう大丈夫なの?」
『そんな事は後でいいからっ、梨子。今すぐそこを離れるんだ! 香織ちゃんを殺した犯人がそこにいるんだよ!』
私の言葉を遮るように、健くんは切羽詰まったように話した。普段こんな荒い口調で話すような人では無いし、こんな趣味の悪い冗談を言うようなタイプではない。
香織ちゃんを殺した犯人がここにいるとは一体どういう事だろう。ここには、私と間宮先生しかいないはずだ。
私が彼に問い掛けようとした時、何者かの気配を感じて、私は無意識に振り返った。
「――――っ!!」
懐中電灯の光を向けた瞬間、スパナを持った中年の男が眩しい光に目を背けた。私は、反射的に横に反れると、鈍く風を切るような音がした。
「だ、誰なの!! 貴方が香織ちゃんを殺し……えっ!?」
私はとっさに体を起こして、暗闇の中に浮かぶ人物を見て絶句した。まさか、予想していなかった人物がそこには立っている。
――――有村香織の父親だ。
「なぜだ……、どうして……いまさら香織の事を調べたんだ。克明くんを探すなんて口実だったんだろう。何が目的なんだ」
「貴方が……犯人だったんですね、でもどうして!」
眼鏡の奥の、血走った目を見つめながら私は震える声で聞いた。運動神経は人よりいいつもりだけど、相手は中年とはいえ丸腰で男の人となんてやり合えない。
「殺すつもりは無かったさ……。ずっと香織への気持ちを抑えていた。だけど、あの子は……私のコレクションに気付いてしまったんだ。
香織は母親譲りで賢い子だったんだ。セーラー服姿も、昔の妻とそっくりでね。だから……よせば良いのに調べ始めた」
私は、香織ちゃんらしき霊が落とした未解決事件が考察された本を思いだした。殺された被害者は、どれも黒髪のセーラー服姿の少女。
年格好も彼女と変わらないような少女ばかりを狙っている。
この男は、実の娘に対して歪んだ愛情を持っていた。一度目の事件では歪んだ欲望を爆発させて少女を殺害し、それから犯行に気付いた実の娘を殺害したのだろうか。
「私の出張先と、殺人事件のあった場所の接点に調べてね。当時はどうやって殺されたかなんて簡単に世間にわかってしまうような時代だった。魔が差したんだ……悪戯するつもりだったが騒がれて……殺した時、私は興奮してしまった。
彼女との思い出を持っていたくて、体の一部を取ると持って帰った」
「最低……! 自分の娘まで手にかけるなんて」
男は薄ら笑いを浮かべると、スパナを向けながらゆっくりと歩いてくる。
「殺すつもりは無かった。自首して欲しいと泣かれたよ。でも私は幸せな家庭を壊したくなかった……多感な時期に母親は必要だろう? 娘の成長も見たかった。
あの子は、克明くんに懐いていて、本当の家族はお兄ちゃんだけだと言ったんだ。島を離れて克明くんの側にいるとね!
私は香織の為に必死に働いていたんだよ、それを裏切るなんて……! 私を捨ててどこかに行くくらいなら殺したほうがいい」
「なんて身勝手な人なのっ……」
私の声は震えていた。
逃げようとしても体が動かない。
スパナを振り上げて、犯人が踏込もうとした時、何かに足を取られてたかのように、男は体制を崩して転倒した。
スパナが転がる音がして私は現実に戻った。
「にげ……ろ!」
克明さんが、犯人の足首を掴んで転倒させたようだ。私は弾かれたように逃げ出す。
犯人は、克明さんの存在に驚き目を見開くと手を蹴りつけ立ち上がり追い掛けてきた。
「か、克明くん! 生きてたのか、離せっ……! 待てぇ! 殺してやる!」
10
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
二人称・短編ホラー小説集 『あなた』
シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
5A霊話
ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。
初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い……
少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。
月のない夜 終わらないダンスを
薊野ざわり
ホラー
イタリアはサングエ、治安は下の下。そんな街で17歳の少女・イノリは知人宅に身を寄せ、夜、レストランで働いている。
彼女には、事情があった。カーニバルのとき両親を何者かに殺され、以降、おぞましい姿の怪物に、付けねらわれているのだ。
勤務三日目のイノリの元に、店のなじみ客だというユリアンという男が現れる。見た目はよくても、硝煙のにおいのする、関わり合いたくないタイプ――。逃げるイノリ、追いかけるユリアン。そして、イノリは、自分を付けねらう怪物たちの正体を知ることになる。
ソフトな流血描写含みます。改稿前のものを別タイトルで小説家になろうにも投稿済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる